第88話 能力アドバンテージ


 ステータス表記で見る自らの力。

 その内容に俺達は各々歓声を上げる。

 明らかに――強い。

 ナイアルによる夢の啓示後、何か限界を突き抜けた感はあった。

 しかしこうして客観的な数値で見るとまた違うものだ。

 パラメータジャグラーのレベルが上がり、実に40ものポイントを各能力へ自在に振り込める様になったのも戦力上大きいが一番の成長は何と言ってもマルクパーシュのレベル向上だろう。

 最大制約数の文字数が二文字へと増えた。

 それだけで何か違いがあるか? と疑問に思うかもしれないが、日本語をベースに物語世界に介入する俺にとって一文字と二文字の差はかなり大きい。

 日本語は文節や単語を形成するのは二文字が標準だ。

 これを自在に変化させる事が出来れば、戦術どころでなく戦略レベルで構成を練る事を可能にする。

 残された時間がどれほどあるかは分からない。

 だがダンジョンを攻略する上で――

 何より今後上位業魔と戦う上で貴重な力となる筈だ。

 そして成長したのは俺だけではない。

 クラスチェンジを経て唯一職に目覚めたふたり。

 コノハとミズキの成長幅の揺れが凄い。

 元々幸運値が異常に高いコノハだったが、冥加の勇者フォーチュンブレイブになり更なる向上を遂げた。

 通常なら手痛い、クラスチェンジによる全体的なステータス低下。

 これがほとんどなくレベル1に戻ったということは、今以上の能力向上を図れるということだ。

 コノハの新しい特技の恐ろしいところは、その向上した幸運値をもって周囲の者の因果律へ介入し捻じ曲げる事にある。

 これはどういう意味か?

 本来なら致命傷になりえた攻撃は偶然所持していたお守り(コインなど)によって逸れたり、敵の放った魔法に巻き込まれも「ふう~危ないところだった」とアフロ頭で出てくるような奇跡を生み出す。

 そう、つまりパーティメンバーの【疑似的な勇者化】を可能にする。

 勇者以外、死の危険が常に付き纏う探索者にとって、これほど嬉しい特技の恩寵はないはずだ。

 アリシアが他の特技の追随を許さないというのも分かる。

 勿論コノハだけでない。

 姫騎士プリンセスナイトになりミズキが習得した特技の数々は、これからの探索にとってなくてはならないものだ。

 窮地を持ち堪える<堅牢なる支え>はフロアボスとの戦闘において必須スキルだし、バカ高い回復薬を使わなくて済む<汎用回復魔法>も嬉しい。

 本職ではないとはいえ回復役がいれば魔石取得⇒MP回復⇒回復魔法のサイクルが出来るからだ。

 これで戦力を維持したまま、より深くより長くダンジョンへ潜れる様になる。

 何より継続的な戦いにおいて、ミズキだけの唯一業<鼓舞>の存在が大きい。

 能力値の底上げというのでどれほどのものかアリシアに伺ったところ、影響下にある人物との親密度によって変化するが1.2割増しから1.5割超になるという。

 %の間違いじゃないかと聞いたが割合らしい。

 これはとんでもない事である。

 俺の筋力で例えた場合、仮に一割増しですら70が77になる。

 そこで1.5割超のブーストが掛かれば80を超える数値になる。

 個々の能力値にそれだけのバフが掛かれば常に5レベル以上の能力値向上だ。

 レベル差が絶対というわけではないが、全体的な能力値の底上げは、戦闘において計り知れないアドバンテージを稼いでくれる。


「私に出来るお手伝いはここまでです。

 さあ、頑張りなさい」


 面会時間がとうに過ぎていたのだろう。

 未だ驚きから覚めない俺達を笑顔で送り出してくれるアリシア。

 意識が仮想世界から現実世界へとシフトする瞬間、俺に向け――


「世界と、あの未熟な勇者君と……

 何よりふたりの未来を頼みますよ、狭間君」


 と囁くアリシア。

 どこまでも慈悲深く優しいその声が、いつまでも耳朶に残っていた。

 

 


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