ex:03 出立
20xx年7月30日。
十日ほど前から始まった異常現象、俗に「ラザロ反射症候群」と呼ばれるようになった奇怪な症状は、世界中で猛威を振るっていた。
もはや、それは夜の間にだけ起こるものではなく、真っ昼間から発生していた。また、起き上がった屍者は昼夜関係なく活動し続けた。
そして、おびただしい数の人間が殺され、そして起き上がって殺す側に転化していた。
さらには状況に絶望して自ら命を絶つ者、あるいは狂信に走って被害を拡大する者なども現れ始め、混乱に拍車をかけた。
この悪夢がいつ終わるとも知れず、このままでは人類の終焉の可能性さえも否定できなくなっていた。
*
アルフレッド・フォレストの仮想空間オフィスは、『平行宇宙開発プロジェクト』本拠地に設置されたサーバー内にあった。持ち主の性格を反映してか、調度品が最小限しか置かれていない殺風景な部屋だ。
そこに、緊急で呼び出されたフランク・デュボアが転送されてきた。
「フレッド、委員会はなんと?」
デュボアは開口一番、それを聞いてきた。
それに対しフォレストは、先ほどまで行われていた委員会での決定事項を端的に伝えた。
「出立は八月一〇日だ。それまでに人員を集めたうえ、アーカイブをすべて転送しなければならん」
「っ! 二週間もないというのか!?」
「下手をすれば、予定が早まる恐れさえある」
「そこまで状況が悪化していたとは……」
フォレストは惑星ニューホーツにおける開発プログラムの責任者で、デュボアはその補佐をしていた。
元々の計画では、こちら側での宇宙開発に応用することを目的として、今後十数年かけて実験的に開発していこうというものだった。
それがこの度の騒動で、根本から変更となった。期間が大幅に繰り上がったばかりでなく、目的が実験から、いきなり実用のものとして本格的に開拓する話に変わってしまったのだ。
これまで立ててきたプランもすべてご破算である。
「しかし、それほどまでに期間の余裕がなくなったとすると、今後どう動く? アーカイブのほうは粛々と進めるほかないが、仮想体人員の方は」
「これまで候補に挙がっていた人材には一通り声をかけていくが、しかしそれでも数は十分ではないな。時間的にも、一人一人丁寧に面談や審査をしている余裕はなさそうだ」
「質より数を優先せねばならんか。仮想体になってる時点で、人格面はある程度クリアしてると思うが、経験や適性もあるしな。
募集には、PAN社などにも協力を要請してみるのはどうか」
「あそこに限らず、民間はどこも休業状態になってないか? 果たして企業として活動を維持しているところがどれだけあるか」
「わからないが、とにかく担当の者に連絡を取ってみるとしよう」
「そちらの方は頼む」
その他、当面のプランについて、大雑把な方針だけ決めておく。といっても、本当に大雑把で、プランと呼べるほどの内容もない。
「かなり行き当たりばったりで、出たとこ勝負な運営になりそうだな」
デュボアがそうぼやく。
「やむを得ん。こうも余裕がないのでは、できるところから手をつけて、それで稼いだ時間で次の方策を練っていくしかない」
「それはそうだが。これまで進めてきた計画が無意味になったしまったのが痛いな」
「たしかにな。だが、それで機材などはすでにある程度揃えられたのだから、まったくの無駄ということもないだろう」
「まあ、そうだな」
現時点で話せることは一通り話し終え、打ち合わせは終わった。
ふと、フォレストが口を開いた。
「なあ、フランク」
「なんだ?」
「ここで、まだ生きてる人々を見捨ててしまって、それで俺たちは本当に新世界でやっていけるんだろうか」
「それは……」
フォレストとて、悩むことはある。
危機的な状況にあるとはいえ、まだ人類は終わってなどいない。大勢の人間が生き延びようと、必死に抗っている。
まだ彼にも、こちらの世界でやるべきことがあるのではないか。そう思えてならなかった。
「仮に向こうでの開拓が成功したとして、俺たちは胸を張って『正しいことをした』と言えるんだろうか」
