第19話 恋に落ちても溺れるな

 そして指定された当日、私はお父様と、そしてレオンと共に馬車で王城に向かいました。

 装いとしては派手になりすぎないようにしたかったのですが……お父様が『アベリアン殿下に美しく装ったお前を見せてやれ』と何故か張り切った結果、お茶会に参加するかのような装いになってしまって少し恥ずかしいです。


 これまでは王子妃教育と、そしてアベリアン殿下の意向でできるだけ控えめな格好を心がけておりましたので、それがお父様には悔しかったらしいのです。


「よしよし、これで殿下も見直すに違いない!」


「見直していただく必要は無いのですが……」


 殿下はそもそも『可愛らしくて自分に甘えてくれる・世話をしてあげられる』タイプの女性がお好きなのであって、格好一つでどうこうなることはないと思うのですが……。

 それに、今更あの方に褒められたり好ましく思われるのもどうかと思うのですけれど。


 まあ、二人が満足ならば私はいいのですが……それでもちょっと落ち着きません。


「レオンも惚れ直しただろう? うちのロレッタはこんなにも愛らしいというのに、可愛げのない女だなどと……二度と言わせてなるものか!」


「あの殿下を見返してやりたいのは確かにそうですが……でもそうですね、見せてやるのがしゃくなほどにお綺麗ですよ、お嬢様」


 真面目な顔でそんな褒めてくるものだから、私としてはたまりません。

 恥ずかしいったらないではありませんか!


「もう、二人ともいい加減にしてください」


 照れていいのやら、呆れるべきなのやら。

 私としては複雑な心境ですが、とにかく今回の件でようやく落ち着けるのですからシャキッとしなければ。


 私はお父様に問いかけました。


「婚約に関しては確実に解消になるのですよね?」


「ああ。そのように話は聞いているし、すでに書類はあちらで作成済みだ。それはわたしが直接この目で確認した。その上で、お前にも確認してもらってサインをしてほしいと言ってきているんだ」


「承知いたしました」


「陛下にはすでにお前の次の婚約者は内定していると告げてある。ただ、以前も話した通りすぐに婚約とはいかんから、その話を表でしたとしても釣書などが届く可能性はあるだろうな」


「……それも承知しております」


 煩わしいとは思わない。

 だってそれが、貴族ですもの。


 私という女主人の伴侶として、公爵家に婿入りできるならば家を継がない立場の方でしたら多少の難ありだとしても申し込みくらいしてみようという気持ちになることでしょう。

 勿論、全ての方がそうだとは思いません。

 なんだったら冷やかしの方もいらっしゃると私は思っています。


 そして当人ではなく、ご家族が自分の息子、あるいは孫の将来を案じて勝手に申し込みをすることもあるでしょうしね。


 お父様もそれに関しては仕方のないことだとして受け入れるのでしょうが、レオンは面白くなさそうです。

 彼からして見れば、自分が婿になるとほぼ決まっているのに横から割って入ろうとする人間がいることが気に入らないのでしょう。


(それを嬉しいと思ってしまうのだから、困ったものだわ……)


 これが浮かれている、というものなのでしょうね。

 レオンが私の伴侶として支えとなり盾となり、そしてワーデンシュタイン公爵家の弱点とならないように日々努力を重ねてくれていることはわかっています。

 細かいことをつついてワーデンシュタイン家の勢いを削ごうとする者はどこにでもいるのです。


 足の引っ張り合いをしてどうして民のためになるのでしょう、とはいえ……権力というものには、争いがつきものですから。

 綺麗事だけではどうにもならないと、私も学びました。


(私も恋に浮かれてレオンの足を引っ張らないようにしなくては)


 初恋に溺れてこれ以上の失態を犯してはどうしようもないですからね!

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