お化けだってオシャレがしたい!

 俺は花子さんに全裸でジリジリと歩み寄っていると、花子さんは顔を赤らめながら叫び出す。

 

「こっこら!こっちに来るな!変態っ!貴様、おなご相手に何をするんじゃ!」

「幽霊のクセに何を恥ずかしがっているんだい?俺は肌と肌のお付き合いをしたいだけだよ?」

「幽霊にだって羞恥心はあるわ!あっ、ちょ、来るなっ!」

「花ちゃーん!一緒にお風呂入ろーーーー!」

 

 俺はシャカシャカと体を動かして急接近すると、突然部屋のドアがノックされた。

 

 おっと、お客さんかな?

 

「あっ、ごめんなさい!今裸なんでちょっと待って下さい!」

「急に素に戻りましたね」

「はたから見たら独り言で騒いでるヤバいやつだからね」

「ほっ……助かった……」

 

 八尺様たちに引かれながらも、俺は慌ててズボンとシャツを着てドアに向かうと、下の階の住人が立っていた。しかも、かなり怒っている様だった。

 

「あの〜、どうかしましたか?」

「どうかしましたか?じゃねぇよ。今何時だと思ってんだよ馬鹿野郎!1人でギャーギャー騒いでんじゃねぇよ!管理会社に電話すんぞ!」

「すっすいません!すいません!それだけは勘弁して下さい!」

 

 俺はペコペコ頭を下げて謝っていると、後ろからは「情けない」「かっこ悪い」「確かに夜中に1人で騒いでるのはヤバい」とヒソヒソと聞こえて来る。

 

「ったくよぉ、静かにしろよ!」

「はい、すいませんでした……」

 

 激昂する下の階の住人が戻って行き、ドアを閉めると俺は汗を拭いながら3人の幽霊に目を向けると……。

 

「随分怒ってましたね、龍星さんが悪いですけど」

「確かにこんな夜中に1人で騒いでるアンタの気が知れないわ」

「自業自得じゃ!」

「ごっごめんなさい……」

 

 よくよく冷静に考えて見れば、霊感のない人が見たら裸の男が1人で何をしているのだろうか。

 

 そう考えた俺は冷静さを取り戻し、1人で風呂に入り朝を迎えた。

 

 ─────────────────────

 

 翌日、バイトから帰って来ると幽霊達が勝手にテレビを付けてイマドキの女の子達が服を紹介している番組を見ていた。

 

「ただいまぁー」

 

「「「「…………」」」」

 

 返事しろよ。

 

 荷物を置いて着替え始めると、ようやく3人の怨霊どもは同時に振り返った。

 

「あっ、おかえりなさい」

「おかりー」

「勤めご苦労だったな!」

「何をそんな真剣に見てんの?」

 

 着替えながら聞くと、八尺様達が言い始めた。

 

「このてれびに出てるお洋服が可愛らしくて……つい夢中になっちゃいました!」

「あたしも今の服は気に入ってるんだけど、他の服も良いかなぁって思ってね」

「この薄っぺらいものは凄いのぉっ!わしの時代は大きくて白黒の映像だけだったのだがな!?今の時代の”てれび”は凄いのぉっ!」

 

 目をキラキラさせながら3人の怨霊どもは遂にはこんな事を言い出した。

 

「あのぉ〜、龍星さん。私達にお洋服買ってくれませんか?」

「は?」

「あたしも欲しい〜、あたしら怨霊だってお洒落したいわよぉ〜」

「へ?」

「わしもたまにはこの服とは別の衣が欲しいのぉ〜!」

「ぬ?」

 

 何を言い出すのだこのお化けどもは……。

 

「いや、お前らお化けがお洒落したい気持ちは分かったけども、仮に、仮にな?俺があんたらにお洋服を買ってあげました、けど、けーどぉ!逆に聞きますけど買って来た服をどーやって着るんですか?食べ物同様生気を頂くんですか?」

 

 俺はそう3人に言い放つと、3人は顔を見合わせ、こう答えた。

 

「まぁ、買ってくれたら教えますよ?」

「いや、今言えよ」

「今言ったらあんた絶対買わないもん」

「余計こえーよ」

「まぁ、そんなに難しい事じゃないから安心せい」

「安心出来ません。なので服は買いません」

 