「……絶対的に正しい答えなどなかろう。何を選んだところで、後悔するのは避けられん」
「……」
「どの道、仮想体の我々には、ここでやれることなど多くはない。それに、我々のミッションは、あくまで『万一に備えて』だろう? 人類が滅亡すると決まったわけではない。ひょっとしたら、あちらの形が見えてきた頃にはこちらも終息しているかもしれん」
「……そうだな」
それは希望的観測というよりは、無理やり納得させるための欺瞞ではある。だが、とりあえずフォレストは悩みに蓋をして、任務に専念することにした。
*
20xx年7月31日。
現実世界が絶望的な状況になっている中、仮想世界の佐藤桐子はホーム空間でただぼんやりと過ごしていた。
シーバスのような特殊な事例はあったものの、仮想世界に屍者の害が直接及ぶことはない。だが、間接的には、仮想世界にもいろいろと影響が出ていた。
事態が表面化した翌日には、クライアントであるPAN社が事実上の休業状態となったため、以来彼女も失業状態である。
PAN社のサーバーは放置状態ながら稼働はしており、仮想世界もそのまま存続しているが、それがいつまで続くかは不透明だった。何の予告もなく、いきなりサーバーがシャットダウンする可能性とてあり得た。そうなれば、この仮想世界も、桐子も消失する。
VRMMOなどもまだ自動で運営されてはいるものの、そんな状況では、とてもゲームで遊ぼうという気にはなれない。
また、現実世界で行動する手段がないため、救援活動などに参加することもできない。
そんなわけで、彼女は何もすることがなかった。せいぜい、ネットでニュースを見て、事態の推移を見守ることくらいか。それとて、ニュースを発信する媒体も目に見えて減ってきているのだが。
「父さんと母さん、だいじょうぶかなあ……」
気がかりなのは両親のことだった。実家のあたりもすでに危険地帯に呑み込まれている。
桐子は仮想体になってから、両親とは一度も連絡をとっていなかった。
彼女はすでに一度死んだ身である。つまり、
その紛い物の自分が、両親にどういう顔をして会ったらいいのかわからなかった。だから、彼女はこれまで連絡するのを先延ばしにしてきたのだ。
だが、こういう事態となっては、そうも言ってられない。桐子は意を決して、メッセンジャーアプリで連絡を入れてみた。
しかし、今のところレスポンスはなかった。通信が届かない環境にいるのか、それとも……。
そうして彼女が一人で悶々としていると、ホーム空間への入室要請ダイアログが現れた。
相手はPAN社の田中だった。OKを押すと、光の柱のエフェクトとともに、田中のVRアバターが転送されてきた。
桐子が仮想体になってから、田中にはPAN社の社員としていろいろサポートしてもらっていた。その彼が桐子のホーム空間を訪れるのは、最初の頃を除けば、かなり珍しい。
「田中さん! 無事だったんですね!?」
「ええ、今のところはまだ大丈夫です」
「よかった。というか、そちらではどういう状況なんです?」
「残念ながら、あまり芳しくない状況です」
あまり、というのはかなり控えめな表現ではあった。
「場合によっては……いえ、かなり高い確率で、今後この仮想空間を維持できなくなると思われます」
「その、そんなにまずい状況では、仮想空間どころの話ではないのでは?」
「私がこちらに伺ったのも、そういう状況だからなんです」
「どういうことです?」
「佐藤さん、唐突ですけど、本物の『異世界』に行ってみませんか?」
「は?」
本当に唐突だった。
田中は『平行宇宙開発プロジェクト』と、惑星ニューホーツの概要を説明した。桐子はニュースなどで軽く報じられたのは見ていたが、具体的なところは知らなかった。
「実はですね、仮想体の人だけで構成された開拓団を向こうへ送って、開発する計画がありまして」
「今のこの混乱してる時期にですか?」
「はい。今だからこそ、です。冗談抜きに、人類滅亡の可能性もかなり現実味を帯びてきています。それで、異世界に人類の足跡を残そうという話になりまして」
