デートします

「こ、これが……異世界の街か」


 中間時点のサスリアムに到着した俺たちは宿で部屋をとり、街を観光している。

 俺は異世界の街を見てかなり興奮している。だってサスリアムの街を囲う壁は20mは軽く超えるほどの高さ、そして賑わう街。


「にしても人多いな……」


 現代日本とは違ってネットととかが無いから外で遊ぶ人が多いんだろうな。そして乗り物もないからみんな歩いて移動している。

 日本じゃ都会でしか見なかった光景だよ。

 

 街並みに興味を引かれていた俺の服が引っ張られる。

 引っ張られた方に目を落としてみると彩羽が辛そうに前かがみで俺にしがみついていた。


「どうした彩羽」

「どうしたじゃないわよ……。分かってるでしょ……?」

「走れないんだから仕方ないだろー?」

「言ってくれたら酔い耐性の魔法を使ったのに……」

「酔い耐性?魔法使えるのか?」

「少しだけならね」


 彩羽の歩くペースに合わせて近くのベンチまで移動する。

 てか魔法使えるなら俺に教えてくれても良かったのに。まぁ学園に受かれば魔法学べるからいいか。

 忠告しとくが受験はこんな軽い気持ちで受けたらダメだぞ?俺は自信があるから余裕ぶっこいてるだけだ。

 彩羽をベンチに座らせて俺もその隣に座る。


「そういえばロイさん達は?」

「2人で歩くからお前ら2人でデートでもしてろだってさ」

「デート!?」


 デートという言葉を聞いて勢いよくベンチから立ち上がる彩羽。


「デート行こ!再開してから2人でどこにも行ってなかったからさ!」

「しんどいんじゃないのか?」

「治った!」

「はぁ……まぁ無理はするなよ?」

「わかってるわかってる~」


 嬉しそうに俺の手を引っ張って歩き出す彩羽。俺も満更でもない顔で手を握り返す。

 



「ね、次あれ食べたい」

「そんな食ってたら太るぞ……?」

「今はいーの」

「そんなもんなのか」

「そんなもんなのよー」


 幸いにも父さんからはかなりのお金を受け取ってるから尽きることはないとは思う……けど食べ過ぎだろ……。

 さっきは肉食ってたし、その前はホットドックやクレープとかフルーツなど大食い選手権並に食べている。

 まぁ食べてる姿見るの好きだからいいんだけどさ。


「翔は食べないの?」

「食べるよー」


 俺は店員さんに串焼きを2つ頼んでそのうちの一つを彩羽に渡す。

 彩羽は嬉しそうにお礼を言いながら美味しそうに串焼きを頬張る。

 そんな彩羽の顔を見て頬が緩んでしまっていると目が合ってしまう。


「どうしたの?」

「かわいいなーって」

「ありがと、だけどあんまジロジロ見ないで……?」


 顔を染めながら串焼きを食べ出す彩羽。

 こういうところがほんと可愛い。


「ごめんごめん」


 謝りながら俺も串焼きに手をつける。

 やっぱり初デートとなると記念になるものを買っときたいよな。

 そんなことを考えながら俺は周りの店を見る。

 服屋、占い、武器屋、薬屋、装飾品店、防具屋など色々な店がある。

 俺は彩羽の肩を叩いて店の方を指さす。


「次あの店行こーぜ」


 


「うわぁー!綺麗ー!」


 俺達が入ったのは装飾品店だ。店内の壁は白で、アクセサリーを目立たせるようにライトを照らしている。

 幸いにも俺たち以外はお客さんが居ないようで彩羽の声はそこまで迷惑にはなっていなかった。


「店の中なんだからあんま騒ぐなよ」

「ごめんごめんー」


 謝ってはいるが意識は完全にアクセサリーに行っていた。

 俺はネックレスがある方を指さして彩羽に伝える。


「俺はあっちの方で見てるから彩羽も好きなの見てていいぞー」

「はーい」


 ネックレスを見ながら彩羽に似合いそうなのを考える。

 彩羽の髪色は綺麗な白だからそれに似合うように選びたいな。

 やっぱりここは無難に水色とか青か?でもそれだとシンプルだよな。もう少し印象の強いやつがいいな。


「お困りですか?」


 ヒョイっと現れた女店員。

 

