第8話 愛妻弁当作ったから
昼休みになるまで、クラスメイトから綾瀬さんのことを聞かれた。
「綾瀬さんと付き合ってるの?」
「家で何してたんだよ?」
「どこまで行ったの?」
普段は目立たない教室のモブだった俺が、一夜にして注目を集めている。
でも昨日のことは、悠介以外に話せない。
「圭太が困ってるだろ。みんな散った散った!」
悠介が助けてくれた。
本当にいい友達を持ったなと、心から思った。
「ありがとな。悠介」
「いいってことよ!」
「今度何か奢るぜ」
「そんなことよりさ、あとで綾瀬さんとどんなことしたか、俺にだけ教えてくれよ」
「おいおい……」
昼休みに屋上で女の子と一緒か……
しかも、学校一の美少女とだ。
突然訪れた陽キャライフに、俺はついニヤニヤしてしまう。
ぶるっ!
俺の背中が震えた。
どこからか、冷たい視線を感じたからだ。
教室のドアを見遣ると、
……俺を見ていたのは、朱未?
今更、俺に何か用でもあるのか。
ま、朱未のことなんてどうでもいいや。
◇◇◇
昼休みを告げるチャイムが鳴ると、未来が走ってきた。
まるでこの時をずっと待っていたかのように、一瞬で俺の目の前にいた。
「ケータ!屋上行こ!」
向日葵のような明るい笑顔で、未来が俺を誘ってくれた。
「おう……」
教室が大きくざわついた。
もうちょっと、自分の影響力について考えてほしいぜ……
クラスメイトが見ている前で、学校一の美少女がまっすぐ走ってきたら、どうしても目立ってしまう。
しかも、俺みたいな陰キャのところに。
◇◇◇
屋上のドアを開けると、夏の爽やかな風が頬を撫でた。
今日は晴れていて、雲ひとつない青い空だ。
「暑いね……」
未来は髪をかき上げて、汗を拭いた。
長い髪がふわりとたなびいた。
「あ、ごめん。購買部でパン買ってくるわ」
未来と一緒で舞い上がって忘れていたが、まだ自分の昼飯を確保していなかった。
「大丈夫!ケータの分も作ってきたから!」
「え?」
「いつも購買部で焼きそばパン買ってるんでしょ?たまにはちゃんとご飯も食べなくちゃダメだよ」
「……なんでそのことを?」
「いろいろ情報網を使って、調べたの。ケータのこと、もっと知りたかったから」
未来は友達が多いから、まあ俺のことを調べるのは簡単だ。
同じ中学から、この高校に来た奴も多いしな。
「ごめんね。こそこそ嗅ぎまわったみたいで……」
「そんなことないよ」
「ありがとう。はい!これがケータのお弁当だよ!」
未来は、ピンクのかわいいお弁当箱を差し出した。
俺が中を開けると、
「わあ!すげえうまそう」
白いご飯の真ん中に梅干、卵焼きに焼き鮭、きんぴらごぼうもある。
高校に入ってから、ほとんど外食だったから、こういう家庭的なご飯は久しぶりだ。
「……でも、どうして俺なんかのために」
「だって、ケータは愛花のパパでしょ?私は愛花のママだから、ママがパパのお弁当つくるのは当然じゃん」
「まあそうだけど……」
俺がパパで、未来がママなのは、あの家の中だけのはずだ。
学校での俺たちの関係は……友達、なのかな?
「愛花がどうしてもパパにお弁当を作ってほしいって……それに、あたしもケータと話したかったから」
そっか。愛花ちゃんに頼まれたのか。
そうでもなきゃ、俺にお弁当なんてつくるわけないよな……
「そろそろ食べよ!はい。あーんして」
「え?」
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