「ま、まさか、そんな状況にまでなってたなんて……」
状況が悪化しているのは桐子も理解していたが、肌で実感できてはいなかった。
田中は開拓団の目標についても語った。
惑星ニューホーツを開拓し、現地で新人類を合成して育て上げ、文明社会を築き上げること。すなわち、
――人類という『種』を、人類が積み上げてきた叡智とともに異世界で存続させる。
それが『異世界開拓団』の
「で、佐藤さんにも、この開拓団に加わっていただきたいのです」
「わたしに、ですか? でも、わたしは特別な技能とか何もないですけど」
「そこは大丈夫なはずです。他の方もほとんど未経験者ばかりですから。あと、仮想体には『適応性』という数値がありまして、これが高い人ほどドローンの操作がうまくなるんですが、佐藤さんの場合、この数値が飛び抜けて高いんです。だから、あちらでもかなり重宝されるんではないかと」
「そうなんですか……?」
自分が平々凡々だと思っていた桐子には、いまいちピンと来ない話ではあった。ドローンの操作も経験がない。
ただ、『異世界』というワードには強く惹かれる桐子であった。ファンタジー系のラノベ、特に異世界転移や転生といった話が大好きだったので。
彼女はまだ、その『異世界』の実態を知らない。
「わたしで良ければ、参加します」
「ありがとうございます。資料などは後ほどメールで送付しますんで、目を通しておいてください」
「わかりました。よろしくお願いします」
こうして、桐子の参加はわりとあっさり決まった。
「田中さんは今後どうされるんですか?」
「私は他の仮想体の人たちへ、開拓団への参加を呼びかけてきます。あとは、PAN社のビルに立て籠もって、開拓団に使えそうな資料とかを回収してくるつもりです。それが終わったら、私も仮想体作ってそちらに参加したいですね」」
「大丈夫なんですか? 立て籠もりってあんまり有効じゃないって聞きましたが」
「まあ、私一人ならなんとかなるんじゃないかと」
「そうですか。ほんとうにお気をつけて」
「はい、では失礼します」
そう言って、田中は慌ただしく別の場所へ転移していった。
*
異世界へ行くと言っても、支度することはさしてない。ホーム空間を含めて、持ち物一式は桐子のデータに含まれているので、まとめて転送される。物理的な制限はなく、データ容量の上限はあるものの、桐子の容量は問題なかった。
あとは心の準備くらいだろうか。
そうしたときに、メッセンジャーアプリの通知が鳴った。
「誰……? ッ、父さんっ!?」
通知相手は父からだった。非同期メッセージではなく、リアルタイムのオンラインでの通知だ。
桐子は心臓が止まるかと思った。仮想体の擬似的な心臓ではあるが、精神状態もきっちり心拍に反映されるようだ。
リアルタイムということは、父は無事だということだろう。そのことに安堵しつつ、さて今はどういう顔をして会ったらいいのか悩んだ。
彼女は一瞬迷ったが、ままよっと通話をONにした。
「あ……」
『っ……!』
アプリの仮想ウィンドウに、懐かしい父親の顔と、その隣にいる母の姿が映った。携帯端末からの映像だろうか、記憶にあるよりも少し老けているように見えた。疲労の色が濃いように見えるのは、心労もあるのかもしれない。
向こうも桐子の映像を見たのだろう。息を呑むのが聞こえた。
「……」
『……』
お互いにどう声を発したものか、困惑しており、沈黙が続いた。ややあって、桐子は口を開いた。
「あの……わたし……」
『うん……』
桐子は言いかけて、言葉が詰まった。恐らく、仮想体の涙腺が省略されていなかったら、目が潤んでいただろう。ちょうど画面の向こうにいる父母のように。
「わたし、その……桐子の、コピーです……」
『うん……うんっ……』
『もう、会えないと、思ってたけど……うぅ……』
父も母も、泣きながら頷いていた。
どうやら、娘の複製品であっても受け入れてもらえたようだ。
