第29話 聖女の簡単なお仕事
私は魔王をブッ叩くだけの簡単なお仕事を受けた。
SSSランク上位と認定を受ける為、ギルドの調査員、ミレイユさんにも同行してもらっている。
現在、馬車で魔王の城へ向かっているところだ。
「ミレイユさんは№1受付嬢だけじゃなくて、調査員も兼ねていたんですね。」
ミレイユさんは照れているようで顔が赤い。
「あの、それは恥ずかしいので言わないで下さい。」
「そうですか? 分かりました。」
ミレイユさんは元クリミア王国のAランク冒険者だったようで、婚活の為に引退して受付嬢になったそうだ。
どうして冒険者を引退したんだろう?
「あまり強すぎると男性が寄って来なくなるんです。私は相手の強さは気にしないんですが、男性の方は気にする人が多くて……。」
話を聞くところによると、Aランク認定された時点で恐らくSランク程度には強かったそうで、婚期を逃さないようこれ以上上のランクを貰う前に引退したのだとか。
「Aランク認定された時点で、手遅れな気がするけどな。」
ギャモーったら、そんな事を言ってはダメよ。
「でも、今は彼氏がいるんですよね?」
「はい。聖女様のお蔭で晴れてお付き合いする事が出来ました。ありがとうございます。」
以前私達の護衛をしてくれた、護衛隊の隊長さんとお付き合いする事になったのだとか。
「いえいえ。こちらこそ、いつもお世話になっていますから。」
「相手は元Aランク冒険者ってのは知ってんのか?」
「それに関しては、お話したらすんなり受け入れてくれました。」
「それは良かったですね。」
「はい。私よりも強くなれるよう頑張ると言ってくれたんです。」
ミレイユさんは嬉しそうに言った。
「それは嬉しいですね。」
ギャモーも言わないだけで、実はそう思っている可能性があるわ。
今度、修業つけてあげようかしら?
「おい。あれが魔王の城か?」
ギャモーが示した方向には、黒い立派なお城があった。
「もしかして、魔王を追い出したら私のお城になりますか?」
「え? あの……魔王を追い出されると困ります。行方が分からなくなってしまいますので。」
魔王の行方が分からないと人類的には不安なようね。仕方ないから諦めよう。
それに、追い出しちゃうとお母さんに叱られるかもしれない。
「追い出さないでおきます。」
「そうして下さい。」
私達は魔王の城に乗り込んだ。城内は広く、なかなかセンスの良い内装だった。どんどん奥へと進みながら雑談する。
「ギャモー。私、ここに住んでみたいです。」
「それは無理だろ。」
「戦った後に交渉してみても良いですか?」
「流石に無理だと思うんだが……。」
「仮に許されても、寝首をかかれるかもしれませんよ?」
「聖女の祈りが使えるので大丈夫です。」
「そ、そうですか。」
ミレイユさんは心配症ね。
私達は大きな扉の前に辿り着いた。扉の向こうからは強そうな気配を感じる。グレータードラゴンよりも強いわ。
「開けますね。」
扉が大きな音を立てて開き、中には恐らく魔王と思われる存在が待っていた。
「良く来たな。人間の癖に俺に挑もうなどと……」
魔王が引き攣った顔で私を凝視している。何故?
「ま、まじょ……様。」
冷や汗を流し、後ろに一歩下がる魔王。
「お願いします! 今日は叩かないで下さい!」
これは、お母さんと私を勘違いしているわね。
「あの……」
「ひぃぃぃ!!」
魔王は蹲ってしまった。
「お前の母ちゃん、どんだけ酷ぇ事したんだよ。」
「SSSランク中位がここまで怯えるなんて……。」
これじゃ戦いにならない。
「私は……」
「ひぃぃぃ!! お許しを!」
「話を……」
「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!」
「話聞けやゴラァ!!」
私は思わず床を踏みつけた。
ドン!!! と大きな音が響く。床はビシビシとひび割れ、城全体が揺れている。
思わず力が入ってしまったけど、このくらいで壊れるなんてきっと手抜き建築のお城なんだわ。
「はい! すみませんでした! 本日はどのようなご用件でしょうか!」
なんだ。ちゃんと話を聞けるんじゃない。
「初めまして。私、絶対暴力の魔女の娘、アリエンナと申します。今日は魔王さんをブッ叩きに参りました。」
「そうでしたか。魔女様の娘さんでしたか。どうも御叮嚀に……魔女の娘だと?」
「はい。」
「ふっ……はははははは!!」
魔王が突然笑い出す。
「どうかしましたか?」
「魔女でないのなら恐れる必要はない! お前を相手に魔女への恨みを晴らすとしよう。」
恨みを私にぶつけられても困るんだけど。
「……ひょっとして魔王って馬鹿なのか?」
「そうかもしれません。」
ギャモーとミレイユさんは魔王を無視して話している。魔王が馬鹿ってどういう事?
「この城は魔王の強大な魔力が浸透していて、その強度は魔王の肉体と同レベルなんです。」
「つまり……城の床を軽々と破壊するアリエンナの攻撃力は、魔王を容易に痛めつけるレベルだって事だ。そういうワケで、娘だからと舐めている魔王が馬鹿だって言ったんだ。」
「何をコソコソと話している!」
そう言って魔王が私に向かってきた。
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