第14話 かくして、岡山生活はスタートした。
この日は学校も春休みのため、小中学生はほとんどが在園中。
食堂では、小学生以上の子どもたちの食事が始まろうとしている。
炊事場の前で配達の米と麦を下ろし、伝票を持って事務室に向かう山藤氏に伴われて、堀田氏もよつ葉園の事務室に向かった。
事務室には、ちょうど、森川一郎園長が在室していた。
伝票を書記の女性に渡した後、山藤氏は、堀田氏を森川園長に紹介した。
「森川先生、こちらが、この度O大の助教授で赴任された、堀田繫太郎先生です。それから堀田先生、この方が、このよつ葉園の園長の森川一郎先生です」
「もしお時間があるなら、少し寄って行かれるとよろしかろう。今ちょうど窓ガラスさんは昼飯時ですから、少し遅めに行かれたらいい。山藤さん、堀田先生、どうぞ園長室に」
老園長は、出入り業者と大学教員の若い男性を園長室に招いた。
程なく、若い保母がお茶を持ってきた。
「新橋先生、もとい、山上先生でしたね、この度は、ご結婚おめでとうございます」
山上敬子保母に、米屋の山藤氏があいさつを兼ねて、新任助教授を紹介した。
「山藤さん、ありがとうございます。それから、堀田先生、はじめまして。私は、よつ葉園の保母をしております、山上敬子です。この度はO大の助教授に就任されたそうで、誠におめでとうございます。どうぞ、ごゆっくりなさってください」
そう言って、彼女は園長室を退室していった。
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この後よつ葉園を辞した山藤氏は、喫茶「窓ガラス」に米を配達したついでに、新任助教授を紹介した。
堀田助教授は程なく、この店の常連客の一人となった。
さらに山藤氏は、これからO大学に赴任する堀田氏のために、配達がてらの駄賃で津島町の大学施設をかれこれ案内した。一通りの「仕事」を終えて官舎に戻ったら、すでに、先日京都から送った荷物が到着していた。
旅装を解いて新生活の準備をするところまで、山藤氏は付合った。
荷物を解いて発生したごみ一式は、山藤氏が配達用トラックに乗せて引取って持ち帰った。
その後彼らは、山藤氏の行きつけの岡山駅前の居酒屋で一杯飲んだ。そこで経済学部の簿記講座を担当する教授と知合った堀田氏は、これまで縁のなかったクラブ活動の顧問になることとなった。
その顧問職は、彼の教員生活が終わるまで続いたという。
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