【完結】世界の終わりで君と恋をしたい
黒幸
第1話 幻の歌姫
動画共有サイト『
世界中の人々が熱狂し、盛り上がりを見せる地球人共通のプラットフォームと言っても過言ではない。
巨大SNSでもあり、流行の最先端と最新の情報の発信源でもあった。
今、ヨーチューブでとある動画投稿者が、人々の話題にのぼっている。
その注目度は時を経るにつれ、収まる気配を見せず、いつしか雑誌やテレビでも取り上げられるほどになっていた。
しかし、
なぜなら、動画を一つも投稿していないからだ。
彼女のチャンネルではライブ配信しか行われない。
アーカイブに一切の記録を残さないのだ。
その為、リアルタイムで見逃してしまえば、
希少性もあいまってか、視聴者は増えた。
SNSでの口コミもあり、噂が噂を呼ぶ。
実際に配信で彼女の歌を聞いた者は、まるで彼女の虜となったと言われるほどにチャンネル登録を行う。
彼女は恋する乙女心を花に例え、咲き誇り、そして、散っていく様を切々と歌う。
刹那的。
破滅的。
高音でありながら、独特の掠れたような特徴のあるボイスがファンを魅了していた。
登録者はうなぎのぼりに増えていき、あっという間に百万人を超えたのはつい先日のことである。
彼女の歌を聞いた者は口々に言う。
新しい世界が待っている、と……。
彗星のようにヨーチューブに現れたその配信者の名はリリーと言う。
週末の真夜中にしか、配信をせず、オリジナルの歌を歌う。
彼女の顔を見た者はいない。
常に後ろを向いているからだ。
きれいに編み込まれ、ツインテールに結われた髪は色素の薄い金色を帯びている。
染めたのとは違う不思議な色合いの髪だが、本人が海の音が聞こえる場所に住んでおり、日本にいると発言していたことから、日本在住の欧州系の外国人ではないかと噂されていた。
シルクシフォンのツーピースのドレスは純白で肌も抜けるように白いことから、まるで妖精のようだと盛り上がる者がいる一方、顔を見せないのだから、大したことないに違いないと反論する者もいた。
しかし、
誰もが聞き惚れる天性の歌姫と言うべき、歌声だったからだ。
アーカイブに残らない以上、リアルタイムでしか、彼女の姿と歌は拝めない。
そのことから、いつしか、リリーは『幻の歌姫』と呼ばれるようになっていった。
だが、同時に不穏な噂が流れていたことを忘れてはならない。
意識不明に陥り、目覚めない謎の奇病が多発していた。
患者が発見された時に共通しているのは週末であり、ヨーチューブを開いたままだったということだ。
何の動画を見ていたのかまでは誰も調べようがなかった。
ところが妙な噂が流れ始める。
歌姫リリーの歌を聞けば、
それがどういう意味なのか。
知りたければ、彼女の配信を見るしかない。
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