迷惑配信者

 花子さんのスカートを思い切りめくると、花子さんは顔を真っ赤にして騒ぎ出した。

 

「きっきさま!?わしの下着を見たなっ!?」

「ええ、可愛らしい花柄の白パン───」

 

 ズドンッ!

 

 花子さんは浮きながら俺の顔にトゥーキックを炸裂させた。鋭い蹴りを食らった俺はぐらっとよろめいた。

 

「おお……いてぇ……」

「龍星さん!大丈夫ですか!?」

「自業自得だよね?被害者面してるけど、明らかに龍星が悪いよね?」

「ふんっ!愚か者めっ!それより……」

 

 花子さんは俺を蹴った足を見て首を傾げ、花子さんは俺に聞いて来た。

 

「しかし不思議じゃのぉ?何故人間の貴様に触れることが出来たのかのぉ?」

「あー、花子さん。こいつはちょっと変わってて、我々と見て話したり、触れれる事が出来るんです。それが関係してると思うの」

「ちょっとエッチなお方ですが、とっても優しい方ですよ?」

 

 俺は褒められてるのだろうか……。

 

 花子さんは身なりを整えて、改めて自己紹介を始めた。

 

「お初にお目にかかる。わしはトイレの花子、この廃校に住まう亡霊じゃ。以後宜しく頼む」

「これは失礼。俺は福島龍星、フリーター」

「私は八尺様と呼ばれた怨霊の八尺です!」

「あたしはメリー、人形の怨霊だよ。よろしくね?花子さん」

 

 八尺様、メリーさんは花子さんに向かって深々とお辞儀をする。花子さんはつられて頭を下げた。

 

「して、お主はここになんの用じゃ?」

「いや、特に理由はないんだけど。コイツらがお出かけしたいって言い出してね?それでこの廃校にやって来たって訳よ」

 

 花子さんは、腕を組みながらうんうんと頷き、話しを聞いていた。

 

「なるほどのぉ〜。では、ここのトイレに来る前に他の亡霊達と会ったりしたかの?」

「あー、走る人体模型とか、二宮金次郎とか?ピアノとか?」

「ふむ、会ったのだな。まぁここの」

 

 ガタガタ!!

 

 俺達と花子さんは物音を聞いた途端バッと音の方向に顔を向けた。俺は花子さんに尋ねた。

 

「なぁ、花ちゃん。花ちゃん以外にも亡霊がいるの?」

「いや、わしら以外には居らん筈じゃ、何者じゃ……」

「何でしょう?ちょっと見てきますね?」

「ああ、頼むはーちゃん」

 

 八尺様はそう言うと、壁をすり抜けて辺りの様子を見に行った。すると、すぐに八尺様は戻って来た。何やら慌てた様子だった。

 

「たっ大変です!おかしな人が居ます!」

「おかしな人?」

「おかしな人ならここにもう既にいるじゃん」

「おい、金髪ツインテール。そうだとしたら物音関係ないじゃん」

「そこ否定しないんだ。それで?はーちゃん、どんな奴だったの?」

 

 メリーさんが八尺様に尋ねると八尺様はモノマネしながら説明した。どうやら俺と同じ人間がここにやって来た様だ。

 

 モノマネを見た様子だと……動画配信をしてる感じだな。ホラー系配信者が興味本位で来たのか?

 

「ちょっと、俺も見てくる。花ちゃん待っててね?」

「うっうむ……分かった」

「メリーさん、はーちゃん、行くよ?」

「はいっ!」

「しょーがないなぁ……」

 

 俺は八尺様とメリーさんを連れて階段を降りていくと、煌々とライトを照らして、騒いでいる男がいた。俺達は身を潜めて様子を伺う事にした。すると、男は突然話し始めた。

 

「はいどーもー!○○チャンネルでーす!。今日はですね、〇県〇市〇〇町の〇〇旧小学校に来てまーす!」

 

 やはり今流行りの動画配信者だったか。しかし、ここの許可は取ったのだろうか?今はもう深夜だぞ?

