7.三人の衝突、その結末は?
案の定、出入り口付近には扉を壊した「吉上さん」が前方を見据えながら立っていた。
一目見た感じでは、80歳くらいの善良な市民。事情を知らない人からしたら、「どうしてこんな人が?」という感じなのかもしれない。
ただ、私と涼太君は「彼がそういうありふれた存在ではない」ということを知ってしまっている。決して油断するわけにはいかない。
間髪入れず、吉上さんは正面に立っていた私達の方へと、目にも止まらぬ速度で駆けてきた。
その気迫に一瞬
吉上さんが横並びになっていた私達に飛びかかり、強い衝撃が私の体を襲う。ただ、「9916」の二人で力を合わせていることもあってか、耐えきれないほどではない。何とか取り押さえることができそうだ。
彼の額には「18438」と浮かんでいる。やはり、私の予想通りだ。
そこで、吉上さんを急に力を緩めた。一瞬、こちらも力を抜いてしまいそうになるけれど。油断した隙を突かれるわけにはいかないので、取り押さえるのをやめるつもりはない。
「……お前か?」
目の前からしわがれた声が聞こえてきた。紛れもなく、それは吉上さんの口から発せられたものだった。
「お前が、『永濱』なんだろう? 先程、そう呼ばれていたからな」
「……そうです」
涼太君の方に目をやって問うてきたので、彼はすぐに答える。質問の意図を量りかねている様子だ。
そこで、私は思い出した。体育館の外で吉上さんを見かけた少し前のタイミングで、涼太君に「永浜君(永濱君)」と呼びかけたことを。
「……私と二人で、写真を撮ってくれ」
突如として、吉上さんは謎の提案を繰り出してきた。
私は混乱せずにいられなかった。つまり、「永濱涼太」という人物と写真に写りたいがために、高校に来てこの騒ぎを起こしたということ?
「誰か携帯持っているだろう? それで撮れ!」
吉上さんは急に声を張り上げ、体育館全体に響かせるように叫ぶ。今は暴れていないとはいえ、彼が「18438」という強力な存在であることには違いないんだ。明確な要求がなされた以上、可能であればそれに従った方が良い。
私はポケットにしまっていたスマホを取り出し、再び暴れ出さないかどうか注視しつつ、吉上さんからゆっくりと体を離した。そして、震える指で画面を操作し、カメラモードに切り替える。
「と、撮りますよ~。はい!」
私は二人の顔を画角に収め、画面をタップして写真を撮る。今さっき襲ってきた者と襲われた者の間での、奇妙なツーショットが完成してしまった。
「見せろ」
吉上さんの要求に応じ、私はスマホを彼に手渡した。視界の端に、この光景を緊張の面持ちで眺めている生徒達、そして、本来の持ち主である服部先生の姿が見える。
「これで、完成だ……」
写真を眺めて数秒後、吉上さんはゆっくりと
そして、彼はまるで息を引き取ったかのように呼吸を止めてしまった。いや、本当に死んでしまったのかもしれない。
同時に、私達の額に浮かんでいた数字も、跡形も無く消えてしまった。
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