第51話 慰めと新たな脅威
翌日
昼休み
学園の屋外テラス
「本当に僕なんかが一緒でいいですか?」
フランはオドオドしながら視線をあっちこっちに送る。
「いいに決まってるわ。フラン君の話はカールからよく聞いたから」
「……」
「私はエリカよ。カールの婚約者なの」
「婚約者……あ、僕はフランです……今日は昼ごはんに誘ってくださって本当にありがとうございます……」
「ふふ、いっぱい話そうね」
エリカは優しく微笑みながらフランに話した。
今朝、エリカにフランと一緒に昼ごはんを食べないかと持ちかけたが二つ返事だった。
引っ込み思案のフランに対してめっちゃ優しい。
普通、こう言うのって「はあ?面倒臭い。あんなやつ気にせずに二人で食べようよ」とフランを腫物扱いすると相場が決まっているのだが、今のエリカはまるで天使みたいだ。
後でたっぷり可愛がってやろうではないか。
俺たちはとりあえず昼飯を食べ始める。
「カール、このサンドイッチ美味しいから一口食べて食べて!」
「お、おう。わかった」
エリカが手で自分のサンドイッチを握って俺の口に近づけた。
なので俺は一口パクつくと、不覚にも唾がサンドイッチに結構ついて糸を引く。
エリカはそれはなんの躊躇いもなく自分の綺麗な口の中に入れた。
まあ、もらったからには返すのが道理ってやつだ。
「俺のパスタも食べて」
「私サンドイッチだからフォークがないわ。カールの貸して」
「うん」
エリカが俺からフォークをもらうと早速パスタをグルフル回して口の中に入れる。
すると、フォークにエリカの唾液がついた。
エリカの唾液がたっぷりついたフォークを受け取った俺は普通にパスタをぐるぐる巻にしてそれを口に入れた。
「おお……」
別に不思議な光景ではないが、フラン君はぼーっとなって夢うつつだった。
食事を終えてティータイムを持つ俺たち3人。
「んで、今日はどんな感じだった?」
と、俺がさりげなく聞くと、フランが口を開いた。
「……今日、カサンドラ様はずっと医務室にいましたので、これっといった接触は……」
「なるほどな。んで、クラスの方はどう?やっていけそうか?」
「……今日は大丈夫でした。カリン様とエルシア様が気を使ってくれたおかげで、周りの方々ともなんとか……」
「そうか……ふむ。カリンがな……」
黒髪の地味眼鏡っ子であるエルシアは元々フランを助ける役割だから別に不思議ではないが、マジック★トラップの2部作に出るはずのないカリンが助けてくれていることに、俺は感動した。
「カリンちゃん優しい……後でたっぷり抱きしめてあげよう!」
と、エリカが嬉しそうに言うと、フランが質問をしてきた。
「あ、あの……お二方はカリン様とお知り合いですが?」
フランの問いにエリカがニッコリ笑顔で言う。
「カリンちゃんはカールの妹よ」
「え!?じゃ、カール先輩はハミルトン家の……」
「あ、名乗らなかったのか?」
「……」
フランは衝撃を受ける。
「じゃ、じゃ……エリカ先輩も……」
「エリカな。ボルジア家出身な」
「あの、血の戦姫の……」
コップを握っているフランの手は震えまくる。
そんなフランを落ち着かせるべくエリカは少し眉根を顰めて窘めるように言う。
「貴族とか爵位とかはどうでもいいの。問題なのは、フラン君とカサンドラちゃんの関係だからね」
「は、はい!」
エリカの言葉には優しさが込められている反面、人を従わせる強さがある。
やはりエイラさんの娘だ。
「シャキッとして。女の子はいつもオドオドしているような男にあまり好感が持てないの。自信を持つことが大事よ。いくら虫を嫌う人だとしても、フラン君の勇気ある姿を見せつけたら、きっとカサンドラちゃんはフラン君を認めてくれるはずよ」
「じ、自信……」
おお、なかなか言えてるな。
確かに作中でのフランはずっと引っ込み思案で、言葉少なめで陰湿な雰囲気を漂わせていた。
つまり、フランの普段の振る舞いを正せば、二人の関係は今みたいに最悪とまではいかないのか。
フランの性格上「オルレアン家の御子女相手にそんなこと、無理です……」とか言いそうだが、エリカの言葉には力があった為、彼は弱音を吐かない。
「……」
フランは返事をすることなく黙り込んで真剣な顔で考える仕草をする。
そしたら、エリカが一段と優しくなった口調で言う。
「きっとあの子は助けを求めているわ」
彼女の話を聞いたとき、俺とフランは理解ができなかった。
