とある双子の日常 【お題 第六感】

 自分は双子である。


 そう言うとたいていの人は「そっくりなの?」とか「テレパシーとかあるの?」と聞いてくる。

 期待に添えなくて申し訳ないが、家族ではあるので似てはいると思うけど間違われるほどそっくりではないし、離れた相手のことが何でもわかったりするような、テレパシーなんてものも俺達の間にはない。

 そう答えるとだいたいの人は「やっぱりそうか」「そうだよねー」と納得してくれるが、少しだけ残念そうなニュアンスが含まれているのを、子供の頃から感じていた。

 ……まあ確かに、小さい頃はそっくりで、不思議と同じような言動もよくしていたらしいので、親以外の人にはよく間違われていた記憶もある。でもそれは、面白がって髪型も服装も同じ格好をさせていた、俺達の母親のせいでもあると思う。それに成長するにつれ、自然と髪型も服装も別々となっていったので、今ではもう、間違われることはない。


 そんな双子らしくない自分達だが、そうでもない部分もある。それは────。




「あ…………悪い、誰か俺と飯交換してくんない?」


 いつもの学食。いつもの友人達と空いている席に着いたところで、不意にその感覚に襲われる。


「ん? どしたんりく?」


「なに? いつもの?」


「そう、いつもの」


「じゃあしょうがない」


 俺が双子であることを知っているこの三人の友人達は、最低限の俺の説明でもすぐに察して納得してくれる。持つべきものは友達である。


「かけうどんでいいなら交換するけど?」

「俺かけそば」


 ぬぅ……うどんとそばか……。

 ちなみにどちらもこの学食において最低価格の、金欠学生に優しい、大人気のメニューである。…………悲しいなぁ……。


「ふ……残念だったなお前達。こいつはそんな安物は食べん」

「いや普通に食べるけど」


 お前は俺をなんだと思っているの?


「ちなみに俺は日替り定食だが、どうする?」

「ちなみに本日のメニューは?」

「豚肉の生姜焼きだな」


 その言葉にテーブルに置かれたトレイに視線を移すと、ほかほかとおいしそうな湯気を立てる、ごはん、味噌汁、生姜焼き、それにミニサラダが付いた四点セットがあった。ちなみにこの日替り定食、お値段は毎日一緒だが、注文してみないとどんな内容かわからないという、なかなかにギャンブルなメニューである。まあ学食なんで、いちいちその日のメニューを書いたりする手間が惜しいんだろうけど。


「「「で、どうする?」」」


「そうだな……」




「じゃあなー」

「明日なー」

「またなー」


「お疲れー」


 学校が終わった帰り道。適当に寄り道しながらいつものところで友人達と別れ、ようやく家に帰り着く。


 鍵を開けて玄関に入ると、予感通りの匂いがし、思わず笑みがこぼれる。


 靴を脱ぎ、洗面所でうがい手洗いを済ませてからリビングへ入ると、俺の予想通り、台所で料理をしている人物に声をかける。


「ただいま」

「……ん? おかえりー」


 集中していたのか、俺の声に注視していた鍋から顔を上げ、を翻しながら、が振り返る。


「りっくん、ちゃんとうがいと手洗いした?」

「したよ」


 俺を見上げながら腰に手を当てて、やんわりとお姉ちゃん振った物言いをしてくる我が半身──そら。双子なんだからどっちが上とか下とかないと思うんだけど、俺より少し早く生まれたというだけで姉の権利を主張してくる我が半身は、こうしてたまにお姉ちゃんムーヴをかましてくる。


「で、なに作ってるん?」

「ふっふっふ、よくぞ聞いてくださいました。これはね『私特製、泣くのを我慢して一生懸命作った飴色玉ねぎが完全に溶けてなくなるまでこれからじっくりコトコト煮込む予定の、とってもおいしいカレー』だよ」

「長い」


 ねぎ類全般が苦手なこの半身は、こうして気が向けば、よく自分好みの料理を作っている。余談だが、ねぎの類いが苦手なのに玉ねぎを使っているのは、以前作った玉ねぎなしカレーが微妙に「なんかこう……一味足りない」出来だったのと、苦手なねぎも原型を留めていなければ大丈夫、という結論に至ったかららしく、以降はこうして徹底的に炒めたり煮込んだりして跡形もなくなるのを条件に、料理に玉ねぎを使っている。


「えー、でもりっくん今日、カレー食べたい感じでしょ?」

「おかげで昼飯カレーにするとこだった……」


 そう、俺達双子──といっても、性別が違うので二卵性双生児、いうなれば同い年の姉弟である空と陸自分達には、世間でいわれるような双子のテレパシーのようなものはないが、こうしてたまに食べたいものが被る。というかなんとなく、相手が今、食べたいものがわかる時がある。それこそ世間でいうところの『第六感』のように。


「あーそうそれ! りっくんお昼にねぎ食べたでしょ! なんか嫌な感じがしたんだよね!」

「……す、少しダケダケド……」


 そう、学食のかけうどんとかけそばには薬味として刻んだねぎがプカプカと浮いているし、定食の生姜焼きにもスライスした玉ねぎがそこそこ入っていた。本当にやつらねぎ達はどこにでも潜んでいる。

 なので結局、たぶん夜はカレーであることを考慮して、俺は自分が頼んでしまっていたカレーとかけそばを交換してもらい、おいしくいただいた。あとで空に文句を言われるかもしれないので、ねぎはなるべく避けて残したが当然全ては避けきれず、多少食べてしまったのは不可抗力だ。それに二卵性双生児だが俺も空も食の好みは不思議と一致する。……俺もねぎと名の付く食べ物は苦手である。


「残すなんてもったいない……」

「じゃあ我慢して食べたほうがよかった?」

「いや、それはそれで、嫌な感じが伝わるかもだし…………」


 そしてたまに、こうして相手が何を食べたのかわかる時がある。それこそ双子のテレパシー的に。


 一卵性双生児ではないけれど、こうして相手のことがわかるのは、双子の神秘らしくてちょっと嬉しい。……食べ物限定なのは、わりと食い意地の張った自分達らしいな、とは思うけど。

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