第53話 フランとみんなは知ってしまう

「フランのやつ、最近来ないな」

「ん、カサンドラちゃんとうまく行ってるんじゃないの?」

「だといいんだがな」


 エリカと俺は二人きりで昼飯を食べている。


 カサンドラはまだ医務室にいるはずだ。 

 

 彼女の体の調子が良くなることを祈りながら心配そうに遥かかなたの方へ視線をやると、そこには妹であるカリンがそそくさ走ってきた。


「お兄様!!」

「「カリン?」」


 息を切らしながらやってきたカリンを見て、俺とエリカは不思議そうに首を捻る。


「お兄様!お姉様!カサンドラさんが家に帰りました!」


「「はあ!?」」


 一体どういうことだ。


 カサンドラが家に帰るという選択肢は原作に存在しないぞ。


 俺は当惑したが、フランなら何か知っているのではないかという疑問がふと浮かんできた。


「カリン!フランはどこだ?」

「フランさんは……ここ数日、とても落ち込んでいて、今エルシアさんと一緒にいます」

「案内してくれ」

「はい!」

 

 俺が立ち上がると、エリカが俺の手を強く握ってきた。


「エリカ……」

「私も行くわ!」

「わかった」


 俺は空いている手でエリカの頭を撫でてあげた。


 途中で、カリンはカサンドラが家に帰ったと最初に言ったのはフランだと教えてくれた。


 俺とエリカとカリンはオルビス研修所にあるテラスへ向かう。


 そこには案の定、とても落ち込んでいるフランと彼を慰める黒髪の地味メガネ子であるエルシアがいた。


「フラン!」

「せ、先輩……」

「カサンドラのこと、一体どういうことだ?」

「……」

 

 俺の問いにフランは申し訳なさそうに顔を俯かせる。

  

 すると、エリカが眉根を顰めて訊ねた。


「フランくん、カサンドラちゃんと何があったの?」

「……」


 エリカに見つめられるフランは、俯いた顔を上げて、俺たちを見る。


 そして徐に口を開いた。


「……実は、この前、カサンドラ様……っ!なに!?」


 途中で、フランは眉間に皺を寄せて驚く。


 なぜこんな反応をするのか理解に苦しむ俺たちだが、彼の表情があまりにも真面目だったから、俺たちは突っ込むことができなかった。


「ブーちゃん……その人たちを尾行して一体何があったのか、僕に教えて」


 独り言を言っているように見えるが、彼は自分がテイムした巨大マルハナバチに命令をしている。


 離れたところからも意思疎通できるなんて、便利そうだ。


 フランは目を瞑って全神経を尖らせる。


 真面目な彼を平民だと思うものは誰もいないだろう。


 約5分が過ぎた。


「っ!!そんな……う……なんでそんなことが……」


 フランは急に目を潤ませて悔しそうに握り拳を作る。


 そんな彼にエリカがいてもたってもいられなくなり、口を開く。


「フラン君!何よ?私たちに説明して!」


 エリカが大声で言うが、フランは俺たちを見ては首を左右に振って言う。


「言えません……言ってしまえば、巻き込まれてしまう……」

「巻き込まれるって、何にですか?」

 

 カリンが問うと、フランは頭を俯かせ、困ったようにため息をついた。


 そんな彼にエルシアが言う。


「フランさん、大丈夫です。たとえ巻き込まれたとしても、それはあなたのせいじゃありません」

「エルシア様……」


 エルシアはフランの手を優しく握って上げた。


 そしたら、フランが俺たちを見回し、俺たちはみんな頷いた。


 すると、フランが難しそうな顔で周りを確認したのち、言う。


「カサンドラ様がイラス王国の国境付近で謎の集団によって拉致されました」


「「っ!」」


「先ほど、その襲われたカサンドラ様の執事たちが学園にやってきて、学園長に報告をし終えました」


 拉致られる選択肢はマジック★トラップで見たことがない。


 家に帰ったと聞いて、気が動転しそうになったが、拉致までされるとたまったもんじゃない。


 フランが破滅フラグを迎えないように協力するつもりだったのに、今度はカサンドラが破滅しかけている。


 なんという運命の悪戯だ。


 なんという皮肉な話だ。


 俺が心の中で嘆いていると、フランは言う。


「僕が行きます……僕が行くべきです。僕がカサンドラ様を連れて帰ります」


「「っ!」」


 引っ込み思案で臆病者のフランから出た言葉は俺たちを驚かせた。


 みんな言葉を失って何も言わずにいるが、俺はどうしても彼に聞かずにはいられなかった。


「なんで助ける?」

「そ、それは……ですね……その集団のボスっぽい人が巨大なムカデを操っていたと執事たちが言っているので、昆虫テイマーである可能性が高いからです。僕も同じ昆虫テイマーなので、その……大丈夫です……」


 確かに同じスキルを持つもの同士だと、簡単には倒せないのが常識だが、俺が思うに、それだけが理由ではなさそうだ。


「本当に、それだけか?」


 俺が目を細めてフランを睨むと、フランはひくついて、諦念めいた表情をした状態でいう。


「カサンドラ様が家に帰ったのは僕のせいですから。別にこれでカサンドラ様と仲良くできるとは思いません。ただ、僕の今までの人生を振り返ってみたら、僕の生まれた理由っておそらくこれではないかと。僕はから」


 あってないものか。

 

 作中の彼も同じことを言った。


 いよいよ我慢ができなくなり、カサンドラを犯すフランは涙ぐみながらあのセリフを言っていた。


 作中のカサンドラが自分を犯す彼に罵詈讒謗の限りを尽くしても、フランは自分はあってないものと続けて彼女に聞かせる。


 あれは、命をも捨てる覚悟ができているという意味合いを持っている。


 つまり、奴は死ぬつもりだ。


 本当に……


 放っておけない。

 

 俺はフランにヘッドロックをかける。


「まだカリンと同じガキのくせに、あってないものとか、哲学的すぎるだろ。おい、難しいこと考えんなよ。一人で抱え込もうとすんな。ここは後輩らしく、先輩に頼むのが筋だろ」

「い、いや……僕、みんなに迷惑ばかりかけて……」

「お前はもっとかけていい。ていうか、かけまくれ。俺はお前を助ける。カサンドラを探すの手伝うよ」

「先輩……」


 フランが目を潤ませると、エリカが、自分の巨大すぎる胸をムント逸らし、俺に同調する。


「私も手伝うわ。フラン君を守ってあげる」

「エリカ先輩……」


 エリカを見て感動するフランに、カリンが小さな胸をムンと逸らす。


「ヒーラーは絶対必要でしょ?」

「カリン様……」


「カールさん、私はまだ共通魔法しか使えませんが、ちゃんとフランさんをフォローしますよ」

「エルシア様……」


 どうやら、俺以外のみんなもやる気満々のようだ。


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