押しかけお岩さん
お菊さんが正体を把握した時、お岩さんは俺に体を押し付ける様にグイグイと迫っていた。
「あんた、いい男だねぇ」
「お、恐れ入ります」
「あたいが昔恋焦がれていた男にそっくりだよ」
それを聞いた俺は演奏の手を止めた。
「そうなんですか?なんて言う人なんですか?」
「民谷伊右衛門って言うんだ。いい名前だろう?」
民谷伊右衛門…………あれ、どっかで聞いた様な。
俺は空を見上げると、空が少し明るくなっていた。
そろそろ帰らなきゃ…………。
俺は立ち上がってギターを片付け始めると、お岩さんは寂しそうに顔を俯かせた。
「もう帰るのかい?寂しくなるねぇ」
「また今夜来ますよ」
「言ってくれるじゃないか、待ってるからね」
お岩さんと別れて俺が寺を出ようとすると、お菊さんは慌ててその場を立ち去った。お菊さんは来た道を猛スピードで戻り、俺の帰りを待っていた。俺があくびをしながら玄関に入り自分の部屋に閉じこもった。それを確認したお化け達はゾロゾロと集まりだした。
「お菊さん、どうでした?」
はーちゃんが俺の部屋の様子を伺いながらお菊さんに尋ねる。
「はい、取り憑いているのはお岩さんです!」
「えっ?あの、お岩さんですか!?」
お岩さんと聞いた途端、お化け達は青い顔をしながらざわめき出す。その中で一番青ざめていた花ちゃんが重い口を開く。
「お岩さん、わしら怨霊の中では頂点に近い存在じゃな。わしも生前に聞いた事がある」
お岩さん。お岩さんは元禄時代に起きたとされる事件を基に創作された四谷怪談という日本の怪談。お岩さんが夫の民谷伊右衛門に惨殺され、幽霊となって復讐を果たしたという日本で最も有名な怨霊とされている。お岩さんの半分の顔は伊右衛門が用意したトリカブトの毒で崩れたという説もあれば、天然痘で崩れたという説もある。
それを聞いたメリーが頭を抱え込んだ。
「お岩さんかぁ…………あたしらでどうにか出来る相手じゃないわ」
「けどこのままじゃホントにアイツ殺されるわよ!?」
すーちゃんが頭を抱え込んだメリーを頭ごなしに怒鳴り散らす。そんな中、お菊さんが口を開く。
「わたし達で、お岩さんを退くしかありません」
「わしらでか!?」
「これしかありません。戦っても勝ち目はありませんから龍星さんを諦めて貰うしか…………」
「そうは言っても 何か方法があるんですか?」
はーちゃんがお菊さんに尋ねると、
「方法はあります」
それから数時間後。夜になり俺は部屋から出ようとした瞬間、俺ははーちゃんとおくまに取り押さえられた。
「龍星さん!行っちゃ行けません!」
「なんだよ、はーちゃん!離してくれ!」
「メリーさん!花子さん!」
はーちゃんが叫ぶと隠れていたメリーと花ちゃんが現れ、俺顔をガシッと掴みながら花ちゃんは叫ぶ。
「龍星、行くな!行ったら死ぬぞ!」
「お願い龍星、大人しくして!」
「このまま茶の間に連れていきましょう!!」
おくまの髪の毛で拘束された俺は茶の間で正座させられた。俺はお化け達を見渡す。
「何のつもりだ?」
俺がお化け達を睨み付けると、お菊さんが目の前に座る。
「龍星さん、貴方はお岩さんに取り憑かれています。あのお方はとてつもない怨霊です。龍星さんもご存知ですよね?」
「お岩さん…………あのお岩さん!?」
俺は思い出したかの様にお菊さんの質問に答えた。お菊さんはゆっくりと頷く。
「はい、そのお岩さんです。これ以上関わると殺されます」
「なら、どうするの?お岩さんを倒すの?」
俺が首を傾げながら尋ねると、
「いえ、あのお方を除霊出来る人間はまずこの世にはいないでしょう。なので龍星さんを諦めて貰うという策を考えました」
「具体的にどうするの?」
「服を脱いで下さい。今すぐ」
えっ?ここで?
