第73話 ピタゴラスの末裔

 テレビのチャンネルを回した。

 脂っぽい髪を撫でつけたキャスターが、ニュースを読み上げた。

 橋の下で不法な講演会をした女が、詐欺罪で逮捕されたようだ。

 自らを『ピタゴラスの末裔』だと偽っていたらしい。

『真理を解くカギ』と称し、古びた鍵(ファッション用の、アンティーク風のアクセサリーだ)を高額で売り付けた。

 鍵があるなら扉もあるはずだ。

 扉の向こうに一体何があるってんだ?

 犯人の女の顔が映った。若い女。どこかで見た顔だと思ったが、すぐには思い出せなかった。

 あの酔っぱらいの男も、捕まったんだろうか。まぁ、あいつらの善悪はどうでもいい。大切なのは、あの男のまいた種が私の中で萌芽し、育ちつつあることだ。


 ピタゴラスは数字を我々のものにした。

 数字は、私たちを支配する。天地を創造した、神そのもののような顔をして我々の前に存在する。

 この女と話をしてみたいと思った。ファン・レターでも一筆、したためてみようか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る