桐子はできることなら彼らのそばに行きたかった。仮想世界の住人には不可能なことだったが。
彼らはどこにいるのか。自宅ではなさそうだった。
「あのっ! と……父さんたちは、無事、なの?」
『ああ、今は、自衛隊の駐屯地に世話になってるよ……』
「そ、そうなの……よかった……」
『ここもどのくらい持つか、わからないけどねえ』
『かあさん、それは言っちゃいけない』
『ええ、そうね。ごめんなさいね……』
母は無理に笑顔を浮かべた。
不安は大きいが、今は伝えるべきことを伝えておかなければならない。
「と、父さん、母さん、あのね、わたし、こことは違う『別の世界』に行くことになったの」
桐子は開拓団のことを話した。
『別の?』
「ええ。地球じゃなく、ものすごく、ものすごく遠い、遠い星。そこで、神サマみたいな仕事をして、人を育てていくことになったのよ」
『そうか……お前が、今度は、そんなことになるなんてなあ……』
一度死んだはずの娘が、今度は神サマの真似事をするというのだから、人生わからないものである。
『人を育てるってことは、あなたの子供みたいなものかしら』
「うん……うん……」
『お前の子供……孫かあ、見たかったなあ……』
『そうね……』
だいぶ誤解があるような気がしたが、桐子はあえて指摘しなかった。
『でも……俺らが見れなくても、続いていってくれるなら……もう、それだけでいい……』
『えぇ……えぇ……』
涙も、鼻水も出ないが、呼吸だけが苦しい。
彼女は仮想体の設計者に文句を言いたくなった。なぜ涙腺が実装されてないのかと。泣きたいのに一滴たりともこぼれないのが、ものすごく辛い。AIだったら、こんなに辛いなんて感情、なくしてしまえるんじゃないのか。
「父さん、母さん……」
もはや表情筋が引きつりすぎて痛い。彼女は無理やり言葉を継いだ。
「だから……その、い、行ってきます!」
『……うん、達者でな』
『うん、行ってらっしゃい』
父母は泣きながらも、笑顔を浮かべて言った。言ってくれた。
彼女の中で、もう自分がコピーだから、というわだかまりは消えていた。画面越しでも、会えてよかった。旅立つ前に、言えてよかった。
その直後。パンッという破裂音がメッセンジャーアプリの音声に混じった。画面の中で、父たちが慌てて周囲を見回すところが映った。
次いで、多数の悲鳴と絶叫に混じって、パタタタッ、パタンッ、パタンッ、パタタタタタッ、と連続して破裂音が響いた。音源がものすごく近そうである。
「と、父さんっ! 母さんっ!!」
ドっと爆発音が聞こえたと同時に、ザザッとノイズが走り、そこでメッセンジャーアプリの映像は途切れてしまった。
「とうさん……かあさん……うぅ……」
あちらで何が起きたのか、考えたくなかった。
ただ、彼女にとって、こちらの世界への未練となるものはなくなってしまったらしい。
*
20xx年8月10日。
この日、いよいよ開拓団が異世界へ転送される。
現時点で集められた仮想体人員は二八四名。二日後に追加の予定もされているが、当初はこの人数で始めることになる。
すでにあちら側には月面基地の他、様々な施設や機材が稼働している。あとは人員が到着するのを待つのみだった。
仮想空間に設けられた大ホールには、開拓団の人員全員が集まり、整列していた。
『あなた方は、これから、人類が、経験したことのない、道なき道を進む、困難な旅に出る、ことになります。簡単な答えのない、難しい問題に、直面することも、あるでしょう。時には、道を誤りそうになる、こともある、かもしれません。
ですが、私は、あなた方が、最善の道を選び、困難を、乗り越えられると、そう、信じております。
どうか、異世界で、人類の、未来を守り、切り開いていってください』
壁面に設けられた大型スクリーンでは、開拓団参加国の元首や大臣らが順番に映し出され、それぞれ開拓団に向けたメッセージを読み上げていった。もっとも、亡くなった元首の代理が出てくる国もあれば、政府そのものが消失していて誰も出られない国もあった。今は日本の首相が訓示を述べていたところだった。日本はまだ持ちこたえているらしい。