お菊さん言われた俺は、周りを見渡す。
「や、やだ…………恥ずかしい」
「普段下半身を露出してる奴が何を言っているのだ?」
「寝言は寝て言ってくれる?ほら、早く脱いで!」
「わ、分かったよ…………」
俺はお化け達に見られながら服を脱ぎ始める。そして、勝負パンツと靴下のみになった瞬間、お化け達はクスクスと笑い始める。
何が面白いのだろうか?
「なんだよ、何が面白いんだ?」
「だ、だって…………白ブリーフなんだもん フフフフフフ」
「わ、笑ってはいけないですよ!おぽぽぽぽ」
「あんた、普段トランクスでしょ?なんで白ブリーフなの?」
「なんでって、勝負パンツだからだよ!文句あんのか!?あぁん!?」
俺がそう言った途端、すーちゃんが声を掛けてきた。
「え、待って?確かあんた、彼女居たわよね?」
「うん。居たよ?」
「もしかして、ここぞって言う時ブリーフ履いてたの?」
なんだそんな事か。
俺は自信満々に答える。
「勿論、ここぞと言う時は履いてたぞ?当たり前じゃないか!」
そう言った途端、メリーが顔を引き攣らせながら。
「あぁ…………あんた確かフラれたんだよね?」
「うん、そうだよ?なんでも他に好きな男が出来て妊娠したとか?」
何かを悟ったメリーは俺の肩を優しく撫でる。
「あー…………うん、もういいよ。辛かったね」
「え?なにその目?」
「そ、そろそろ準備しましょうか」
「え、ちょっとみんな?なんで目を逸らすの? ねぇ?」
お菊さんは墨と筆を用意しており、俺の体にお経の様な文字を書き始める。
「これはわたしが生前に和尚様から教わったお経です。これを体に書くと幽霊は姿を見えなくなる様です」
「へぇ〜、そうなんだ」
「ですが、声を出すとお経の効果が消えてしまいますので何があっても決して声を出してはいけません」
「分かった」
お菊さんがお経を書いている途中、花ちゃん達が顔を見合わせる。
「では、わしらもそろそろ行くか」
「そうね、やれるだけの事はやってみましょ」
「お菊さん、後はお願いします」
お経を書き終えると、お菊さんも墨と筆を片付けて。
「わたしも玄関をおくまさんと守ります。何があってもここの部屋の扉は決して開けないで下さいまし」
いつになく真剣なお菊さんの言葉に俺は黙って頷いた。お菊さんはゆっくりとドアを閉めて行った。
─────真夜中になり、外ではーちゃんと花ちゃんがお岩さんを待ち構えていた。秋の風がフワッと吹いた瞬間、暗闇から着物をはだけさせた女の幽霊が歩いて近付いて来た。花ちゃんはギロっと睨み付ける。
「あいつが、お岩さんか」
「そのようですね」
「押しかけ女房のつもりなのか?」
「さぁ…………?」
花ちゃんとはーちゃんが身構えると、お岩さんが気付いた。
「おや?そこにいるのは誰だい?人間じゃなさそうだけど?」
「そうじゃ、わしらもお主と同じ怨霊じゃ」
「貴方は、お岩さん…………ですよね?」
はーちゃんが尋ねた途端、お岩さんは突然取り乱し始め、頭を掻きむしりながら悲鳴を上げた。
「あたいの他にまた女作ったのかい!?あたいがいるのにぃぃぃ!!」
「な、なんじゃ!?」
「小娘っ!伊右衛門様はどこにいるんだぃ!?」
髪の毛をムシャクシャに乱し、顔半分が焼かれた様にただれている顔を見せた途端、一瞬で花ちゃんの首を両手で締め上げていた。反応出来なかった花ちゃんとはーちゃんは驚いた。
「いつの間に!?」
「こ、こやつ…………なんという力…………」
「伊右衛門様ァァァァッ!!」
「花子さんを離して下さいっ!伊右衛門さんって誰ですか!?」
はーちゃんは花ちゃんを助ける為にお岩さんに掴みかかった。
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