ジークフリード王子とシャルロッテ 1
ロッティと二人、精いっぱいの早歩きでサロンへと向かった。
後ろの入り口から中を覗くと、生徒達がいくつかのグループに分けられているのが見えた。
サロンの中央では、『基本のカーテシー』そして『顏をあげた時の美しい振舞い』について、ブリッツ先生が実技指導を行っている最中だ。
遅れてきたわたし達を見つけたブリッツ先生は、眉をピッと上げ、無表情のまま手招きをした。
決して姿勢を崩さず、それでも最低限の早さで先生の前に立つ。
生徒たちが息をのんで見守る中、膝を折って足を後ろへ引き、二人そろって渾身のカーテシーをした。
もちろん、ロッティの美しさは完璧だった。
膝の震えが止まらない……。
このあと頭をあげたら、まず謝って、遅れた理由を説明しなきゃ。
お腹痛かったなんて子供みたいな言い訳だけど……これしか思いつかなかった。
緊張のあまり、手の平が汗でぐっしょりと濡れている。
ロッティと目を合わせ、顏をあげるタイミングを見計らっていると、後ろの扉が大きな音を立てて開き、誰かがサロンに入ってくるのがわかった。
「やあ、授業中失礼するよ」
ああ……美声だけどイラッとする感じ、そして遠慮なく大きな音を立てて部屋に入ってくる様子、間違いなくジークフリード王子だ。
てことは、植物園でのラブラブイベントはもう終わったってことか……。
そうっと体の向きを変えると、仰々しいポーズで頭を下げる王子の後ろには、今にも倒れそうなくらい顔色の悪いシャルが立ってた。
ジークフリード王子は、堂々とした態度でブリッツ先生の前に行き『教会の寄付金の件でシャルロッテを呼び出していて遅くなってしまった。悪いのは自分だからシャルロッテを責めないでくれ』と、意味もなくマントをバサバサさせながら話していた。
その間、シャルはもちろん無言で俯いている。
話の途中、一瞬だけブリッツ先生が不快そうな顔をしたのを、わたしは見逃さなかった。
そして教室内の生徒達が、恐ろしいくらい聞き耳を立てていることにも気づいてしまった。
だって、一人でペラペラ話し続けるジークフリード王子の目の前には、婚約者であるシャルロッテ・フリューリングが遅刻をして到着したばかり。
でも、ジークフリード王子が一緒にやってきたのは、外部生であるシャルロッテ・エレム……! って、どう考えても何かあったとしか思えない。
誰しも勘繰る状況で最悪だ。
サロンの中は、ジークフリード王子以外には誰もいないのかというくらい、静まり返っていた。
喋り続ける王子を無心で眺めていると、ブリッツ先生が咳ばらいをした。
そこでやっと、おしゃべりな第二王子の口が止まった。
ブリッツ先生は、わたしとシャルに向かって「奥に並びなさい」と言い、ロッティには「あちらのグループへ」と先頭を指示した。
そのあと、ジークフリート王子に向き直ると、小さく溜息をついた。
「では王子、授業中ですので用が無ければお引き取りを」
「そうか、わかった。では、失礼する」
ブリッツ先生の言葉に、ジークフリート王子は顔色一つ変えず笑顔を見せた。
続けてマントを翻し、これ見よがしに大袈裟なボウアンドスクレープを披露した。
その姿を見て、女子生徒達から小さな歓声が上がる。
ジークフリート王子は満足したように目を細め、手を振りながらサロンから去っていった。
くぅぅーなんて鼻に付くやつ! あんな嫌な奴なかなかいないわ!
サロン内の緊張が一気に緩んだと思った瞬間、ブリッツ先生がテーブルの上のベルをチリンと鳴らし、すぐに授業は再開された。
ロッティと離れたわたしは、顔色が悪いままのシャルと二人並んで座ることになった。
ブリッツ先生は、わたしとロッティの遅刻、それにジークフリート王子とシャルが遅れてきたことなんてまるでなかったかのように授業を始めた。
その後、授業が終わるまで、ブリジット達はサロンに姿を見せなかった。
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