しかし、エリカの表情があまりにも真面目だったから、突っ込むことはできない。
そんな余地を与えないほどにエリカは実に神々しい。
フランは頬を緩め口を開く。
「そう……ですか」
「そうよ。ふふ」
エリカは柔らかい笑みを湛える。
やべ……
今のエリカ見てると本当にいい母っぽすぎて正直グッとくる。
母がエリカなら父は俺か……
幸せすぎるだろこれ……
俺がエリカの笑顔に釣られる形で頬を緩めると、フランが俺たちを見て照れるように言う。
「なんか、お二方とも、とっても格好良くて、お似合いです」
フランに言われたエリカは嬉しそうに俺を抱きしめる。
「お、おい、エリカ……」
「ふふ、そうよ。私とカールはお似合いなの!だからね、フラン君も近いうちにきっと見つかると思うの!フラン君に似合う女の子が!」
「そ、そんなの……僕はこんなだから一生独身を貫こうかと……」
「そんなこと言わない!きっと見つかるから!」
「……」
俺の頭がエリカの胸によって押しつぶされそうになるが、俺はやっとエリカの天国すぎる胸から抜け出して、フランの顔を見た。
すると、
フランの顔は
前より少し明るくなった。
X X X
医務室
「家に帰る?」
「はい……」
「どうして?」
「私、怖いですわ……」
自分の妹の様子が心配になり医務室へやってきたカトリナ。
彼女は主人公のベルと剣士のナオミとモブ男くんと同じパーティーである。
突然家に帰りたいと言い出す妹に困惑しているが、カトリナは自分の妹の過去をよく知っている。
長い金髪を揺らし、合金でできた眼鏡をかけなおしたカトリナは悔しそうに言う。
「私がそばにいる!それにここはオルビス魔法学園よ。カトリナが辛い経験をすることはもうないから!」
ベッドで横になっているカサンドラは、強烈な視線を向けてくる自分の姉から目を逸らし、ボソッと言葉を漏らす。
「お兄様じゃないと……やっぱりだめですわ……」
「っ!」
カトリナは唇を強く噛み締めて握り拳を作る。
だが、自分の妹でるカサンドラには何も言えなかった。
オルビス魔法学園を首席で入学し、魔道具開発において天才的な才能を持つ彼女だが、自分の妹に対しては何か後ろめたいことがあるらしく、一言も言えなかった。
X X X
数日後
フランはいつもと同じく引っ込み思案で根暗ではあるが、その顔には希望が宿っているように見える。
と言うのも、カール先輩にいろんなことを教わり、エリカ先輩からも勇気づけられ、カリンとエルシアにはいつも良くして頂いたから。
だから、カサンドラには自分の虫関連のスキルを使わずに、同じパーティーメンバとして円満な関係を築こうと言うのだ。
もうオドオドしたりはしない。
そう固く決意したフランはカリンとエルシアと共に放課後に医務室へとやってきた。
だが、そこにカサンドラはいなかった。
不思議に思い、フランはカリンとエルシアと別れ、いろんなところを探した。
約1時間ほど探した頃、藁にも縋る想いで、厩舎へと足を運ぶと、そこには複数の執事たちに案内され馬車へ乗ろうとするカサンドラの姿がいる。
「か、カサンドラ様!」
そう叫んで、足を動かし、馬車の近くで足を止めるフラン。
するとカサンドラは目を丸くしたのち、警戒する姿勢を取る。
カサンドラの様子を察知した執事たちはフランの前に塞がった。
「あ、あの……カサンドラ様、僕、カサンドラ様に迷惑かけずに同じパーティーメンバーとして頑張りますので!よろしくお願いします!」
頭を深く下げるフラン。
「あなたの顔と虫なんか二度と見たくありませんわ」
「……」
「行きましょう……うっ!」
「お嬢様!大丈夫ですか!?」
冷静な面持ちだったカサンドラは急に吐きそうになり、口を抑える。
馬車に乗ったカサンドラはそのままフランの前を通りすぎ、やがて点となってなくなった。
X X X
謎の人side
「オルレアン家の次女がマッキナ帝国に移動中だと?」
「はっ!長期休みをもらい、今ちょうどイラス王国の国境沿いにいるとのことです!」
不細工のおっさんが部下からの報告に大変満足そうに口角を吊り上げる。
「うっへへへへ!カサンドラちゃん、おじさんがまた可愛い虫たちと共に会いに行くよ〜。昔、俺を侮辱したオルレアン商会の奴らに今度こそ、痛い目にあってもらわないとな〜うっへへへへへ!!!」
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