 頑なに拒んでいると、3人は力を合わせてポルターガイストを起こし始め、部屋全体を揺らし始めた。俺は地震の様に激しく揺れる棚を必死に抑える。

 

「分かった!分かったから!買ってやるからやめろ!片付け大変だから!」

 

 タンスを押さえながら言い放つと、ピタッと揺れが収まった。これ以上面倒になる前に、俺はスマホを取り出しAm〇zon、〇天市場のアプリを開いて見た。すると、八尺様達はゾロゾロと集まり、画面を食い入る様に見始める。

 

 ふむ、可愛らしい服が多いなぁ。

 

 すると、突然。

 

「あっ!龍星さん!私、このお洋服がいいです!」

「わしはこれがいいのぉ」

「あたしはコレかな」

 

 3人の服や、下着を合わせて3万6000円っておい。

 

「たっかぁ……なぁ?コレやっぱ止め」

 

 めっちゃ怒ってるよ、3人ともマジの顔してるよ。

 

 諦めた俺は明日料金をコンビニで済ませるように設定し、3人の注文を終えた。

 

「3万6000円……キツイなぁ……」

「ありがとうございます!嬉しいです!」

「ありがとうね」

「わしも礼を言うぞ!」

 

 それから数日後、ようやく注文した服が届いた。ダンボールを部屋に運んで中を確認すると、宝箱を開けたようにお化けどもはキャーキャー喜んでいた。

 

「で?3人ともどうやって着るの?」

 

 俺がそう尋ねると、八尺様が答えた。

 

「その……燃やして下さい」

「…………え?なんて?」

 

 あまりにも衝撃的な答えだった為、俺は2度聞きすると、メリーさんと花子さんが答える。

 

「燃やすって言ったのよ」

「えっ待って、なんで燃やすの!?」

「まぁ、食べ物は生気をもらうが洋服などは燃やさぬと手に出来んのだ、だから数日前は言えなかったのじゃよ」

 

 え?それってつまり?。

 

「申し訳ないですが、龍星さん。この買った服を燃やして下さい!」

「お願い!龍星、確かに勿体ないとは思うけど、無駄じゃないから!」

「火葬と思ってやってくれんか?」

 

 俺は理解が追い付かない状態で近くの焼却炉を借りて服を燃やすことにした。焼却炉に下着と衣類をほおりこんで火をつけると、メラメラと燃え始めた。

 燃え盛る新品の服を見た俺は……。

 

「3万6000円3万6000円3万6000円3万6000円3万6000円3万6000円3万6000円」

 

 ブツブツそう呟いていると、八尺様達が。

 

「やっぱり落ち込みますよね……」

「新品の服を燃やしてる変な人としてしか見られないもんね」

「ここは龍星に耐えてもらうしかないのだが……」

「あっ!見てください!煙突から服が出て来ますよ?」

 八尺様達の目には薄らと洋服の幽霊の様な物がフワフワと降りて来ていた。メリーさんと花子さんは自分の選んだ服を慌てて拾い集める。

 

「龍星さん!見てください!服を手に入れましたよ!」

「見ろ!龍星!龍星?」

「今は無理よ、あまりにも衝撃過ぎて目が死んでるわ」

 

 その後、3人に連れられて帰り、部屋に戻って来てファッションショーを間近で見れることになった。満足した3人は脱ぐことなく、しばらく着て過ごしている時……。

 

「龍星さん!大変です!」

「ん?はーちゃんどうしたの?」

「あっあの、私の下着知りませんか?」

 

 何を言い出すのだこのデカブツは。

 

「知るわけないでしょ、洗濯する訳でもないのに」

「あたしのも無いんだけど、あんたがパンツ被ったりしてたんじゃないの?」

「わしのもないのだが、龍星知らんか?」

 

 どーして俺を疑う!?

 

「おい、いくら俺がお前らにセクハラをするとしても下着泥棒するほど落ちぶれていねぇからな?」

「んじゃどーしてないのでしょう?変ですねぇ?」

 

 3人のお化けと俺は同時に首を傾げた。

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