いずれのスピーチも、現在地球が置かれている厳しい状況を、改めて認識させるには十分なものだった。
想像していたよりもずっと重い使命に、桐子も身が引き締まる思いだった。
その後、配属の発表やおおまかな注意事項などの説明があり、それが終われば、転送が始まるまでの間しばし自由時間となった。
みな、配属となった先で自己紹介をしあう。
「ハイ、キリコ」
「はい……? えと、どちらさまでしょう?」
桐子は金髪の白人女性に声をかけられた。向こうはこちらを知っているようなのだが、桐子はとんと覚えがなかった。
「あー、素顔出すのは初めてだっタ。マギーだヨ」
「え? ええぇ!? マギーって、あの、マギー?」
「そうソう」
VRMMOで友人となった、猫の全身着ぐるみを被っていたキャラの中の人だった。言われてみれば、声は同じだし、翻訳の語尾がバグるのも同じだった。
「同じ班になったカら、これからもよろシク」
「そうなんだ。うん、こちらもよろしく」
二人が話していると、田中がVRアバターでやってきた。
「こんにちは、佐藤さん、ウェントワースさん」
彼は、今日は開拓団の見送りにここへ来たという。さらに、彼の後ろには小柄な少女がいた。
「紹介します。こちら、島田七海さんです」
「えと、島田です。よろしく、おねがいします……」
日本人で、年齢は高校生くらいだろうか。見た感じはかなりおとなしそうであった。
「彼女も開拓団の一員となりまして、佐藤さんたちと同じ班に配属されるそうです。
彼女はまだ未成年でして、仮想体歴も浅いので、お二人には先輩として彼女の面倒も見ていただければと思いまして」
「なるほど、りょうかいです。わたしは佐藤桐子です。よろしくね」
「おk、まかせテ。ワタシはマーガレット・ウェントワース、マギーと呼んデ」
そうして、桐子はこれから長い付き合いとなる友人たちと顔合わせした。
「田中さんは?」
「明後日、第二陣が出るそうなので、私はそちらに入って合流しようと思います。あちらの時間では二〇日後ですね」
「なるほど。あちらで待ってますね」
「はい」
彼はまだ作業が残ってるということで、挨拶もそこそこに手を振りながら去って行った。
そうこうするうちに、転送の時間がやってきた。
大ホールの中央の床に、直径5mほどの円形の紋様が浮かび上がった。円の内側には内接する五芒星や、複雑な幾何学模様、奇怪な文字らしきものが入り混じり、淡く光っていた。
「何、あれ」
「ファンタジーでよくある魔法陣……でしょうか?」
「イア! イア! とか唱えテ、ナニか召喚するとカ?」
「この場でそんなもの呼び出してどーすんの」
「これから異世界に行くので、そういう演出なんでしょうか」
「それっぽいと言えば、それっぽいけどねえ。必要なのかしらん」
話していると、魔法陣の上にまばゆい光を放つ球が現れた。同時に、床の魔法陣から球を取り囲むように光の渦が立ち上った。
「これより、出発する!」
開拓団を指揮するフォレストという男が号令をかけ、光の渦へと入っていった。続いて、一人一人順番に光の渦へと進んでいく。
ただのデータ転送のはずだが、あの光の渦にどういう役割りがあるのか謎である。だが、意味合いとしてはわかりやすかった。
(あの向こうに、異世界があるんだ)
そう思うと、桐子は緊張した。
ラノベによくあるシチュエーションとは違う。異世界へ行くのは、トラックに轢かれたからでもなければ、何者かに強制召喚されたわけでもない。はたまた、偶然迷い込んだからでもない。
勧誘された形ではあるが、それを引き受けたのはあくまで彼女自身の選択だ。自分の意思で、異世界へ行くことを決めたのである。
桐子は光の渦に身を投じた。
こうして、開拓団第一陣、二八四名の仮想体は異世界へと旅立っていった。
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