転生したら追放モノらしき世界で美少女でした。主人公のヒロイン枠になって出世街道を歩みたい

高橋湊

ステーキのつまみに追放を

「アラン、もうしわけないが君にパーティーを出て言ってもらいたい……」


 眼の前の男前アノスが神妙な面持ちで告げた。その腕にしなだれ掛かる女たちがクスクスとアランを嘲笑する。


「そんな……」


 それを告げられた支援魔法師アランは声を震わせながら俯いた。驚愕して言うことも分からないんだろう。


 その間に私は、ホークに刺さったステーキを頬張った。


 ステーキは噛めば噛むほど肉汁が溢れ、口に広がる。なんて美味しいの……! 私はいつも以上に味わって食べた。


 なんてったってしばらくは食べられないのだから……。


 ここは、王都の高級レストランだ。並のパーティでは行くことすらかなわない。だが、ここは私達の行きつけである。


 それを思って、出世したな〜と染み染みとステーキを噛み締める。


「……どうしてだよ……俺がなにかしたのか?」


 私は、横目にアランを伺う。辛うじて異議を唱えたアランは心当たりがあるのか、うつ向いて歯を食い縛っている。


 再び沈黙が訪れた。アノスはアランを面倒くさそうに眺め、女たちはアノスの腕にしがみつき胸を押し付けていた。


「そうです……アランさんは私達をふしだらな目で見ていて……。私、私……とっても怖かったんです……」


 回復士のユーランが、さめざめと涙を流しアノスに泣きつく。そうすれば、アノスは鼻の下を伸ばして彼女を引き寄せた。


 私はこの猿芝居に舌打ちしそうになって、我に返った。口が空いてるからだと、ステーキを頬いっぱいに無音で詰め込む。


 モキュモキュ……と口を精一杯動かしてその駄作を眺めていると


「そんな……!」


 アランは、絶望したような顔でユーランを見た。だが、ユーランはアノスの胸で泣いてるためそれに応えない……応える気もないのだが。


 私もそれに呼応するように絶望した。なんたって私の皿のステーキがなくなっているのだ……。


 誰だ! 私のステーキを食べた奴は!


 私はこのテーブルをキョロキョロと見回した。


「そうよ! アラン! 気持ち悪いったらありゃしないわ!」


 私が精神を研ぎ澄ませて各自の皿を確認している。そんなときに、格闘士レーサルがひときわ大きな声で叫んでしまった。


 そうすれば、必然的に色々な視線がこのテーブルに突き刺さった。


その好奇の目が、私に向きホークをレーサルに向かって投げつけたくなった。


 私は、レーサルを睨みそうになって深呼吸する。そうすれば、私はステーキがないから苛ついてるのだと気づいた。


 ならば、やることは一つだ。膝においてあるもう片方の腕はテーブルで誰にも見られない……。


 指先に魔法陣を展開して転移魔法を私の皿とレーサルの皿につなげる。タイミングを読むこと数十秒。


 そのチャンスが現れた。


「ッ……。そんな……」


 アランが、瞳を揺らして泣くのを堪えたのだ。囮になってくれてありがとう。そう思う反面


 口に出すほどショックなんだろうか……。


 アイツラがクソだと何で理解できていない……?



 呆れてアランを軽蔑する自分がいた。



 私は、そのまんま転移魔法を使い、レーサルの皿からステーキを奪った貰った。アーンとそのステーキを頬張る。


 人から奪った貰ったステーキは最高に美味しかった。


 レーサルが、空の皿にホークを伸ばす。案の定、ホークは空を切る。その感覚にレーサルは驚いたように目を見開いた。


 私はしめしめと味を占めて全員の皿から、ステーキを奪った貰ったサラダをお礼にあげた。


 そして、バレないうちに頬にステーキを詰め込んでいく。


「何よりお前は支援魔法師だが……何をした? 俺達は高ランクパーティーだ。これ以上お前という足手まといはうんざりだ」


 私が口にステーキを詰め込んでる間に、話は終盤に差し掛かっていた。


 流れ的に行けばこのあとは私だと、口を急いで動かしてゴクンとステーキを飲み込む。


 私は困ったように眉を下げて、瞳に涙を浮かべた。そのまま話が振られるのを待つ。


「リールもそう思ってたのか……?」


 アランが、縋るように私を見た。アノスが、言ってしまえというように私に顎をしゃくる。


「……ごめんなさい……!」


 私は、大げさに瞳を揺らして彼から顔を背けた。アランは打ちひしがれたように棒立ちするのだった。


 その黒い瞳から涙を流して……。










 


 


 

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