第30話 死闘の末 生き残ったふたり
「首よ、回れ」とレンレンは言った。
すると、彼女の首がくるりくるりと回った。
首から上の頭部は大輪の向日葵の花。それがくるくるくるくると回る。
向日葵畑の向日葵の花たちも相変わらず回っている。
奇妙な風景。
「あなたたちの首も回るのよ」
ダダ、シャン、ノナ、アモン、10人の肉体労働者たちの首が、彼らの意志に反して、横を向き、さらにあり得ない角度に曲がっていった。
「ぎゃっ」とアモンは叫んだ。
「いやーっ、自分の首が、首があっ」
ノナの首もギギギと回っていく。必死で首に力を込めて抵抗した。
「や、ヤバいヤバいヤバい。早くあいつを殺せ」
ダダの首も背中へと回っていた。
「いやですわっ、わたくしはまだ死にたくない。20歳になって、除隊してから真の人生が始まるのに!」
シャンは抵抗したが、ギギッと首が変な方向へ曲がっていく。
「助けてくれーっ」
肉体労働者たちの首も回転を始めていた。
ト音記号の姿になり、首がなくなっているユウユウだけが無事だった。
彼女は呆然とダダたちを眺めていた。
ノナが両目から長さ30センチの針を飛ばした。首が変に曲がっているせいで、明後日の方向へ飛んでいった。
レンレンは無傷だ。
シャンは敵悪魔少女に向かって走り出そうとしたが、首の骨が折れそうになっている激痛のせいで、果たせなかった。彼女の脚はガクガクと震えるばかりだった。
「ユウユウ、早くあいつを殺せ! おまえだけが頼りだ!」とダダが叫んだ。
ワタシだけが頼り? ということは、見放したら、こいつらは全員死ぬの?
それは、素晴らしいことじゃないの、とユウユウは思った。
彼女は静観した。
「ユウユウ、裏切るな。どんな報酬でもやるぞ! 教皇の甥であるボクの妻にしてやってもいい!」
あなたの妻になんて、死んでもなりたくない……。
「回れ回れ、首よ回れ」とレンレンは唱えた。
ボキリ、と音を立てて、アモンの頸椎が折れた。
「ぎぼっ」
彼は口から泡を吐きながら倒れた。
「首よ、華麗に回転せよ!」とレンレンは叫んだ。
10人の肉体労働者たちの首が、バキバキバキバキバキバキバキバキバキバキ、と折れる。
「げえっ」
「ぐはっ」
「ぎゃーっ」
「おだずげっ」
「いだっ」
「ああーっ」
「お母さーん!」
「あがが」
「死にたくねーっ。あっ」
「どべし」
彼らも地面に倒れた。
首が角度360度、曲がっている。
「頭部回転、くるりと回転」とレンレンはささやいた。
ノナの首が180度から360度へと回った。
「自分、死にたくないっす。まだ処女なのにーっ!」
彼女の首の骨も折れ、神経や筋肉繊維も切断された。
「きゃっ……」
ドサリと倒れ、針の悪魔の形態のまま、彼女はこと切れた。
「首よ、回れ回れ回れ」とレンレンは恍惚として言った。
必死に抵抗するシャンの頸椎も折れかけている。
「わたくしだって処女ですわーっ。いやーっ、死にたくないっ」
バキリ。
「あっ……」
美しいシャンの顔は、最後は苦悶の表情になっていた。
「回れ回れ回れ回れ回れ回れ回れ回れ回れ~」とレンレンは歌った。
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ~」
ダダは最後まで抵抗していた。
「ボクは教皇になるんだ。この国を支配するんだ。女の子をいじめていじめていじめて一生遊ぶんだ」
「あなたはいま死ぬのよ」
「た、す、け、て」
「殺すわ」
「いやだああああああああああああああっ」
バギッ。
バギバギバギバギバキ。
ダダの首は720度回転した。
完全に絶命。
「終わったわね」とレンレンは言った。
「ワタシはまだ死んでないわよ」とユウユウは言った。
「ユウユウさんはまだ神聖少女騎士なの?」
「ちがうわね。ワタシはいま、ただの悪魔少女よ。正義でも悪でもない」
「じゃあ、わたしと一緒ね」
ふたりは変身を解除した。
レンレン・ヴィンジーノとユウユウ・ムジーク。
彼女たちはとりあえず生き残った。
少なくとも、ダダたちには殺されなかった。
第99悪魔少女狩り小隊の攻撃をしのぎ切った。
ユウユウは1度は小隊の一員となったが、解放された。
レンレンは敢然と立ち向かい、大量殺人の魔力を発揮して、敵を皆殺しにした。
向日葵の花はもう回っていない。
「これからどうするの、レンレン?」
「ここにはいられないよね。きっとまた別の悪魔少女狩り小隊が現れるでしょ。お父さんとお兄ちゃんに迷惑をかけちゃう」
レンレンは回る向日葵亭の中に入った。
ユウユウも後につづく。
「お父さん、戦いは終わったよ。勝った」
レジンはほっとして、胸を撫で下ろした。
カラリも同じようにした。
「あいつらはどうなった?」
「死んだ」
「おまえが殺したのか?」
「正当防衛だよ。でももう、ここにはいられない。逃亡の旅に出るよ。昨日ダダさんが置いていった金貨、路銀としてもらってもいいかな?」
「全部持っていけ」
「100枚でしょ。多すぎる。全部はいらないよ。半分でいい。残り半分は店の経営に使ってよ」
「うちは繁盛している。心配はいらない。100枚持て。これは路銀じゃない、戦費だ。あいつらと戦いつづけてくれ、レンレン。無慈悲な悪魔少女狩りなんて、ぶっ壊してくれ」
「お父さん、ありがとう」
「レンレン、おまえは悪魔少女だったのか?」とカラリが訊いた。
「そうだよ。でも、心は人間だよ。お兄ちゃん、さようなら。大好きだよ」
「レンレン、達者でな」
カラリはレンレンを抱きしめた。
「お父さんとお兄ちゃんと別れなくちゃいけないなんて、泣きそうだよ」と言いながら、レンレンは両目からぽろぽろと涙を流していた。
「ユウユウさん、あんたは敵じゃないんだよな。娘を頼む」
「ワタシは死んでも、レンレンを守ります。この子は希望の星です」
「なに言ってるの、ユウユウさん。希望の星? くすぐったいから、そんなことを言うのはやめて」
「ユウユウでいいわよ。呼び捨てで」
「じゃあユウユウ、星なんて言うな」
「訂正するわ。希望の花ね。向日葵の花」
「それならいいかも」
あはははは、とレンレンは声をあげて笑った。
レンレンは金貨を半分、ユウユウに渡した。
ふたりはリュックに金貨、水筒、ビスケット、ひと揃いの着替えなどを詰めた。
どこへ行くか決めないまま、彼女たちは旅に出た。
とにかく早くラシーラ村から離れなければならなかった。
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