WEB小説家
大隅 スミヲ
第1話
吾輩はネット小説家である。
受賞歴は、まだ無い。
その日も長編小説である《寝取られゴブリンの一生》の続きを書いて、小説投稿サイトの《読んでみれば書いてみれば》に投稿してきた。
現在《寝取られゴブリンの一生》は好評連載中で42話目に突入したところだ。
内容については、自分の目で確認してきてくれ。
もし確認したのなら、応援とレビューもよろしくな。
どこかから甲高い電子音が聞こえてきたことで、
「くそがっ!」
ソウタは布団を頭から被って大声で叫んだ。
こうすることによって、声は周りには響かない。布団はちょっとした防音室に早変わりするのだ。
寝起きはいつも機嫌が悪かった。Tシャツにボクサーブリーフという姿のソウタは、布団から這いだすと部屋を出て一階のトイレへと向かうべく、階段を下りた。
階段の下ではちょうど二階に上がろうとしていた姉のミズキがいて、途中で鉢合わせる。
ミズキは上にいるソウタを睨みつけるような目で見ると、何も言わずに道を譲ってくれた。
いつもであれば「お前がどけ、
トイレについてから気づいたことだが、ソウタの股間はパンパンに膨れ上がっていた。そう、
いま思えば、下から見上げていたミズキの
「くそ……」
小便を出したことですっかり萎えてしまった自分のモノを見つめながら、ソウタはつぶやいた。
椎名家の朝は忙しい。
父は朝の通勤ラッシュを避けるために、かなり早い時間に家を出る。
母は姉のミズキとソウタのお弁当を作り、朝ごはんの支度をしてから、出掛けていく。
ソウタの家は両親共働きであり、母も父と同じ会社で働いているのであった。
以前聞いた話では、ふたりは社内恋愛で結婚したらしい。会社の中ではどうだかしらないが、父と母は四六時中一緒にいるわけだ。
夫婦仲は良くも悪くもない。たまに言い合いの喧嘩をしている時もあるが、大抵は父が翌日に謝っていたりすることが多い。そして、仲直りした日の夜はふたりは妙にラブラブだということも付け加えておこう。
ソウタがダイニングテーブルに座る頃には、母も家を出てしまっており、ラップの掛けられた目玉焼きとごはんがテーブルの上に置かれている。
ソウタはテレビで朝の情報番組を見ながら朝食を済ませる。
きょうのエンタメニュースでは、アイドルが販売した小説が好評であるというものだった。
「どうせ、ゴーストライターが書いているんだろ」
ソウタは心の中で呟く。
アイドルなんかに小説が書けてたまるか。小説っていうのは、血と汗の結晶なんだ。血反吐を吐きながら書くのが小説なんだ。ふざけるな。
罵詈雑言を並べていたソウタだったが、そのアイドル兼作家だという女性がテレビ画面に登場した時、罵詈雑言は停止した。
「可愛い……」
思わず言葉を口に出してしまうほどの可愛さだった。ドストライク。ソウタはそのアイドルに
もしも、自分がネット小説で名を馳せることが出来れば、彼女とお近づきになれるはずだ。お互いに小説を書いている。その共通点さえあれば、絶対に付き合える。
だって、そうだろ。共通の話題があるんだよ。うちの両親だって、職場結婚だったんだ。だから、小説家同士の結婚だってありえる。
いや、それ以外に考えられない。付き合ったら、小説の書き方とかお互いに教え合ったり、お互いの小説の感想を言い合ったりするんだ。デートは本屋巡りだったり、小説のネタを考えるためにお散歩デートだったり、博物館に行ったり。
そして、ふたりでベッドを共にして、彼女に腕枕をしながら、お互いの小説のいいところを言い合うんだ。
結婚記者会見では、彼女がお互いの趣味の一致が仲を親密にしてくれましたっていうんだぜ。
くぅーたまんねえな。
「おい、小僧。遅刻するぞ」
すでに制服姿となった姉のミズキがダイニングキッチンをちらりと覗いていう。
ミズキはソウタのことを家では、小僧と呼ぶ。もちろん、表では声すらもかけてはくれないのだが。
大慌てで食事を済ませたソウタは制服に着替えて、家を飛び出した。
300メートルほど前にはミズキの姿が見える。ミズキが見えている間は、遅刻はしない。ソウタにとって、ミズキは遅刻防止装置のようなものなのだ。
ソウタとミズキは双子の
しかし、そのことをミズキにいうとミズキは嫌悪感の塊となるので黙っておいた方がいいだろう。
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