飛べない羽はただのゴミ

YOU-SUKE

第1話「速峰コウ」

 この世界の人間は2種類いる。

 空を飛べる人間と飛べない人間。空を飛べる人間で背中に羽が生えている人間をこの世界では鳥人ちょうじんという。鳥人の外見は地上で生活している人間の背中に羽が生えているだけでそれ以外は見た目は変わらない。

 別に空が飛べるからって飛べない人間と対立しているわけでもない。むしろお互い友好的な関係性であり、地上では地上での文化があり空では鳥人の文化が独自に発達して、お互いに尊重しながら協力的な関係にある。


 俺ら鳥人が暮らしているところは雲の上で島みたいな大陸が宙に浮かんでいて地上と同じようにその地面の上に建物を建設したり、他には家だけで浮かんでいたり学校だけで浮かんでいたりと基本的には空の上で生活している。


 俺は、鳥人として生まれたことを誇りに思っている。

 なぜかって?

 空を飛ぶのが大好きだ! 理由はそれだけ!

 背中についた大きな羽を思いっきり広げて力いっぱいに羽ばたき、広い広い空を駆ける快感が好きで好きでたまらない!

 こんな経験ができるのは鳥人だけだから。


 もっと、もっと速く! 

 羽を下ろす力を強め空気抵抗が少なくなるようにさらに身を屈める。

 空間を体全身で切り裂いていく。肌で感じる風が心地良い。

 ゴール地点のグラウンドでストップウォッチを険しい顔で睨みつける体育の教師が俺の視界の中でぐんぐんと近づいて勢いそのままに教師の横を俺は駆け抜ける。

 俺が通過してすぐに教師の右手に持っている旗が上がり、教師はもう片方の手に持ったストップウォッチの数字を読み上げる。


速峰はやみねコウ! 8.67秒!」

 教師が記録を読み上げたと同時におよそ1kmほど離れたスタート地点の学校の校庭では自分の出番を待っている生徒達がいる。そして、学校の校庭にある電光掲示板に俺のタイムが映し出された。

 その瞬間、生徒達がどっとざわめき立つのがゴール地点にあるグラウンドのモニターから見て取れる。近くにいる友人同士で顔を合わせて驚いたというような表情だった。

 

「コウ! すげえよ! 一年生にして学校記録更新じゃん!」

 同じクラスの友人。丸々と太って背の低い田端たばたマル男は膨らんだ腹を揺らしながらゴール地点で待っている俺の元へ体格の割には小ぶりな羽を広げてゆっくりと飛んできてそう言った。マル男はすでに記録を測り終わりゴール近くの待機者の中で待っていて計測を終えた俺のところへ来てくれた。


 俺が通っている高校では翔颯会しょうそうかいと言って、年に一度この学校で最も速く飛べる鳥人を決める大会がある。今日は授業でその翔颯会の学年代表を決める選考会があったのだ。


「そうなの?」

 他人の記録については詳しく知らない。はっきり言って今、自分が学校の記録を抜いたこともマル男に言われるまで知らなかったから、スタート地点にいた生徒がざわついたことも今、納得した。

「『そうなの?』じゃないよ! すごいことだぞ。うちの高校の記録だと2年のロベルトが去年記録した8.87秒でダントツトップだったらしいけどロベルトをお前がたった今、抜いちまったんだから!」

 自分の記録とかあまり気にしていなかったけど、そんなすごいことだったんだ。

 なんかよくわかんないけどワクワクしてきた!




***********************************


 時を同じくして学校の校庭にある電光掲示板に表示された記録を3階の教室から見下ろしていたロベルトは言う。

「おい、バス。何? アイツ?」

 金髪で整髪料を使って前髪を上げているおしゃれな男子。水色の瞳と整った容姿をしており、速峰コウ同様に立派な翼が背中から生えている。

 そして、バスと呼ばれた、おかっぱの前髪に丸いメガネいかにも優等生というような風貌ふうぼう。ロベルトの友人であるバスは丸いレンズをしたメガネを人差し指で押し上げて不敵な笑みを浮かべながら言う。

「今年入った一年らしいですよ。なんでも、ロベルトさんと同じく入学前から注目されていてうちの高校から入学をオファーしたとか」

「ふーん」

 ロベルトは窓の外の校庭から教室内へと視線を移し、不満げにそう言った。そして、バスはロベルトのその様子を待ってましたとばかりにロベルトの様子を伺いながら下方から視線を上げつつ提案する感じで言った。

「どうします? ロベルトさん?」

 ロベルトは鼻で笑って「決まってんだろ」と一言言ってから校庭を見下ろす窓から離れて自席に向かいながらさらに続けて言う。

「アイツは翔颯会で俺が潰す。ナンバーワンは俺だけで十分だ」

「ですよねぇ。ちゃんと準備しておきますよ。うちの母、薬剤師ですから」

 バスはウキウキとこれから始まることを予測しつつ何か楽しそうに両手をこねてロベルトの背中を小走りで追って行った。

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