第77話 覚醒めし者ら②世界覚醒者管理協会
ユリナの懸念が現実の物となるのは少し未来の話である。
法整備が整い、公的機関が実際に設立されるまでそれなりの期間を要するからだ。
この団体は
『冒険者ギルド』のようだと評した評論家がいた。
評論家は作家であり、いわゆるファンタジー小説を手掛けていた。
何ともファンタジーらしい例えではあったが、SNSを介して世界に広がっていく。
かなり、噛み砕かれた認識である為、好意的に捉える人々が多い。
だが世論がそう考えるよう作為的に操作されたものだと気付く者はいなかった。
ワッカは法に則り、アウェイカーを把握し、管理するのを名目としていた。
各機構首脳部が法整備を焦ったのには訳がある。
覚醒者はある日、急に力が目覚めたといえども元は普通の人間に過ぎない。
突如、与えられた大きな力に戸惑う者が多い一方、力に溺れ己が欲のままに動こうとする者も現れた。
これは世の道理と言ってもいいものだ。
目覚めた力は様々だった。
まるでおとぎ話や虚構の世界に出てくる『魔法』のようだ。
ある者は目にも見えない速度で動き、ある者は自在に空を飛び、ある者はその身を鉄よりも固くすることが出来た。
力に溺れ、己を見失う者がいるのも致し方ない状況だったとも言えよう。
そこで覚醒した者を徹底して、管理する団体の必要性が叫ばれ、『魔法』や『力』の行使を禁止する法案が急速に整備されることになった。
まるでこうなることを予期していたと言わんばかりの手際の良さに政府の陰謀論を唱える人々もいたが、覚醒者による凶悪事件が多発するとやがて、その声も小さくなったのである。
こうして、法整備が整い、満を持して設立された団体が
ワッカはまた、同時にダンジョンの管理も行っている。
不心得者が勝手に侵入し、犠牲者となる事態に頭を悩ませた政府が苦肉の策として、考案したとされている。
実のところ、それは世間を欺く方便に過ぎないと思われていた。
ワッカによるダンジョンの管理は強権的なものだった。
以降、ダンジョンの探索は登録された公認アウェイカーにのみ許可されるものとなった。
事実上、公的な組織によるダンジョン利権の独占である。
「それでさ。この
砕けた話し方の主はそばかすが目立つ白面の女性だった。
無造作に緩く、三つ編みにした
女性の名はアゼリア。
後に世界覚醒者管理協会の理事長を任じられることになろうとはこの時の彼女は考えていなかった。
「管理しやすいからではないかね。
年代物の高級なデスクに座す女性に対し、慇懃無礼な答え方をしたのは長身の男性だった。
濡れ羽色の髪を整髪料を使い、丁寧に撫でつけたオールバックにしており、神経質そうにスクエアタイプの眼鏡を直す姿から生真面目な気質が窺い知れた。
男性の名はサシャ。
アゼリアの補佐として、副理事長に任じられ実務を取り仕切ることになる苦労人である。
「そうは言ってもだよ。管理することに何か、意味があるかね?」
「いや。それは管理することが我らに与えられた責務だよ。責務なくして、我らはあるまい」
「君はまた、それかい? 肩が凝らないかい?」
「正しき姿勢を保てば、肩凝りになどならないさ」
そう言って、片腕を軽快にグルグルと回す相棒の姿に「冗談も通じないか」とアゼリアは嘆息した。
アゼリアが疑念を抱いた等級分けの概念は一般的に初級、下級、中級、上級の四ランクを指している。
力に目覚めたばかりの覚醒者となったばかりの怪異は初級に分類される。
潜在的な能力を考慮しない仕分けなので一時的に初級に分類され、すぐに上のランクへと直される場合も多々、あるのだ。
中級であれば、戦術レベルの脅威となりうる力を持つ者と判断され、一都市を支配する怪異もこのランクに入れられている。
さらに上級ともなれば、戦術ではなく戦略レベルの脅威である。
一地方にしっかりと根を下ろす怪異はこのランクとされており、一般的な考えでは最上位である。
しかし、何事にも例外は存在する。
国を動かす力の持ち主は特級であり、世界に影響を与える力は超級とされた。
驚くべきことにこの超級と判断される大きすぎる力を持った個体が両手の指では足りない数、存在している小さな島国がある。
それが旧日本国だったのだ。
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