第23話 聖女の加減

「おい。ホントに手を出さん方が良いぞ。」


 ギャモーが私を庇ってくれる。嬉しいわ。


「何だ? お前が相手してくれんのか?」


「やべぇ。ミンチが出来ちまう……。」


 ギャモーったら失礼ね。元SSランクならちょっと小突いたくらいじゃミンチにならないはずよ。多分。


「言う事を聞かねえってんなら、力づくで行くぞ!!」


 そう言って火炎のゼンは炎を纏って私に突撃してきた。


 こうなったら仕方ない。


「えい。」



 ドギャッ!!



「ぶへぇっ!!」



 変な声を出して吹っ飛んでいく元SSランク。


「全く。どうして人の話を聞いてくれないんでしょう?」


 グレーターデーモンよりも吹っ飛ばない。この人強いかも。


「よいしょ。」



 ドギャッ!!



「お、おい。そいつもう伸びてるぞ。」


 流石は元SSランク。それなりの力でブッ叩いてもミンチにならないわ。


 もしかしたら、私の加減が上手いのかもしれない。


 うん。きっとそうね。


「なぁ。そいつどうすんだ?」


「間違えて叩いてしまったので、謝りましょう。」


 私は回復魔法をかけてやった。


「うっ……。」


「大丈夫ですか? いきなり人に襲い掛かってはいけませんよ?」


 目が覚めた男を諭してあげた。


「いきなり魔物をけしかけたお前には言われたくねぇ!」



 ドギャッ!!



「あっ。手が滑ってしまいました。」


「おい。謝るんじゃねぇのか?」


 ギャモーがジト目で私を見る。


 なによ。


「人は時に間違える事もあります。」


「……。」


 ギャモーは分かってくれたようで、静かにしている。


 もう一度男に回復魔法をかけてあげた。


「大丈夫ですか? いきなり人に襲い掛かってはいけませんよ?」


「くっ! 先にそっちから仕掛けてきたじゃねぇか。何でお前にそんな事言われなきゃ……」



 ドギャッ!!



「あっ。間違えちゃいました。」


「可愛く言ってもダメだぞ。」


 ギャモーが褒めてくれた。嬉しいわ。


「仕方ありません。また回復してあげましょう。」


 私は三度目の回復魔法を使用した。


 いい加減この男にも学習して欲しい。このままだとウッカリ加減を間違えかねないじゃないの。


「大丈夫ですか? いきなり人に襲い掛かってはいけませんよ? 返事しろオラッ!」


 私は少し厳し目に注意した。


「すっ……すいやせんでした!」


 やっと分かってくれた。


 この人は少し頑固なのね。心を通わせるまでに四回もブッ叩く必要がある人は珍しい。


「いきなり叩いてごめんなさい。でも、いきなり襲い掛かってくるからいけないんですよ?」


「……はい。」


 何だか不満そうね? もしかして、まだ心を通わせきれてないのかしら。


 私が杖を構えかけると……


「あ、あの! すいやせん! こんな美人見た事ねぇもんで、つい……。」


「それなら仕方ありませんね。お互い謝ったので水に流しましょう。」


 素直な人は嫌いじゃない。私は火炎のゼンを許す事にした。


「あー……火炎のゼンさんは何でこんなとこに?」


「あぁ。俺は普通のSSランク冒険者として活躍していたんだが……」





「王女様。すげえ美人じゃねぇか。」


「ありがとうございます。」


「良かったら俺が守ってやるからよ。愛人にならねえか?」


「結構です。」


「何でだ? SSランク冒険者ってのは貴重な戦力だぜ?」


「間に合ってますので。」


「そう言うなって。俺は一級魔法士レベルで強いんだぜ?」


「そうでしょうね。」


「だからよぉ。な?」


「しつこいですね。」


「一級魔法士が愛人になるだけで手に入るんだぜ?」


 バチバチィッ!!!


「ギャアア!!」


「一級魔法士レベルだから何ですか? こっちは特級魔法士レベルですよ。この馬鹿の冒険者資格を無効にしなさい。」





 という事があったそう。


 つまり、話をまとめるとこうね。


 火炎のゼンはその活躍が認められ、王宮のパーティへ招待された。


 そこで彼は王女が美人だった為しつこく口説きまくった結果……雷魔法で気絶させられ、冒険者資格を剥奪される事になったって事でしょう。


「アホですね。」


「アホだな。」


「仕方ねぇだろ! 俺はドゥーから来たばかりで王女があんなに強いって知らなかったんだ!」


「勘違いしてますね? 王女を愛人にしようとする事がアホだと言ってるんです。」


「俺は強いぞ?」


 強いから王女を愛人に出来ると思ったの?


「そういう問題じゃねぇんだよな……。」


 ギャモーも分かってるようね。


「強いと言っても、王女様に負けてるじゃないですか。」


「あいつは例外だ! じゃあ、お前が愛人になっ……」



 ドギャッ!!!!



「あっ。加減間違え……何でもありません。」


「おい。加減間違ったのか?」


 ギャモーが私を問い詰める。


「違います。」


「違わねぇだろ。曲がっちゃいけない方向に手足が曲がってんぞ。」


 もしかして、強く叩いた事に気付いちゃったのかな?


「多分……関節が柔らかい人なんです。そういう人はあちこちに関節が曲がるように出来てるんです。」


「そうは見えねぇが……。取り敢えず回復してやれよ。」


「疲れたから嫌です。」


「それ、嘘だろ?」


「いいえ、嘘じゃありません。火炎のゼンと話すのが疲れました。」


 ギャモーって、こんな人でも治してあげようとするなんて優しいわ。私と同じくらい優しいかもしれない。

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