紅 ー紅之介と葵姫の四季の物語ー
広之新
序章
第1話 江嶽の国
江嶽の国と言えば、古来より美しい湖と高く険しく連なる山々で知られていた。その湖のほとりにはかつて、この国の中心であった麻山城が鎮座していた。その雄大で荘厳な姿は遠くからでも望むことができ、人々に畏敬の念を抱かせていた。
またその地は街道と港の集まる交通の要所でもあった。人の行き来が盛んで多くの品物が流通し、その城下町は京にも劣らぬほどに栄えていた。
だがそれは一時の幻のようだった。今はすべて廃墟になって草木が生い茂り、壊れた門の一部が名残をとどめているに過ぎない。
それに対して峻険な山々の姿は変わらなかった。そこは今も人の往来を妨げていた、いや拒んでいたという方が正しいかもしれない。幾重にもそびえ立つ山々を越えるため、暗く険しい山道を通らねばならないのだ。そのため昔からわざわざこの地域に足を踏み入れて、貧しい里を支配しようとする者は少なかった。
だがあまり知られていなかったが、その山々の間に多くの人が耕作をして十分に暮らせる谷があった。土地の者はそこを椎谷という。今は数軒の民家が建つ小さな村だが、かつてはここに多くの者が暮らしていた。その名残が今も村のあちこちに見られる。大きな屋敷や家々の跡、耕作されなくなって荒れ果てた広い田畑・・・ただそれだけではなく、ここには様々な伝説があった。
かつてこの付近で大きな戦があった。ある武将が軍勢を率いて攻めてきたのだ。すぐに村は焼き払われたが、村の者の多くはある方に従い、近くの砦に籠った。彼らはひと冬の間、攻めてきた大軍勢を相手に戦い抜いたのだ。だが最後には砦は落とされ、多くの者が死んでいった・・・それは悲惨な出来事だった。だがその中に一組の男女の話が伝わっていた。
それは過酷な戦いの中、愛を貫いた紅之介と葵姫の物語であった。
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