あたしは魔女
あたしは魔女。
人間を辞めて久しい。
あたしが人間だったとき、ずっとさびしかった。
相手にされなかったんじゃないの。
むしろ、人となかよくしゃべっていたほうよ。そこらの根暗じゃないの。
あたしの存在意義がよくわからなかったの。
どこにいても、なにをしようとも、あたしは「なにしてるんだろ」っておもってしまって、
夕暮れを見て「またあした」なんて、おもえなかったわ
周囲は回転するのにあたしはうごかなかったの。うごきたかったのに、うごけないの。
もちろん、うごく意志はあったわ。
あたしはバッタとお話した。
ねえ、あたしはなにをしてるの?
あなた、見慣れない顔ね。
そういうことよ、あなた。そういう疑問があなたのうしろで画鋲がさすの。
同化しちゃったのよ。
影がうねってあたしをとりかこむ。
気づいたら魔女よ。
この世から離れた瞬間だったわ。
あたし、そのとき自由になったとおもってラクになれたとおもったの、
でも、
なにもすることがない
だれにもはなしかけられない
どこにも存在意義が無い。
ふと、あたしには魔法がつかえるってことに気づいたの。
今は人を助けている。
今日も小腹がすいたサラリーマンにおかしをくばったわ。
透明マントをかぶって電車のとびら付近にスキマをつくり、人が出入りしやすいようにしてあげたわ。
ハンマーをふりかざしている子どもがいたから安全な広場に誘導してあげたわ。
スーパーにみかんの在庫が無くて家族がこまってたから別のスーパーで買ってきてあげたわ。
人助けは悪くないわね。
でもふと思ったの。
あたし、魔女じゃなくても良かったんじゃないかって。
人間の姿かたちのままでも良かったんじゃないかって。
今までしたことをふりかえって思い直す。
そんなことないわ。
あたし、魔女だからこそできたもの。
魔女は人を超えて人をつなげることができるの。
今までそうしてきたし、つぎからもそうするつもりだわ。
だってそれがあたしの存在意義だから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます