19. OPETHへの憧憬:プログレッシヴ・デスメタル序章【メタル/プログレ】

本来であれば今回も「プログレデス」という括りで数組のバンドを紹介する予定でした。


しかし候補として最初に挙がったこのバンドの存在があまりにも偉大すぎたため、こうして別枠を取らざるをえませんでした。



その名もOPETH (オーペス)。鬼才Mikael Åkerfeldt(Vo/Gt)率いるスウェーデンのバンドです。


現在の彼らはサイケ~ヘヴィロックを中心とした'70年代サウンドが売りのプログレバンドですが、活動初期はそれらの要素を取り入れた長尺のダークテイストなデスメタルを主に演奏していました。



ちょうど3枚目のアルバムを出した辺りでしょうか。デスメタルの陰に隠れがちだったプログレ要素が徐々に頭をもたげ、両者の奇跡的なバランスは強烈な異彩を放ち始めます。


荒れ狂う暴虐の嵐と、冷涼なる静謐の美。

地の底から響くようなグロウル (デス声)と、往年のLake/Wettonを彷彿とさせるクリーンボーカル。

それらの対比が生み出す、他に類を見ない作風は彼らの大きな持ち味となっていきました。




◆OPETH


このバンドを「プログレメタル」という文脈から捉えると、MESHUGGAHに代表されるメカニカルでソリッドなジェント系とは対極に位置付けられます。言うなれば有機的・オーガニックなサウンドです。


(ちなみにDREAM THEATER型のメロディック派はそれらの中間ぐらいになるでしょうか)


筆者判断による〝黄金期〟――あえてそう申しましょう――は約10年、アルバム6枚分に相当します。以下、順を追って振り返ります。



◇『Still Life』(1999)

独自路線が確立された4th。クリーンVoにはまだこなれていない感が残りますが、IL BALLETTO DI BRONZO、RAGNARÖKをはじめとしたオールドプログレとデスメタルを有機的に融合・昇華した作曲/アレンジ力には目を見張ります。



◇『Blackwater Park』(2001)

湿り気を帯びた前作とは対照的に荒涼とした空気感が全体を覆う5th。プロデューサーSteven Wilson客演の「Bleak」は白眉。Andrew Latimer(CAMEL)の薫陶を受けたギタープレイも増々冴え渡ります。



◇『Deliverance』(2002)

次作とは静動で対を成す〝動〟の巻。とはいえブルータル一辺倒ではない駆け引きも随所に光ります。10分超えの曲が立ち並びますが、練り上げられたソングライティングには最初期のような冗長さは最早窺えません。



◇『Damnation』(2003)

前作と表裏一体、こちらは〝静〟の一枚。デス声を封印、全編クリーンVoで歌い上げる叙情ダークプログレはメタラー以外の音楽ファンにも訴求する秀作。インスト曲「Ending Credits」はほぼ演歌と言ってもよいのでは。



◇『Ghost Reveries』(2005)

もう一人の鬼才Per Wiberg(Key)加入の効果は覿面 (次作で離脱)、暴と美が完璧に溶け合う唯一無二のサウンドが完成を見ます。ギター面では邪悪なリフと情感たっぷりのリードとのコントラストに圧倒。全曲必聴の名盤です。



◇『Watershed』(2008)

音楽性は円熟の域へ。メロトロンとブラストビートが肩を並べる前代未聞のTr.3が耳を引く一方、デス要素皆無でしっとり聴かせるTr.1、同じくWISHBONE ASH風ツインGtが心地良いTr.4などには変化の兆しも見えます。



はたしてその後、次作でバンドはデスメタルから完全なる脱却を図ります。Mikael Åkerfeldtの私生活の変化や喉への負担が原因のようです。

やむを得ないこととはいえあの天性のグロウルが失われてしまった事実は惜しまれてなりません。


ですが一方でMikaelの卓越した作曲能力は現在も衰えを知りませんし、クリーンボーカルでの味わい深い歌唱やギタープレイも新たな高みへと達してさえいます。


変化はあっても後退はない、実に前進的 (プログレッシヴ)ではありませんか。その姿勢ゆえ、音楽性が筆者の好みから外れてしまったとしても、彼らへのリスペクトが尽きることはないのです。




最後に、他を以て代え難い素敵な宝物を我が音楽人生に与えてくれた感謝をOPETHへと捧げつつ、本稿を締め括りたいと思います。




  *  *  *




公式音源をプレイリストにまとめました。


★OPETHへの憧憬【メタル/プログレ】

https://www.youtube.com/watch?v=bpjOvdlqJZA&list=PL_guDDmuRSVWpXmlC9shjjz1nziFvxFzM


以下、Spotifyのリンクです。



◇『Still Life』(1999)

https://open.spotify.com/album/5iA9ECcGKLN2BSxikuENma?si=5edc921e00ad4ec4


◇『Blackwater Park』(2001)

https://open.spotify.com/album/7cMJfxkJwUAcxHCHQMNYYs?si=6ddcd658196c4b1d


◇『Deliverance』(2002)

https://open.spotify.com/album/0qCxwUOJJSowIzexnZeX4m?si=e3d10f966ee943dd


◇『Damnation』(2003)

https://open.spotify.com/album/4FmI0F5GvvR1M9RURWnJV9?si=b994f0ef52b24122


◇『Ghost Reveries』(2005)

https://open.spotify.com/album/74QPd1WqK8kTsVNtHdBzJ8?si=f323d3d71cb54c3a


◇『Watershed』(2008)

https://open.spotify.com/album/0fayDgcekIaW0yQtUQ8CDm?si=a40dc67829584fcd

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