第14話 婚約ラッシュ
俺とエリカはいそいそと外へ行き、3人(父上、エイラさん、国王陛下)のいる広場へと向かった。
多くのメイドが3人に平伏し、厳かな雰囲気を漂わせている。
だが、父上とエイラさんはいがみ合っていた。
「ゴリラみたいに暴れることしかできない暴力女が私の屋敷に足を踏み入れるとは……屈辱だ」
「はあ??誰が好きこのんでこんな小さな居心地の悪いとこにくるものか!私こそ不愉快だ。アーロン!」
「今回は俺に免じて戦うことはやめたまえ。今日は実に喜ばしい日だ。何にせ、二人のおかげで魔境で最も資源が豊富な土地が我がイラス王国のものになったわけだから。今回は二人の功績を認めて褒美の件について話そうとしているというのに、そんなに敵対することはなかろう」
父上とエイラさんが言い争っていると、国王陛下がげんなりしながら仲裁に入る。
だが、エイラさんが不満げに国王陛下に抗議する。
「なぜ、その話をハミルトン家の屋敷でする必要があるんですか!?頭の良さと喋ることしか能のないムカつく男です。周りに綺麗なメイドしかいないわけだし、本当にいい趣味持ってるんだな。アーロン」
エイラさんは挑発するように目を細めて父上を睨んできた。
だが、父上は負けない。
「ふっ、いい趣味とはどんな趣味かね?」
「っ!私に言わせるな!」
「考えることが発情期の猿並みだな。理性のかけらもあったもんじゃない。お前が考えるようなことは起きてない。お前の屋敷こそ、男執事ばかりだと聞いたが、本当にいい趣味持ってるな」
「んんん!!!貴様!私を侮辱するな!」
「喧嘩を売ってきたのはお前の方だ。エイラ!」
「ぶっ飛ばしてやるぞ!姑息な奴が!」
「やってみろ。その代償は大きいぞ。というか、くっつくな。血の匂いがする」
「お、おい……二人とも……ったく……世話が焼けるな。子供じゃあるまいし」
エイラさんと父上は互いを殺す勢いで睨んでいる。
国王陛下は閉口して頭を抱える。
まさか、こんなに仲悪かったなんて……
これは止めに入った方が良かろう。
俺はエリカの顔を見て頷いた。
すると、エリカも意を決したように頷き返してくれる。
「父上!!」
「お母様!!」
俺たちが手を振りながら二人のところへ行った。
二人は俺たちを見た。
そして目を丸くして
「「誰だ!?」」
「「……」」
俺とエリカはショックを受けた。
まあ、当たり前だよな。
父上が俺を見たのは11ヶ月前だ。
つまり、絶賛キモデブをやっていた時である。
俺が残念そうに苦笑いを浮かべていたら、父上が驚きながら口を開く。
「まさか、カール……」
「はい。ハミルトン家の長男であるカールでございます。父上」
「あああ……こ、これは……な……」
父上は開いた口が塞がらないまま固まってしまった。
俺は礼儀正しく片膝をついた。
そして、
「エリカ……」
「お母様……」
「エリカが……こんなに美しくなるなんて……」
「お母様!!!!!」
エリカは勢い余って自分の母に飛び込んだ。
エイラさんはそんな自分の娘を抱き止める。
「私、ダイエットに成功しました……」
「エリカ……よく頑張ったな」
「はい……カールと一緒に頑張りました」
「……薬の方は?」
「そんなの、もういりません」
「……」
エイラさんは無言のままエリカを強く抱きしめる。
そして、クリスタルのような涙が頬を伝い、地面に滴れ落ちる。
武を代表するボルジア家の当主の涙が文を代表するハミルトン家の土地に落ちたわけである。
エリカはボルジア家の次女だ。長女は病死したため、エイラさんにとってエリカは目に入れても痛くないかわいい娘だろう。
めっちゃ強そうに見えても、やっぱり娘のことが大好きないい母親だ。
見た目だけだと母娘じゃなくて、完全に姉妹って感じだけどな。
俺が二人の微笑ましい光景を見ていると、父上が話しかけた。
「カール」
「はい」
「将来、ハミルトン家を任せていいか」
「お任せください」
「……よろしい。これから魔法、行政、言語、法律など、いろんな学問や知識を勉強して、ハミルトン家にふさわしい人間になるがいい」
「はい!」
「……」
父上は必死に涙を堪えている様子であった。
その姿を見て、俺が安堵のため息をついていると、国王陛下が俺たちを見て非常に満足げに頷いた。
俺はエリカの方を見る。
すると、自分の母に抱きしめられているエリカも俺を見て意味深な笑いを見せる。
俺たちはすっと後ろに下がって、二人で並んだ。
父上とエイラさんはキョトンと小首を傾げて互いを見てから俺たちに目を見やる。
すると、エリカがドヤ顔で俺の腕にくっついた。
俺は口を開く。
「父上、エイラ様、俺たち婚約しました」
「「なあああああにいいいいいい!?!?!?!」」
二人は目をカッと見開いて叫ぶ。
国王陛下も目を丸くして、相当驚いたように口を半開きにする。
「い、いや……カール……一体何を言っているのかさっぱりわからないが……」
「エリカ……これは一体……」
体をブルブル震えさせる二人。
俺は二人に向かって語る。