 

 様子を伺っていると、配信者は辺りを荒らし始めた。備品などを投げたり、割ったりして、やりたい放題だった。

 

 この様子だと、自治体に許可は貰ってないな。

 

「龍星さん……あのお方……」

「さいてー、めちゃくちゃにしてんじゃん」

「見つからない様に、花ちゃんの所に戻るぞ」

「はい、分かりました」

「あいつ、ムカつく……呪い殺したい」

「コラッ!そんなチンピラ見たいな事、言わないの!」

 

 配信者を睨み付けるメリーさんをなだめながら、俺達は3階の花子さんの元に戻って行った。

 

 ─────────────────────

 

 3階に戻って女子トイレに入ると、花子さんが耳を塞いで悶え苦しんでいた。それを目の当たりにした俺達はすぐに駆け寄った。

 

「花ちゃん!?どうしたの!?」

「花子さん!?大丈夫ですか!?」

「何があったの!?」

「あぐぐ……皆が、ここの皆が……」

 

 皆……?

 

 花子さんの背中を摩っていると、突然俺の頭の中に下の階の映像が流れて来た。その映像には、バラバラにされた人体模型、ハンマーで頭を砕かれた二宮金次郎、破壊されたピアノが映し出された。

 

 アイツ……めちゃくちゃだな……。

 

 映像を見た瞬間、俺は八尺様とメリーさんに声を掛けた。

 

「はーちゃん、メリー。アイツを追い出すぞ」

「はい、弱いものいじめする人は嫌いです」

「あたしも、龍星見たいな奴じゃなきゃ怖くないよ」

「よし、はっきり言うけど、人間の俺には何も出来ない。ここははーちゃんとメリーさんが頼りだ。思い切りビビらせてやれ!」

「はい!」

「すっごいかっこ悪いこと言ってるけど、まぁいいわ」

「お前たち……わしらの為に……」

 

 八尺様とメリーさんはいつになく、禍々しいオーラを出しながら配信者のいる2階に向かって行った。

 

「さぁ、いよいよ、次は3階、トイレの花子さんがいるとされている場所を目指して行きたい────」

 

 ぽっぽっぽっぽっ………

 

 配信者は突然響き渡った声を聞いて立ち止まった。

 

「えっ……何?ぽっぽっぽっって八尺様だよな?なんでここに……?」

 

 ジリリリリリ!

 

 備え付けられた公衆電話が突然鳴り出した。配信者はビクリと驚き、恐る恐る受話器を取って耳に当てた。

 

「もっもしもし……」

 

《もしもし、あたしメリーさん……今、あなたの近くにいるの》

 

「えっ……うそっ本物っ!?」

 

 メリーさんはセオリー通りに一方的に電話を切った。配信者はタダならぬ気配を感じたのか、ガタガタと震え出す。

 

 ぽっぽっぽっ……

 

 配信者は声が聞こえて来た後ろを振り返ると、身長が2メートルを優に超える長身の女が立っており、ゆっくりと配信者に近付いて行く。

 

「はっ、はっ、八尺様……なんで?なんでこの学校に!?」

 

 ピロピロ……♪ピロピロ……♪

 

 配信者のスマホが鳴り響く。配信者はスマホを見ると、非通知と表示されていた。配信者は助けを求める為に電話に出た。

 

「もしもしっ!もしもしっ!助けてくれっ!もしもしっ!」

 

《もしもし、あたしメリーさん。今……あなたの後ろにいるの……》

 

「そっそんな……」

 

 配信者が八尺様が目の前にいるのにも関わらず、後ろを振り返ると……フランス人形が廊下に立っていた。配信者は腰を抜かしてしまい、ガチガチと歯を音を立てながら震え出し、這い蹲う様に階段を降り始めた。

 

「たったすけてくれ……誰か、たす、助けてくれっ……」

 

 配信者は階段踏み外して転げ落ち、そのまま昇降口から慌てて逃げて行った。八尺様とメリーさんはケロッと落ち着きを取り戻し、禍々しいオーラを消し去った。俺は花子さんと共に、階段を降りて八尺様達と合流した。

 

「お疲れ様、どうだった?」

「はいっ!腰を抜かして慌てて逃げて行きましたよ?」

「アレだけめちゃくちゃにしておいて、本物を見た途端逃げるなんて、子供ねぇ……かっこわる」

「追い出す事が出来たんだね、さっきの配信者の件は俺が警察に電話しておくから」

 

 荒らされた所を目の当たりにした花子さんは悲しそうに呟いた。

 

「ここにはもう、居れんの……」

 

 花子さんの言葉を聞いた俺は軽い気持ちで言った。

 

「ならさ、俺んとこに来る?」

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