第64話
「貴様、ぶっ飛ばされたいのか?」
エイラは殺す勢いでアーロンを睨んできては近づいてくる。
しかし、アーロンは臆することなくエイラを上から目線で睥睨した。
「エイラ、お前は軍部のトップという革を被ったただの獣だ」
「獣か……私はむしろ獣を殺す側の人間だが。この前、発情した魔王軍幹部を潰したばかりだ。アーロン、口を慎め」
「ふっ、この前の臭い汗の匂いがもうしないからちょっとは感心したが、血の匂いがする。エイラ、気持ち悪い近づくな」
「貴様……私はイラス王国のために戦ってきたのに、気持ち悪いだと?」
エイラはまたショックを受けた。
汗の匂いで気持ち悪いのは理解ができないが、血の匂いが気持ち悪いと自分を罵ったのは彼が初めてだからだ。
エイラは目を細めて、アーロンの胸ぐらを掴んだ。
「せっかく手伝いにやってきたのに、この私を侮辱するのか!」
「俺を侮辱するような手紙を送っておいて何ぬけぬけと!!離せ!」
「っ!!」
アーロンはエイラを右手で押したが、彼が押したのはエイラの左胸だった。
彼の掌とエイラの実に豊満なマシュマロが合わさり、胸はそのまま押し込むように沈んでから、押し返すようにアーロンの手を弾き返した。
後ろに下がるエイラ。
執事たちはこの光景を見て冷や汗をかいている。
それもそのはず。
わざとじゃないとはいえ、血の戦姫の胸を遠慮なく触ったのだ。
そもそも理解ができなかった。
自分達が仕えるエイラという人は、決して誰かに体を触られるような人間ではない。
彼女は許可なく自分の体を触ろうとする連中を嫌悪している。
ゆえに、ざわとであれ、故意であれ、男たちがエイラの体を触ることは絶対できないはずだが、
アーロンは彼女の胸を触った。
「「……」」
これからどうなるのかと、執事たちがブルブルと身震いしていると、エイラは
アーロンに殺意を向けることなく、悔しそうに彼を見つめるだけだった。
自分の体が触られた事による悔しさではなく、何かを訴えるような視線。
アーロンはエイラの目を見て、暗い表情をし、目を逸らして口を開く。
「ハミルトン家の領地の案内はメイドがしてくれるはずだ」
と、簡潔に言ってアーロンが踵を返そうとすると、エイラが彼の肩を掴んで止めた。
「貴様が案内しろ」
「……はあ、本当にお前は面倒臭い女だ」
と、アーロンはやれやれとばかりに息をついて、エイラに顎で邸宅を指し示す。
すると、エイラは彼の態度が気に入らないのか頬を若干膨らませてアーロンのお尻を優しく蹴る。
メイドたちと執事たちは二人の後ろ姿を見て、身震いしながら心配そうに見つめる。
アーロンとエイラはゴージャスな邸宅の中に入った。
最上級絨毯が敷かれており、数々の調度品によって飾られた一階を見て、エイラはぼーっとなる。
エイラがここにきたのは2回目だが、一回目の時は、婚約ラッシュで気落ちしたから屋外テラスで国王とアーロンとお酒を飲んだので、建物の中に入ったのは今回が初めてだ。
自分の邸宅とはまるで違う。
規模は小さいが、さまざまな国から取り寄せた絵画や装飾品。2階でも3階でも彼が集めた芸術品が並んでおり、欄干や階段も非常に作り込まれている。
建物自体が作品のような感じだった。
廊下、柱、天井のデザイン一つとっても、自分の屋敷とは大違いだ。
いくら教養のないエイラでも、自分の屋敷は味気ないことがよくわかる。
エイラは悔しくなったので廊下を歩く時に、アーロンのお尻を優しく蹴った。
「エイラ、何しやがる」
「ふん」
次の目的地は書斎だ。
「……なんだこの量は」
綺麗に整理された本が目白押しで、教育、言語、法律、経済、行政、数学、科学、魔法などとジャンル分けされた本棚を見て、エイラは圧倒された。
もちろん、エイラは戦争や戦闘に関する本はよく読むが、この書斎を見ると、なぜ彼が文の頂点に君臨する男なのかがよくわかる。
「書斎の構造はざっくりこんな感じだ」
「……」
「エイラ?どうした?」
この屋敷の中身を見れば見るほど、この男のいいところが見える気がして、エイラはムカついた。
「ふん!どうせこんな大量の本の内容なんか覚えているはずがないだろ!装飾品として使っているのか?」
「……エイラ。世の中の人間はみんなお前みたいに頭が悪くないぞ」
「んんんん!貴様を試してやる!」
と意気込んでエイラは分厚い法律に関する本を一冊抜いた。
そしてページをめくるエイラだが、
「……」
言語が違うから、エイラは文章一つも理解することができなかった。
「それは古代言語で書かれた法令集だ。先達の知恵が凝縮された珠玉の一冊で法律を作る時に参考にしている」
「……」
「他の本で試してもいいけど」
「黙れ!ふん!私を馬鹿にしやがって!」
「お前は正真正銘の番犬でバカだ」
「……」
エイラは本を元の位置に戻して、悔しそうにアーロンを睨んでは、またお尻を軽く蹴る。
「エイラ、もう一度俺のお尻を蹴ると、痛い目に遭うぞ」
「二度とバカと番犬呼ばわりしないなら考えてあげるぞ!」
と、頬を少し膨らませるエイラに、アーロンはクスッとほくそ笑んで、エイラの額を人差し指で突きながら口を開く。
「番犬番犬番犬バカバカバカ」
「んんんんん!!!」
いよいよキレたエイラはアーロンの胸ぐらをまた掴もうとするが、アーロンが見事によけ……ることは叶わず、ステップを踏み外して、エイラの方へ倒れてしまった。
しかし、心配無用。
エイラのはち切れんばかりの豊満な胸はアーロンの頭にダメージを与えることなく受け止めてくれた。
エイラの谷間にアーロンの頭が完全にフィットしてしまった。
「っ!」
エイラは一瞬体をひくつかせるが、その豊満な胸によって、彼女の動揺がアーロンに伝わることはない。
「……」
「……」
書斎には二人だけでメイドと執事たちは二人を恐れて近づことしてない。
カールとカリンはとばっちりがかかることが嫌で寮に返った。
妊娠したメイド長のサーラは孤児院にいる。
つまり、この前みたいに突然誰かが入ってくることはない。
どうなることやら
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