植物園 1 ◆ロッティ



「あーあ行っちゃった」


ため息をついたり、身を乗り出したり。

ずっとそわそわしていたエミリーが、とうとう木陰から飛び出してしまった。


ジリジリしてるのが背中からでも伝わってきてたものねえ。

エミリーってば、余程我慢ができなかったのね。

あんなに必死な顔で「ベンチで待ってて! 絶対!」なんて言われたら、余計に気になるでしょ。ほんっと隠し事が出来ないんだから。

それにしても、私が後ろから見ているのも気づかないくらい夢中になってたけど、あの場所に誰がいるのかしら? 


周りを見渡し、誰もいないことを確認すると、さっきまでエミリーが隠れていた場所に移動した。そこからは植物園の入り口がよく見えた。


あら、エミリーが誰かと話をしてる……。

あの目立つ髪型、あれはブリジットね、それにイネスとエマだわ。

三人で何やって……ん? あともう一人いるわね。

誰かしら、顔が見えない……。


もう一度周りを確認して、木陰から思い切り背伸びをした。

重なるように立っているブリジット達の背中に邪魔されて、もう一人の顔はまったく見えない。


もう少しずれてくれれば、誰かわかるのに……。

あんなに必死だったエミリーには悪いけど、私もあの場所に行くしかないかしら……。


「やあ、シャルロッテ」


突然、誰も居なかったはずの背後から、大きな声が聞こえた。

それと同時に、強く肩を掴まれる。

あまりの力に振り返ろうとした時、肩越しに見えたその顔は、眉間に皺を寄せたジークフリードのものだった。


「ジークフリード……」

「こんなところでこそこそと何をやってるんだ?」


ジークフリードは私の体を軽く突き放すようにして手を離した。


肩を力いっぱい掴んでおいて、何なのこいつ?

人を苛立たせるようにしか話せない呪いにかかってるのかしら?

それに、制服なのにどうしてマント着てるのよ、目立ちたがりにも程があるわ。


「こそこそなんてしてないわ、あそこにエミリーがい……」

「なっ! シャルがいるではないか!」


聞いたくせに説明遮るって最低な男!

って、シャル? シャルってあの子よね?

ジークフリードの言葉を確かめようとすると、今度は正面から肩を掴まれ、思いきり体を揺さぶられた。


「貴様、シャルになにをしたんだ?」


あーもう、何なのよ。

痛いうえにマントがばさばさ鬱陶しいったらないわ! 


「はぁ? どうして私が関係あるのよ? あんた自惚れんのもいい加減にしなさいよね!」


ジークフリードの腕を思い切り払いのける。掴まれた肩が痛む。

なんて凄い力なの、馬鹿王子。

しかも私を睨みつけて、シャルロッテの方を見てって、落ち着きがなさすぎる!

でも、あの場所にいるのがブリジット達とエミリー、そこにシャルロッテと考えると……私が企んだようにも思えなくはないわね。

ああーなんだか面倒なことになりそう。


「おお可哀想なシャル、今行くぞ!」

「え? 待って!」

「こんな状況で待つ馬鹿がいると思うか!」


ジークフリードはわざとらしく私にぶつかり、マントを翻しながら温室の方へ走り出した。


「君たちー! そこで何をしているんだーい?」


目の前を走っていくジークフリードの後ろ姿は、ひらひら靡くマントのせいか本当に馬鹿みたいに見えた。

植物園の入り口では、突然現れたジークフリードに、皆が動揺しているのが分かる。


ほら、エミリーがキョロキョロしているわ。

ブリジット達なんて後ずさりしてる。

この中に私が行くと、まるで悪役登場みたいね……。


無意識に大きなため息が出てしまう。

でも放っておくとエミリーに迷惑がかかってしまう、あの馬鹿を追いかけなきゃ。


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