「俺は、ボルジア家の方々の力をお借りしながらエリカと一緒にダイエットをしました。その過程で騎士団長を務めているヨハネさんと、ボルジア家に仕える執事たちがとても優しくていい方々であることがよくわかりました。もちろん、エリカもです。確かに、性格とか文化とかは違いますが、俺はそこがいいです。真っ直ぐなエリカが大好きですから」
「私もカールのことが大好きです!カールは私を導いてくれました。私の全てを変えてくれました!もう絶対認めて頂きますからね!」
「い、いや……カール。ダメだ!認めない!考え直せ!」
「そ、そうだ!エリカ!アーロンの言う通りだ。考え直すんだ!これは絶対ありえない!!」
二人とも、仲悪いのにこういう時は息ぴったりじゃないか……
国王陛下はというと、
ニヤニヤしながら俺たちを見守っていた。
この状況を楽しんでいらっしゃる。
あの二人のことだ。
そう簡単に認めてくれそうにない。
どう二人を説得すればいいのやらと悩んでいると、急にメイド一人が父上とエイラさんのところへやってきた。
「あああ、あの……アーロン様、エイラ様……」
「「ん?」」
「私はハミルトン家に仕えるナオミと申しますが、お伝えしたいことがございます」
二人はまた互いを見つめあって不安そうに頷いてナオミと言うメイドに視線を向ける。
「私もボルジア家に仕えるダンという執事と婚約しました……」
「「っ!!!」」
衝撃を受ける父上とエイラさん。
すると、周りにいた他のメイドたちが一気にやってきては。
「実は私もボルジア家に仕えるアランという執事と……お付き合いさせていただいておりまして……」
「私も、ボルジア家の執事のカザンさんと婚約を……」
「私も……」
「私も……」
……
カミングアウトが続く中、父上とエイラさんの表情がだんだん固まっていく。
そして、極めつけは……
「……メイド長のサーラと申します。私もボルジア家の執事長・レンさんと婚約しておりまして……その……ん……とても申し上げにくいですが……」
メイド長のサーラさんはアラサーだ。とても有能で他のメイドたちの精神的支えと言えよう。
あまりにも有能すぎることから父上にも認められ父上の重要な仕事も手伝うほどである。
そんなサーラさんは頬を朱に染めてモジモジしながら自分のお腹をさすり目を逸らしながら口を開く。
「すでに……できまして……」
「「「……」」」
まさか、こんなことがあったなんて。
俺は周りを見渡した。すると、ティアナの姿が見える。
彼女を俺を見てにっこりと微笑むだけだった。
そしたら、ティアナの隣にいるルビがこともなげに言う。
「多分、付き合ってないのって、私とティアナくらいだよね?」
「そうね」
「ボルジア家の執事の中でもスカロンっち以外は全員、ここのメイドたちとイチャイチャし放題だったもんね〜」
「ルビ、そんなことは大声で言っちゃだめよ」
「はい〜」
いつからだろう。
もしかして、俺がメイドたちを引き連れてボルジア家の執事たちと一緒に運動をしたのがきっかけだったか。
確かに、我がハミルトン家は女性使用人が圧倒的に多いし、ボルジア家では男性使用人が圧倒的に多い。
そして、ハミルトン家もボルジア家もイラス王国を代表する超名門家だ。当然、そこで働いている使用人たちも一流のエリートってわけだ。
つまり、婚活相手を探すには最高すぎると言っても言い過ぎではない。
ああ……
我が屋敷のメイドをボルジア家の執事たちに紹介した時点で気づくべきだった。
転生前の俺って恋愛経験なかったから、油断した。
ふむ……
俺がちょっと気まずそうに父上とエイラさんを見た。
二人は
石になっていた。
時間が止まったように二人は息を吸うことも忘れて固まっている。
そんな二人を見て国王陛下は、
「あはは……あはははははははははは!!!!!この俺をここまで笑わせるなんて!褒美の話はもういい。あとでやればいいからな。今日は3人で酒でも飲もうじゃないか!」
「「……」」
だが、二人は石になっているので返事をしない。
俺はあははと笑っていると、腕の方から極上な柔らかい感覚が伝わってくる。
腕を見ると、エリカの凶暴なマシュマロが俺の腕を包み込んでいた。
そして、エリカはエメラルド色の目を輝かせて俺を上目遣いしてくる。
すると、国王陛下が俺たちに向かってサムズアップしながら言う。
「カール殿、エリカ殿、これからは君たちの時代がやってくる。この二人のことは俺に任せるといい」
「は、はい!ご厚意痛み入ります!」
「ありがとうございます!」
俺とエリカは頭を下げた。
一つ不思議なことがあった。
国王陛下はティアナが気になるのか、彼女を意識している様子だった。ティアナも国王陛下の視線には気づいたらしく、小首を傾げて陛下を興味深く見ていた。
そういえば、ハーフエルフって人族からもエルフ族からも煙たがれる存在だったよな。
でも、二人に敵意は感じられない。
俺は心の中で安堵した。
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