戦国境界線記
御剣ひかる
01 タイムカプセルが届いた
二五XX年。
日本、長野県某市、都会と山間の中間に位置する町のとある家にて。
何かを知らせるような電子音がリビングに響いた。
「――なんだ? おっ、タイムカプセルが届いたか。もうそんなに経ったのか」
父親はタブレットの通知を見て昔を懐かしむ顔になった。
「タイムカプセルって、未来の自分に出す手紙だっけ?」
十歳になる息子が父親の笑顔に何かを期待するような目を向けた。
「そうそう。小学校を卒業する時に出すから、おまえももうちょっとしたら出すことになるな」
「なんでカプセルじゃないのにタイムカプセルなの?」
「昔は未来の自分達に出す手紙をケースか何かに入れて土に埋めてたんだよ。その名前だけ残ったんだな」
「ふぅん。んーっと、お父さんが小学校卒業したのって」
「今から三十年近く前だな」
「何を書いたの?」
「読むか?」
父がタブレットを示したので息子は飛びついた。
未来の僕へ。
小学校四年の時に書いた読書感想文のことは覚えていますか?
僕はちゃんと民話を読んでその感想を書いたのに、でたらめを書いちゃ駄目だと返されてしまってとてもショックでした。
大人になった僕なら、あれが本当の事かどうか、確かめることはできますよね。
絶対に、僕は正しい感想文を書いたんだって、証明してください。
「え、なにこれ。お父さん、変な感想文書いたの?」
息子が目を丸くしている。真面目な父親がふざけた感想文を書くとは信じられないのだ。
「あはは。そうだったそうだった。すごく悔しかったから覚えてるよ」
父親は図書館で見つけたこの土地の民話を読んで、面白かったから感想文を書いて出したのだ。
だがこんな話が民話として残っているはずがないと担任教師に言われてしまった。
図書館の司書に事情を説明して、貸出禁止のその本の表紙をコピーさせてもらって提出したが、表紙に小さくかすれた文字で「写本」と書かれていたことから、本はあるがこんな内容は正しい民話ではないと断じられてしまったのだ。
「どんな内容だったの?」
息子の質問に、父親はうなずいて話し出した。
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