ブラッド・フィル

我琉 澪

Quest.1

2つの世界

 僕の秘密、それは”自傷行為リストカット”だ。


 自傷行為の方法をいくつか試した結果、僕はが合っていたもちろん痛いけど、その瞬間すっきりするし、一番早く気持ちが落ち着く。僕にとっては、精神を安定させるための手段でしかない。他人にも、物にも当たれない僕が見つけた唯一の方法。情緒不安定になると切りたい衝動を抑えられなくなる。痛いのは嫌だけど、誰かを傷つけたり、物を壊したりするよりマシだ。

 今は昔に比べて深くは切らないようになった。昔の傷痕は残っているが、これは僕のだから自分では結構気に入っている。普段はリストバンドや包帯を巻いて隠している。

「切れ味悪くなったな、新しいやつ買わなくちゃ…」

 僕にとっては、日常生活の一部でしかない。顔を洗う、歯を磨く、服を着る、手を洗う、ご飯を食べる、これらと同レベルだ。何も珍しいことではない。

 こんな僕に、興味を持つ奴は大体がろくでもない奴だ。下心で近づいてくる奴、ヤることしか頭にない下等生物だ。街を歩いていて声をかけてくる奴なんか相手にするだけ時間の無駄だから無視する。僕と会話するための時間を買うって言うなら聞いてやらないこともないが、そんな奴とは今まで出会ったことはない。

「マジで、全然切れない…」

 僕は誰も信じない。友情?愛?そんなものクソくらえだ。

 世の中には他人を巻き込んで死ぬ奴、通り魔、DV、無理心中、遺産絡み、本当にくだらない。バカすぎて笑えるし、僕はそんな奴らが大嫌いだ。

 人生で何もかも嫌になってる時、うまくいかない時、「死にたい」と言う奴がいるが、ほとんどの奴は言ってるだけで死を実行しない。本当に死んでいく奴は「死にたい」を言えない。

 この腐った世界で生きていくために、僕が僕でいるために今日もをする。

 僕の人生は僕だけのものだ。誰にも邪魔させない。

「ストック切れてる…はぁ、仕方ない買いに行くか、」


 こんな僕でも、唯一リアルでも会話をする相手がいる。その出会いはネットだった。奴のコードネームが【Hb(ヘモグロビン)】だから、僕は【ヘモ】と呼んでいる。今では、秘密で互いに都合のいい関係になっている。

 ヘモは、しつこくリアルで会いたいと言ってきた相手の一人。 

 僕は、ネットとリアルの線引きをこれまで破ることはなかった。誘われてもその度に何度も断った。正直、縁を切るのはもったいない相手だったが、これ以上関わったら本当にヤバい展開になるかもしれないと少し怖くなった。だから、今後会いたいと言ったらフレンド解除かブロックをすると真面目に言ったのだが、引き下がらない奴はある提案してきた。

「じゃ、じゃぁさ…待ち合わせの場所で、俺の顔見て、イヤだったら帰っていいよ、それか、当日やっぱり気分が乗らなかったら来なくていいし、ね?」 

「…判断基準顔かよ。僕が面食いだと思ってるのか?もしくは、ヘモがナルシスト。」

「今の世の中でしょ?まぁ、俺の顔がミイラの好みかどうかは別だけど、」

「顔が嫌で帰られたことあるのか?」

「いや、俺もネットで繋がった人とリアルで会ったことない。これが初めて。」

「うわー怪しい。あ、そんなことより、明日もイベよろー、」

「疑われるのは仕方ないけど、本当だよ。おう。」

 僕は、考える時間が欲しいと伝え、返事は後日にしてもらった。本当はこのまま曖昧にしてこの件は闇に葬るつもりだったが、僕とヘモの関係を考えると、それはどうしてもできなかった。だから、僕はヘモと向き合うことにした。

「あのさ、一つ聞いてもいい?」

「なに?」

「…なぜ、会いたがる?会わなくてもネットで十分でしょ。一応…トモダチ、だと思っているのだが?ヘモは、違うのか?」

「んー、そうなんだけど、会って話してみたいと思ってしまいました。」

「…手当たり次第そう言って、喰ってんのか?」

「これが初めてだって言ったじゃん。ついでに言うと、俺はだ!」

「っぶゅ、ゴホゴホッ」

「なんか汚ねぇ音したけど、大丈夫か?」

「ヘモがかどうかなんて、全く興味ないわ!」

「そうか、よかった。でも大丈夫か?」

「ヘモ…わざとやってるだろ!」

 ボイチャ越しで奴は大笑いしている。僕をからかって楽しんでいるのだ。僕は、腹が立ってきて口が先走ってしまった。

「わかったよ!の顔を見物してやる!」

「おう、有難く拝め!じゃぁ、日程決めようぜ、」

 僕は、まんまと奴の策略に嵌められたような気がした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る