「はいお困りですね」


 ネックレスを見ながら店員に受けごたえをする。

 かなり集中していたのもあってネックレスから目が離せなかった。


「あちらの女性にプレゼントですか?」

「そうですね」

「可愛らしい女性ですねー」

「知ってます」

「そ、そうですか」


 俺の素直な答えに少し戸惑いながらも1つのネックレスを持ってきてくれる。


「こちらのネックレスはどうでしょうか」


 俺に見せてきたのは青色のガラスのようなネックレスだ。形は雫型でガラスの中には3つの黄色い星が埋め込まれている。

 確かにこれなら綺麗だし彩羽に似合いそうだ。


「こちらは水晶を使用していてかなりのお値段になります」


 ガラスじゃなくて水晶なのか。

 俺は顎に手を当てながら値段を聞く。


「値段などのくらいですか?」

「金貨10枚です」

「んー、少し考えますね」


 金貨1枚で日本円の1万円──銀貨1枚で1000円、銅貨1枚で100円──に相当するりそれが10枚となると10万は超えている。

 父さんや母さんの手伝いをこの15年間頑張って来たから小遣いは金貨15枚はある。

 だから買おうと思えば買えるけど……。

 俺の難しい顔を見て何を勘違いしたのか、店員さんは値段を安くしてくれる。


「では、少しお安くして金貨8枚でどうですか?」


 安くしてくれるのなら買うのもありか……?そもそも記念のものなら奮発しても誰も何も言わないだろう!


「ならそれを買います」

「お買い上げありがとうございます」


 ビジネススマイルを俺に向けて来る店員。

 ネックレスを持って裏に行き、少し時間が経って綺麗にプレゼント用の包みにネックレスを入れて持ってくる。


「お会計金貨8枚になります」


 俺は金貨8枚を女店員に渡して包みを貰う。


「お買い上げありがとうございましたー。またのお越しをお待ちしておりますー」


 買いたいものも買ったので装飾品店を出て彩羽を探すが。


「あれ?まだ見てるのか?」


 少し外で待っているとすぐに彩羽が店からでてきた。


「ごめんー!ちょっと見すぎてた!」

「俺もさっき出てきたところだから気にする事はないぞー」

「ありがと」

「あいよ」


 日も暮れてきてそろそろいい時間帯なので宿の方に帰り出す。

 俺の意図を感じ取ってくれたのか彩羽も宿の方に歩いてくれる。

 さすが彼女歴19年だ。


「ねぇ翔。あそこのベンチに座らない?」

「いいけどどした?」

「いいからいいからー」


 もう少しで宿に着くという所で彩羽にそんな提案をされた。

 俺もネックレス渡したいと思ってたからちょうどいいんだけどね。


「ちょっと目瞑っててー」

「はいはい」


 ベンチに座ってニコニコする彩羽の言うことを聞く俺。

 それにしても何するつもりだ?キスか?ハグか?

 変なことを考えていると首にほんの少しだけ重みが乗った。


「目開けていいよー」

「ん?これは?」


 俺の首には俺が買ったのと同じものがかけられていた。 

 不思議に思って俺はネックレスを手に乗せて彩羽に問いかける。


「初デートならやっぱり記念のものは欲しいかなって思って買ったの」


 俺はハハッと笑って包みを取り出す。


「俺と同じだな」

「え、それってどういう……」

「ほれ」


 包みを彩羽に渡す。

 彩羽が「開けていいの?」と聞いてきたので頷く。

 開けて中身を見た瞬間彩羽の目が見開いた。


「同じじゃん!」

「まさかネックレスまで同じだと思わなかったよ」

「ネックレスまでって言うことは……翔も記念のために買ってくれたの?」

「そうだよ」


 彩羽は大事そうにネックレスを胸に近づけてお礼を言う。


「ありがと」

「こっちこそありがとな」


 すると彩羽はネックレスを俺に渡してきて後ろに振り返る。


「付けてー」

「はいよ」


 彩羽は白髪を持ち上げて俺にうなじを見せてくる。

 そのうなじを見て俺は顔を赤らめながらもネックレスを付ける。


「出来たよ」

「ありがとーこれでおそろいだね」

「そうだな」


 彩羽は今日1番嬉しそうに笑う。俺も彩羽につられて微笑む。

 これが家だったら抱きついてただろうなぁ。宿に着いたら抱きつかせてもらおうかな。

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