第43話 おっさん、迷宮に潜る

 準備を整えた翌日の朝……いよいよ、昇格試験の日がやってくる。


 少し早めに起きた俺は着替えを済ませ、ソラとミレーユさんと朝食を食べる。


 クレアさんは用事があるとかで、早めに出て行ったらしい。


「こんな朝早くからですか?」


「ええ、そうなんです。ふふ、どこに行ったかは内緒ですからね?」


「ええ、わかってます。そこまで踏み込むつもりはないですよ」


 きっと、俺たちのためにプライベートな時間を割いてしまっている。

 いくら優しい方々で、俺に恩義を感じているとはいえ……やはり、そろそろ出て行く準備をした方が良さそうだ。


「えっ、いや、そこは聞いてくれないと……」


「ん? どういうことですか?」


「あっ、いえ……はぁ、失敗しました」


「えっと……?」


「すみません、なんでもないです。とりあえず、ソラちゃんのことは任せてくださいね」


「ありがとうございます。それでは、お願いいたします」


 すると、それまで夢中でパンを頬張っていたソラが顔を上げ……。


「お父さん! 試験頑張ってねっ!」


「ああ、任せておけ。ったく、顔にジャムがついてるぞ?」


「わわっ!?」


 口の周りについたジャムをぬぐってあげる。

 このオレンジジャムは俺が作ったもので、みんなに好評を得ている。

 ようはマーマレードだが……特に、ソラは気に入ってるらしい。


「ほら、取れたぞ」


「えへへ〜」


「ふふ、これは美味しくて良いですね。味気のなかったパンが美味しくなって……皮を使うなんて考えたことなかったです」


「食材を捨てるのはもったいないですからね。結構、こういうものはあるんですよ。また機会があれば、別の物を作りましょう」


「楽しみっ!」


「ええ、そうですね」


 それこそ、渋皮モンブランとか。

 本来使える部位を捨てている可能性は高そうだ。

 俺が店を開いた際には、そういったものをメインにしても良いかもしれない。

 どうせなら、この世界にないものを作りたいし。


「……さて、ではそろそろ時間なので行ってきます」


「いってらっしゃい!」


「健闘を祈ります」


「ええ、行ってきます」


 ソラをミレーユさんに任せ、俺は指定された場所に向かうのだった。





 指定された場所は、都市の北西にある迷宮区域だ。


 食後の運動がてら、軽く早歩きで向かうと……そこには見知った人がいた。


「あれ? ……クレアさん? それに、ダイン殿だったか?」


「おっす、おっさん」


「ソーマ殿、おはよう。ふむ、よく似合っているぞ」


「ありがとうございます」


 俺の今の格好は、Tシャツに黒のレザージャケットを羽織っている。

 下半身は柔軟性のある紺色のズボンを履いている。

 つま先から天辺まで、ガランさんがこしらえてくれたものだ。

 俺自身の防御は必要ないので、洋服自身の耐久性のみを考えたとか。

 滅多なことでは、破れたりしないと太鼓判をもらった。


「ほらクレア、ささっと行こうぜ」


「ああ、分かっている」


「うん? なるほど……お二人で迷宮に潜るところだったと。やはり、仲が良いのですね」


 前は何でもないと言っていたが……これは、やはり良い感じというやつなのでは?

 俺に付き合ってることで、勘違いされたら申し訳ないな。


「……あん? このおっさん、何言ってんだ?」


「な、な……違う! そういうアレじゃない! 我々は先導者だっ!」


「……ああっ! そういうことですか! ……これは失礼しました」


「ったく、誰がこんな男女と……わかった!悪かった! だから殴るポーズをとるな!」


「全く、こんなことなら黙ってるんじゃなかった。びっくりさせようかと思って黙っていたんだが……むぅ」


 そう言い、何やら不機嫌な表情を浮かべた。

 いかん、よくわからないが……これはいかん気がする。

 早く、話を変えなくては。


「いえ、驚きましたよ。お二人が先導者をしてくれるのですね?」


「おう、そうだよ」


「……うむ」


「そ、それじゃあ、よろしくお願いします」


 若干、クレアさんに睨まれながら、俺は迷宮の洞窟に向かうのだった。


 ……おっさんには、女性の事がわからん。






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