一週間

平 遊

一日目

“一週間だけ、貸してあげる”


 目覚める直前に、そんな言葉を耳元で囁かれた気がする。

 俺が覚えていたのは、唯一その言葉だけ。


(・・・・夢?何を借りた?俺)


「ま、いっか。どうせ夢だし」


 呟きながらも俺はその朝、不可思議な思いを胸にベッドから起き上がった。



「おーい、○○○、おはよう!」


 なぜだか名前の部分だけがボヤケて聞こえたのが気になったが、通学路で会ったクラスメイトと一緒に学校へと向かう。


(ん?こんな道だっけ?それに、コイツ・・・・)


「なぁなぁ、昨日のドラマ、観たか?!」

「ドラマ?・・・・昨日の?」


(つーか、今日って何曜日だっけ?木曜日、か?)


 どこかぼんやりした頭に、クラスメイトの大袈裟なくらいに驚いた声が響く。


「おいおい・・・・アレだよ、アレ!今SNSで結末予測大盛りあがりのアレ!」


(ていうか、こいつ俺のクラスメイト、だよな?それは分かるけど、コイツいったい・・・・)


 前から知ってるような、でも、初めて会うような、不思議な感覚。

 脳の記憶にはあるけど、感覚的な記憶には無い、みたいな?

 でも。

 クラスメイトが話題に出した水曜日のドラマだけは、脳の記憶からも感覚的記憶からも、すぐに引き出すことができた。

 まさに、『ピンッ!』ときた感じ。


「あぁっ、アレ!もちろん、観た観た!あれ、最後には全員死んじゃうんじゃないっ?!」

「だよなぁ?ほんと、ぜんっぜん読めねぇよなっ!」

「結末観るまでは、絶対に死ねないよね、アレは!」

「もちろん!今死んだらオレ、絶対に成仏できない自信がある」

「そうしたら、録画してお墓の前で流してあげるよ」

「いやいや、そこは『そんな縁起でもないこと言うなよ!』じゃねぇのっ?!」

「それもそうだねぇ」


 どこかモヤモヤとしたものが残りつつも、話題のドラマのことで会話は大いに盛り上がり。


「いよいよだな、最終回。どうなるんだろうなぁ・・・・な、賭けしねぇか?オレが勝ったらジュース奢れよ?そんで、お前が負けたらジュース奢れよ?」

「なにそれっ?!なんで僕が負ける前提なのさっ?!」

「だってお前、メチャクチャ勘悪いじゃん」


 あははは~っ!


 なんて笑いながら、クラスメイトは俺を置いて教室へと駆け込んでいく。


「ちょっ、待てこらっ!」


 俺もクラスメイトを追いかけて、教室へと向かった。

 瞬間。


(・・・・いい、んだよな?この教室で)


 こんな不安に襲われながら。

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