第9話 ロディ、年上女性に囲まれる
魔法陣製作士、講義が終わった。
エリザベス講師が去っていくのを見送ったロディは、ふうッと大きな位置を吐いて机に伏せた。
「疲れたー。こりゃ魔法陣製作士になるのは無理かも。何年かかるかわからない・・・。」
「・・・同感。」
声の方を見ると、ナコリナも同じように机に伏せていた。
「勉強もいいけど、インクの素材集めしなきゃいけないね。都合よくギルドに依頼が出てたりしないかな。」
と、ロディがつぶやく。それを聞いて、ナコリナはガバッと跳ね起きてロディを見つめた。
「そうだ、確かめたいことがあったんだけど。」
「な、何?」
「ロディって、冒険者ギルドの職員じゃない?」
「え、そうだけど。」
「やっぱりー。どこかで見たことあるなーって、講義中気になってたんだ。」
ナコリナが、喉のつかえが取れたようなすっきりした顔になった。
「ごめん、僕は全然覚えてないや。」
「そりゃ仕方ないよ。ロディはカウンターにあまり出てこないでしょ。それじゃ覚えてないのも無理ないわよ。」
するといきなり別の方から声が聞こえてきた
「え、冒険者ギルド職員なの!?」
振り向くと、参加者の女性がロディの方を見ていた。それも一人じゃなく、残り全員。どうやらロディたちの会話を聞いていたようだ。そしてみんな目をらんらんと輝かせていた。
「え・・、そうですけど。」
「ロディ君って優良職だったんだね。」
「株が爆上がりよ。」
ガタッと、5人の女性全員が立ち上がって、ロディに近寄ってくる。
何事が起ったのか、戸惑いつつロディは彼女たちに受け答えする。
「え、あ、いえ、まだ新人だから、そんなことは・・・・」
「謙虚ねえ。」
「最初から要チェックと思ってたけど、仕事も将来有望だわ。」
彼女たちの目は、なんだか肉食獣を思わせるような怪しい輝きがあった。
(あれ?なんかロックオンされてる?なんで?)
彼女たちのタダならぬ雰囲気に”逃げた方がいいか?”と思った時にはもう遅かった。
いつの間にかロディは6人の女性に囲まれていた。これでは逃げられない。
「近くで見るとさらにかわいいわね。持って帰っちゃおうかしら。」
「それはちょっと早いかな。ねえ、今から私たちとお茶に行かない?近くにいい店があるのよ。一緒に行かない?」
一番年長そうな20歳くらいの女性がロディに誘いかける。彼女を見ると、胸の谷間が強調されているような服を着ていた。そこにくぎ付けになりそうになったロディだったが、必死に耐えて目をそらす。
「あ、あの・・」
「それはいいわね。もっとロディ君のこといろいろ聞きたいわ。」
どぎまぎしながらロディが何か言おうとしたが、ほかの女性がさらに追い打ちで言葉をかけてきて、うまく返事できない。
(なんかどんどんお姉さんたちが近づいてくる。あ、ちょうど顔の位置におっぱいが来る。おっぱいがいっぱい近づいてくる。それにいい香りが・・・。いや、でも近い、近い。おっぱいが。・・・どうすりゃいいの?)
ロディのうらやましい状況の中、それまで黙っていた当事者の一人がようやく動いた。
「ちょっと、ロディが困ってるじゃない。もっと離れなさいよ。」
ナコリナが怒ったように間に入って、ロディを雌豹どもから引き離す。
「えー、あなただけずるいじゃない。ずっと独り占めしてたし。」
「そうよ、私もおしゃべりしたいんだから。」
女性たちは少し怒ったような表情でナコリナを非難する。しかしナコリナは引かない。
「残念。そんなの隣に座れなかった時点でもう運が無かったのよ。」
「でも選ぶのはこのロディ君でしょ。ロディ君も、この女より胸がある方が好みでしょう?」
この言葉に、場が一瞬にして沸騰したのがロディには分かった。
(あ、これヤバいやつ。)
だがロディには何もできなかった。というより、たぶん男は誰でも同じだろう。
「なんですって!?私だって結構あるでしょ!まだ若いんだからこれからもっと成長するのよ。まだ若いんだから!」
「何2回言ってんのよ。私だって若いわよ!」
会話はどんどんエスカレートしていく一方だ。
(・・・何、この修羅場。なんでこんなことになってんの?)
ロディはおろおろしてキョロキョロとあたりを見回すことしかできない。
が、その時気づいた。この瞬間、みんなの意識が自分に向いてないことに。
逃げるチャンスは今しかない!
「ごめんなさい、この後用事があるんで先に帰らせていただきます。ありがとうございました。」
「「「「「「え?」」」」」」
早口で一気にまくしたてたロディは、女性たちの隙間を見つけてダッと扉の方に走り出した。
「それじゃ失礼します。」
「あーん、待ってよー。」
一瞬のスキを突かれ逃げていくロディを見送るしかない女性陣。彼女たちの声を背中に、すんでのところで危険地帯を脱したロディ。
「あ、ロディ。話があるから今度会いに行くわね。」
「わかった、じゃあ」
ナコリナから最後に聞こえた声に生返事をして扉を閉め、逃げるように建物の外に出るのだった。
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