第17話 ダダとパンピーの交際 指揮棟屋上から見る風景
ダダとパンピーは連れ立って村長室へ行った。神聖少女騎士たちとアモンも付き従っている。
ピピンはダダを見て嫌そうな顔をした。悪魔少女狩りでラシーラ村を混乱と恐怖に陥れた男で、ひとり娘パンピーを悪魔少女ではないかと疑っている。ダダがいるだけで不快だった。
「今度はなんのご用ですか」
ピピンは苦々しく言った。
「うれしい報告だよ。ボクとパンピーちゃんは付き合うことになった」
「は?」
村長の目が点になった。
「パンピーちゃんがボクの恋人になったんだよ」
ピピンはわけがわからなかった。
昨日「パンピーちゃんが悪魔少女に変身したら、処刑させてもらう」と言っていた男が、今日はパンピーの恋人になっている。どういうことなんだ?
「パンピーはリュウ・ジュピタという男性と付き合っていたはずですが」
「その男なら処刑したよ」
「えっ?」
「回る向日葵亭でスープに蠅を入れ、喫茶店マルガでカルボナーラに髪の毛を入れて、悪質な営業妨害をした。おまけに司教であるボクに反抗しようとした。重罪だ。死刑にしたよ」
「死刑とは、いくらなんでもやり過ぎではないですか」
「飲食店で犯行をしただけじゃない。あいつは麻薬の売人だった。そんな男をパンピーちゃんの恋人にしておいてよかったのかい。ボクは彼女を救ったと思っているよ」
ピピンは沈黙した。リュウ・ジュピタがゴルシバの構成員だったことは知っている。パンピーの交際相手としてふさわしいとは思っていなかった。娘が柄の悪い男とばかり付き合うのを心配していた。
今度の恋人はダダか。こいつも悪辣な男だ。
「パンピー、本当にバルーン司教の恋人になったのか?」
「うん。この人と付き合うよ」
こんなやつのどこを好きになったのだろう。ピピンには娘の好みがまったくわからなかった。
「バンビーノ家にとっても喜ばしいことだよ。ボクは教皇の甥だって、何度も言っているだろう。ボクは将来、少なくとも枢機卿にはなり、バルーン教皇国の政権運営にかかわることになる」
本当は教皇になると言いたいところだが、ダダも現時点でそこまでは明言できなかった。
パンピーは強い男が好きなのだろうか、とピピンは思った。この男の権力が気に入ったのか?
「パンピーちゃんとボクが結婚すれば、ピピン村長はパーム県の知事くらいにはなれるだろうね。もっと出世できるかもしれない。村長、ボクと一緒にこの国を良くしていこうよ」
パーム県の知事? 大出世だ。
ピピンは色めき立った。田舎の村長で終わると思っていたが、とてつもない運命が転がり込んでくるかもしれない。
「わかりました。今後いっそうバルーン司教に協力します。パンピー、この方と仲よくするんだぞ」
ピピンも権力が大好きだった。
パンピーは内心で父親を軽蔑した。リュウは害虫だったが、ダダは大害獣だ。絶対に殺さなくてはならない。
しかしその意図は肉親にも明かせない。
「うん。ダダさんと親密になれるようにするね」
パンピーは男心を蕩かせるような笑みを浮かべた。
「これで父親公認の恋人だ。パンピーちゃん、ボクと結婚すれば、きみは枢機卿夫人になれるよ。華やかな社交界が待っている」
社交界になんて興味はない。悪魔少女である間は悪い男たちを殺し、大人になれば、本当に好きな男性と結婚し、この村でしあわせになる。それがパンピーが描いている人生設計だった。
だが、まずは大害獣ダダを始末しなければならない。大仕事だ。
「デートしましょう。あたしはあなたのことをよく知らない。あなたもあたしの外見しか知らない。お互い、内面をよく知り合わなければ、よい恋人同士にはなれないわ」
「そうだな。デートしよう」
パンピーは絶世の美少女だ。ダダは女好きで、首都マーロなどでさまざまな女性を見てきたが、パンピーほどの上玉は他に知らない。そんな少女からデートと言われて、心が躍った。
「まずはいい風景を見ましょう。村役場の指揮棟の屋上から見下ろす景色は最高よ」
パンピーはダダを連れて、階段を上った。
「おまえたちもついて来い」とダダは配下に命令した。
シャン、ノナ、ユウユウ、アモンが付き従う。
「デートなのに、ふたりきりじゃないの?」
「パンピーちゃんには悪魔少女の疑惑がある。ボクを裏切り、殺そうとするかもしれない。きみの内面を知り、本当に信頼できるようになるまで、護衛は必要だ」
ダダは用心深かった。
こいつを殺すには時間がかかるかもしれない、とパンピーは思った。危険きわまりない神聖少女騎士が3人もついている。命がけの仕事になりそうだ。
指揮棟は9階建ての円柱状の建物だ。ラシーラ村で最高の高層建築物。その屋上から見る風景は、確かに絶景だった。
眼下には、市街地、見事に耕された農地、草原や森林、湖沼などの自然が広がっている。遠くには青く霞んだ山脈が見える。
西には敵国であるガーラ王国との国境になっている険しいバミューラ山脈が見える。そこに夕陽が沈みつつあり、空が赤く焼けていた。
「美しい景色だ。だが、きみの美しさには及ばない」
ダダが歯の浮くようなことを言った。
「ありがとう。うれしいわ」
パンピーはにっこりと薔薇の花のように笑い、ダダに身体を寄せた。彼の肩に頬を乗せる。
ダダは少女騎士たちにもはっきりとわかるほどにやけた。鼻の下を伸ばした。
太陽が完全に沈むまで、ふたりは寄り添っていた。
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