第71話 備忘録CaseVI・神に殺されないモノ②神に殺されないモノを屠る者
「アレが相手だったから、み~んな失敗したのよ」
「え? よく分からないなあ」
表情こそ見えないものの麗央はバケツ頭をこれ以上に無いほど捻っており、相当に考え込んでいる様子が見てとれた。
ユリナは麗央の素直で純粋な面をこよなく愛している。
そんな麗央が困っている姿を見るのも悪くないと考えたユリナだが、そこではたと思い直す。
手を差し伸べれば、自分しか頼りになる者はいない。
麗央が自分だけに依存するのではないだろうかと少々、邪な考えが彼女の中に浮かんだのである。
実際にはそのようなことをする必要が無いことにユリナは気付いていない。
二人の関係が互いに求め合うものであり、なくてはならないものであることに……。
「仕方ないわね。そんな
これ以上ないくらいに嬉しさを隠しきれない顔を隠そうと再び、日傘を開いたユリナだったが誤魔化しきれるものではない。
瞳にハートのマークが浮かんでいると言われても誰も不思議に思わないだろう。
「あの
「う、うん」
「分かってないでしょ? だから、彼らがどんなに強くても倒せなかったし、
「そうだったのか」
この時、麗央はギガースについて、ほとんど理解していなかったと言っても過言ではない。
麗央は理論より実践と感覚を重んじるところがある。
頭の中でぼんやりと理解するものの表層的なものに過ぎず、噛み砕いてる訳ではないのだ。
この何ともあやふやな定義に括りつけられた不可思議な生物の存在は以前より、認知されていた。
オリンポス神族の敵対者として、誕生したとされる
だが、これといった対処法が講じられないまま、放置されてきた。
殺せない以上、封じることでお茶を濁すしかなかったからである。
どれだけ強力な炎や雷の力でギガースを打ち砕こうとも命を奪うことが出来ない。
これに対して、一石を投じることになったのが
とある
「だから、ほら……イリスに近付かれるのを警戒しているでしょ?」
「ああ。そういうことか」
麗央はようやく合点がいったのか、バケツを被った頭を何度も縦に振る。
あまりの勢いの強さにバケツが脱げるのではないかと思える首の振り方だった。
そんな麗央の様子を「レオって、かわいいっ」と内心で小躍りしているユリナも大概である。
この時、イリスと
テラの
苛立ちを隠せないテラだが、天性の戦闘センスと呼ぶべき感覚が彼を目覚めさせた。
「俺はおめえを守っからよ。おめえはアレをぶっ潰せ!」
「りょでござるよ」
テラはギガースを倒せない。
しかし、ギガースもテラを倒せない。
だが彼らに倒されるほど脆弱でもなかった。
テラもまた、ギガースを倒せないが倒されるほどに弱くない。
それを逆手に取り、ギガースの攻撃を全て、受け取るとテラは宣言した。
全てを自分に打ち込めと言わんばかりにテラはギガースの前に立ちはだかる。
イリスを庇うように常に気を配りつつ、丸太の如き太い腕から繰り出されるストレートパンチやハンマーのように振り下ろされる拳を捌く。
小柄なイリスはテラの影に隠れながら、機会を窺った。
テラとイリスの連携は次第に高まる。
「そこでござる!」
ギガースの右のストレートパンチが風を切って、襲い掛かる。
まさに命を奪わんとする必殺の一撃と言ってもいい渾身の力を込めたパンチだった。
テラはガントレットを使い、それを受け流さずに敢えて、受け止めた。
その瞬間、テラの影から躍り出たイリスが軽やかに宙を舞い、研ぎ澄まされた爪を一閃した。
イリスの硬質化された爪は長さだけでも六十センチはあり、その硬度は厚い鋼鉄の板すらも紙を切るが如く、寸断出来る。
テラに受け止められたことで一瞬、動きが止まったギガースの腕は肘からきれいに切り落とされていた。
「よっしゃ! 畳みかけるぜ!!」
「りょ!」
ギガースには痛覚がないかのように見えた。
切断面から、タールのように黒い液体を滴らせながら、「てっけるぁぁぁぁ」と空気を震わせる悍ましい雄たけびを上ると耳障りな唸り声とともに残った左腕と触腕を振るおうとする。
しかし、それは敗者の最後の足掻きに等しいものだ。
連携を完璧なものとしたテラとイリスの前に残った腕も切断・粉砕され、触腕も尽く切られたギガースにはそれ以上、抗う術は残っていなかった。
ワンサイド・ゲームと言ってもいい一方的な戦いとなったが、ライブチャンネルのコメント欄のヒートアップは止まらない。
サーバーがパンクするほどに加熱する。
コメントはまるで嵐のようだった。
飛び交う投げ銭もこれまでにない金額が加算されていき、この日、彼女の投げ銭額最高記録は大幅に塗り替えられた。
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