第11話 もずきゅんのお料理教室

ーーーーーー


「ね、ねねね猫実くん!さ、ささささっきはごめんなさい!!!」

 もずきゅんは、顎にガーゼをあてた猫実好和に向かい、床に猫耳が触れる勢いで深々と頭を下げた。


「もずきゅん先輩。俺は大丈夫ですから。今回は二度目なので受け身も取ったし、ある程度ダメージも受け流しました」

 猫実は謎の自信ありげな表情で答えた。


 もずきゅんはゆっくり顔を上げると、目をうるうるさせて悲しそうに言葉を漏らす。

「に、二度目......」


「あっ!えっと!皮肉でも当てつけでもないですよ!?他意はないですから!!だからそんな顔しないでください!」


「......ほ、ほほほほホント??」


「ホントです!」

「よ、良かったぁ...」


 微笑み合う猫実好和ともずきゅん。

 二人の様子を見て、アミーナとハヤオンと千代の三人は、ひとつ確信した。

 この大学生男子は、かなりのお人好しだと......。


 そんな中、ツンデレネコ娘ナルだけは肩をそびやかせて腕を組み、ムスッとした表情を浮かべていた...。



 厨房。


 猫実&もずきゅんの二人は気を取り直し...

 もずきゅんが猫実好和に、本格的にキッチン仕事の指導を開始する。


 キッチンに向かい並び立つ二人。

 先日は五メートルほど離れていた距離も、手の触れる距離に近づいていた。

 極度の人見知りでコミュ障全開のもずきゅん相手に、とりあえず物理的な距離は縮める事に成功した猫実好和。

 その代償に、フライパンで襲われたり頭突き二発を喰らったりと、それなりのものを払わされた訳ではあるが...。


「じゃ、じゃじゃじゃあ、はは始めますね」

「はい!よろしくおなしゃす!」


「えええっと......ね、猫実くんは、お、お料理はする?」

「自炊はわりとしてます」


「そ、そそそーなんだ。と、得意料理とか、ある?」

「そうですね?得意っていうか...チャーハンはよく作りますね」


「お、おおおオトコメシってやつだね??」

「そうなんですか?他にも煮物作ったりもしますよ」


「に、ににに煮物も作るの??」

「はい、好きなんで。でも、やっぱりチャーハンが一番好きですかね!」


「そ、そそそそう。な、なら、チャーハンっぽいメニューがあるから、そ、それをまず教えようかな」


「チャーハンっぽいメニュー!?是非教えてください!覚えて家でも作りたいです!」


「わ、わわわわかりました!」

「よろしくおなしゃす!」


「で、でででは......当店オリジナルメニュー...」

「は、はい」


「......ニャーハンを伝授をします!!!」

「にゃ、ニャーハン!??」


 ニャーハンとは、猫カフェ『ネコまっしぐランド』オリジナルメニューである。

 何でも、アミ店長が考案したものらしい。

 

「ちょ、ちょちょ調理の仕方は、チャーハンと、ほほほとんど変わりません」

「はい」

「つつ使う食材は、こ、こちらです」


・米

・卵

・かつおぶし

・にぼし

・マグロ

・カツオ

・カリカリ

・チュール

・猫缶

・どら焼き


「あの......カツオまではいいとして、カリカリ以降は...」


「え??お、おおお美味しそうでしょ??」


「...しかも最後のどら焼きって何ですか?」


「それは、我らが大師匠、ドラ◯もん先生の大好物だよ!??」


「だから!?」

「だからドラ...」

「もういいっすそのメニューは!」


 ...ということで、仕切り直す二人。


「じゃ、じゃあ、ほほほ他のメニューにするね」

「...お願いします」


「うーんと、じゃあ......」

「はい」


「......にゃんこそば!!」

「ニャンコ蕎麦!?」


「ちょ、ちょちょ調理の仕方は、蕎麦と、ほほほとんど変わりません」


「はい」

「つつ使う食材は、こ、こちらです」


・蕎麦

・どら焼き


「待てーい!」

 猫実が叫ぶ。


「な、ななななに???」


「なにじゃないっすよ!?ただの蕎麦とどら焼きじゃないっすか!どら焼きいらないっすよ!」


「だ、だだだだって、そ、それじゃあ、ただの蕎麦だもん!」


「ただの蕎麦の方がいいっすよ!」


「ガーーーーン!」

 大ショックのもずきゅん。


「なんでそんなにどら焼きを入れたがるんですか!?」


「...そっ!それは、わわわわたしたちネコ娘にとって、ドラ◯もん先生は、神様のような存在だからだよぉ!!」


「だからって無理くりメニューにぶち込まないでください!それに、どちらかと言えばド◯ミちゃんが神様じゃないんですか??女の子だし」


「そそそそれは、お、男の子視点だからだよぉ!ドラ◯もん先生は、お兄ちゃん萌えでもあるの!ド◯ミちゃんだと妹萌えだから!」


「ドラ◯もんにそんな視点あるんすか!?」


 二人の間に高度な議論が展開する。

 その議論に、終わりは、ない。

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