第7話 ワーデンシュタイン公爵家の護衛騎士
「さて、あとは暴漢でしたかしら? その件については先ほども申し上げましたが、私は関与しておりませんので……どうぞ官憲に訴え出ていただいて結構ですわ。ワーデンシュタイン公爵家の名において、きちんと捜査に協力することをここに宣言いたします」
「なっ、なっ……」
「この場にいる皆様方も私の宣言の証人になってくださいますわ」
殿下はもはや言葉もないようですし、アトキンス嬢も顔色が真っ青です。
これ以上の話はおそらくもうできないでしょう。
そう考えて私が再び卒業生の皆様の方へと体を向けると、背後からエルマン様が怒声を上げながらこちらに走ってくるのが視界の端に見えました。
「お前がっ、捕まるべきだ!」
「あら、まあ」
どうやら私を捕まえて突き出すおつもりなのでしょうか?
協力すると言った傍からまるで罪人扱い!
さすがに私も驚いてしまいましたが――いえ、驚かされてばかりですわね。
ですが私も公爵家の跡取り娘、取り乱すことはございません。
なぜならば、私は一人ではないのですから。
「ご無事ですかお嬢様」
「ええ。ありがとう、レオン」
「……ぎりぎりまで手を出すなというご指示でしたので待機しておりましたが、これ以上は無理です」
「そうね。さすがに暴力沙汰にまでなったなら、これはもう私の手を離れて貴族院での議題になることでしょう」
私とエルマン様の間に入り彼を取り押さえたのは、私の護衛騎士であるレオンでした。
卒業式典なのですから、あまり目立つところにいられては他の方々と最後の学生生活の思い出として交流ができないでしょう?
これからは貴婦人として、線引きがありますけれど……それこそ、先ほどまで殿下方が仰っておられた『身分にかかわらず』交流ができる最後の機会でしたもの。
公爵位の人間となると、下級貴族の方々の会合に顔を出すにも一苦労。
逆も勿論そうです。
個人的なお付き合いをしているならばともかく、社交場が違ってくれば縁が遠くなる方もいらっしゃるでしょう。
ですから、私も今日のこの卒業後のイベントを楽しみにしていたのですけれど。
「レオン、既に外に先生方もいらっしゃるのでしょう?」
「はい。官憲には連絡済みとのことでした」
「……そう……とても残念だわ。これも私の力不足ね」
「致し方ないことかと。これからは旦那様の下で学ぶほかございません」
「そうね」
私としては、できることがもっとあったのでは……と考えてしまいます。
いいえ、思っているようではだめなのだと思いました。
全ての手を尽くして始めて『仕方なかった』と言えるのでしょう。
それだけの義務と責任が、私に……ワーデンシュタイン公爵家には伴うのです。
権力を持つ者は、持たざる者のために尽くさねばなりません。
そのためには、非情になることだって必要でした。
それを私は自分の個人的な感情を優先して怠ったのですから、努力をしていかなければ取り戻せないことでしょう。
……まあコリーナ様も、他の卒業生たちも、私の苦労はわかっていると同情してくださっていたこともあるので……多少は甘く見てくださるかもしれませんけれど。
話を聞かずに逃げてばかり、遊んでばかりの王太子殿下に対し私が対話を求めていたことは皆様ご存じですもの。
ただその同情に期待してはいけないと理解した上でこれからは……貴族の一人として、正しく責任をもって選択していくことといたしましょう。
そんなふうに自分を戒めていると、壇上から殿下とアトキンス嬢が下りてきました。
どうやらレオンによって押さえ込まれたエルマン様を助けに来られたご様子。
「えっ、あれは誰? あんな素敵な人学園にいた?」
(あらまあ)
ところがアトキンス嬢はエルマン様を案ずることよりも先に、レオンが気になるご様子。
それには思わず殿下も足を止めて彼女を見てしまいましたわね!
まあ、レオンは私の護衛騎士ですから素敵に決まっておりますけど?
なんだか少し、誇らしくなってしまいました。
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