狐の首巻

@tama-yui

第1話

最近気づいてしまったことがある。

アパート住まいの私のお隣に住んでいる推定20代の神田さん。

彼女の首にマフラー宜しく巻いてあるものは、マフラーでは決してないということに。


これもつい1週間前、初めて知ったことだが、私と彼女は毎朝同じバスに乗る。

霜月最初の月曜日、朝は吐く息に白いものが混じるようになった。そんなであるから、バス停で待つ人々の装いも冬仕様へと変化している。

私も例外でなく、これもまたご近所さんから譲り受けたコートを着ている。

それでも寒い。

だが自転車でバス停まで走っているうちに熱が生まれ、着く頃にはコートを脱ぎたくなるほどの体温に変わる。

私はいつも、脱いだコートを腕にかけ、バスを待ち、定期券をピッ、とし、いつも決まっている後ろから2番目の席に座る。

そこで神田さんに気がついた。

私の斜め前に座り、暖かそうなベージュの羽織に、茶色の毛皮のマフラーをしている。マフラーはコートに付着しているものだろうか。

霜月には早い気もするが、暖かそうで羨ましい。

毛皮はいいなあ。

私はしばし熟考する。

ただ、動物愛護の面から見ては如何なものか。倫理的には、どうなのか。自分と異なる考え方の人との折り合いの付け方はなんだろう。個性個性と言っても、生きづらい世の中である。

ぼんやりとしばし毛皮を見ていて、私は眉を寄せた。

あの毛皮、動いていないか?

神田さんの首に沿うように乗っかっている首巻が、時々ぴくぴくと動く。あたかもコタツで熟睡している年老いた猫が夢見ている時のようにぴくんと。

いやいや。

そんなわけなかろう。

きっと疲れているのだ。

首巻が?ぴくんと?

見間違いだ。

私は目を擦り、眉間を指で揉み、瞬きをした。

神田さんはゆうゆうと、バスの後ろの席の背もたれに頭を預けながらくつろいでいる。

ぴくぴく。

と、神田さんははっしと立ち上がる。

ああ、バスが着いた。

茶色の首巻がコートの色とあっている。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る