第90話 雑談リラックス
各々が武具に手を掛けたまま索敵を行う。
何事へも警戒が必要だが、転移後は特に重要だ。
完全なる安全地帯などというものはダンジョン内部に存在しない。
そんな馬鹿な、こんな筈じゃ――は、いい訳にならないからだ。
常に用心して然るべきだろう。
幸い転移先である階層主部屋に大きな変わりはなかった。
安堵の溜息と共に再度気を引き締めなおす。
眼下にある下層への階段を下りれば探索業の始まりだ。
俺はパーティ全員を見渡すと指示を出す。
「じゃあ構成は打ち合わせ通りにいくぞ。
前衛、ミズキ。
中衛、俺。
後衛、コノハ。
基本ミズキが敵を止め、コノハが槍での援護。
俺が状況に応じて立ち回るといった役割分担になる。
関城は遊撃要員として随時フォローに回ってくれ」
「了解だ」
「うん。頑張るね」
「任せってくださいっす!」
「うっし。じゃあ気を付けて行くとしよう」
ヒカリゴケが仄かに輝きを放つ無機質なダンジョン。
ワイヤーフレームで囲まれた様な広大な迷宮を進む。
柄になく緊張しているミズキとコノハ。
クラスチェンジ後だから無理もないか。
緊張をほぐす為、俺は敢えてふたりではなく関城に話し掛ける。
当の関城と言えば緊張などまったくない素振りが逞しい。
必要以上の緊張はパフォーマンスを低下させる。
こいつの図太い神経を見習わなくてはならないだろう。
「そういえば関城」
「なんすか、師匠」
「さっきの話だが……ビリビリっていうのはあれか?
吾桑マフユの扱う魔法のことか」
「あ、そうです。
オレも詳しくは知らないんですけど、酒場じゃ皆がそう噂してるっす」
「なるほどな。
そうすると彼女は勇者としては稀有な後衛型、術師タイプかもしれないな」
「というと?」
「ビリビリっていうのは多分、雷撃魔法(デイン)系の事だろう。
コノハの扱う自爆魔法を超える力を秘めた勇者専属呪文。
消耗が激しいので通常はそんなに連発は出来ない。
だが、術師系の特技を所持していれば話は別だ。
どんな専門職より砲台に適してる」
「はあ~単語だけで色々分かるもんすね。
正直感服っす」
「まあ情報というのは伏せてても流出してしまうもんだしな。
だから個々のリテラシーが重要になってくるんだろう。
あと彼女はあまり同業者と親しくないし好意を持たれてないだろう?」
「え!? 確かにお高く止まってる……っていうか話し掛けても無関心らしく、皆に倦厭されがちっぽいすけど。
なんで来たばかりの師匠がそんなこと分かるんすか?」
「お前から聞いた第一印象だよ。
それだけの遣い手なら、普通は異名の方が有名になる。
さしずめ雷姫やら何やらみたいにな。
それを差し置いてビリビリ。
女性に悪感情を持たないお前がそう例えるくらいだ。
きっと普段接した者が受ける印象もそうなんだろうな、
と勝手に推測してみただけだ。確証はない」
「それだけでも凄いっすよ。
ほぼ、正解です。
彼女はビリビリ娘の他、別名氷の令嬢とか言われてるっす。
まあ対応が塩で感情の起伏が少ない事によるやっかみの声っすね。
本人自体は可愛いのに酷い話っす」
「……お前、可愛いなら誰でもいいのか?
容姿が普通の娘はどうするんだ?」
「何を言ってるんすか、師匠!
女の子はすべからく、皆可愛いんですよ?
オレはいつでも全女子の味方っす!
顔を見ただけで話したことのないマフユちゃんだって同じっす!」
「大物になるよ、お前は……」
熱く言い切る関城に俺は苦笑を返す。
予想はしていたがこいつはある意味気持ちの良い奴だ。
コノハとミズキも同様で、俺達のやり取りで肩の力が抜けたようだ。
幾分リラックスした表情で微笑んでいる。
頃合いだな。
「さあ、お喋りはここまでだ。
俺の索敵スキルによると前方30メートルに敵影反応あり。
あと10秒後に会敵だ。準備はいいか?」
「ああ」
「はい」
「OKっす」
「じゃあ……いくぞ!」
抜刀後、腰を落とし構える。
各メンバーも同様だ。
数秒のタイムラグの後、奇声を上げ襲撃してくる業魔達。
戦いが始まった。
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