第二章 1話 少女は暮らしている

 春の陽射しが暖かく差し込み、心地よい風が頬を撫でる昼下がり。ソートハウル街の通りの店のウィンドウショッピングの前に1人の少女がいた。

訳あって一人で昨年この街にやってきた彼女は今、重大な決断を下そうとしていた。



「うぅーん……350ガルドか…でもこの服可愛いなぁ…給料2ヶ月ぶんか…うぅーん…」



彼女が立っているこの店はソートハウル街でも有数のブランドショップ。春の新作デザインとして初お披露目となった白を基調としたワンピースは、少女の心に見事突き刺さったのである。



「お昼ご飯はマスターが作ってくれるしぃ…夜はおにぎりで…足りないよねぇ…」



脳内帳簿をやりくりし、食費を切り詰めるという苦肉の策を考えていた彼女だったが、彼女の目にウィンドウ奥の店内の時計が50分を指しているのが映り込み我に帰った。



「…あっ!!!ヤバ!!後10分しか無い!!バイトに遅刻しちゃう!!」


石畳に躓かないように小走りで店に向かう何処にでもいそうな一人の少女、この物語は彼女と彼女を取り巻く者たちの物語である。



ソートハウル街の中心であるエーレス噴水広場に面する場所に店を構える喫茶「Jungfrau 」。噴水を眺められるテラス席のあるシックな雰囲気のこの店はランチタイムに美食を求める市民で賑わっていた。

喫茶店にしては大きめの店内は休憩中の職場仲間や婦人たちのたわいない会話、旅行者や冒険者たちによって心地よい騒がしさが生み出されていた店内に少女が大急ぎでカウンターへ向かっていった。



「ギリギリセーフです!!!」


「アウトよ、急いで着替えてきなさいね。」


「そんなぁぁ…!急いで着替えますぅ…」


ギリギリセーフと安堵していた様子から一転bして、目に見えてへなへなとしおれる彼女を横目に見ながらサンドイッチを作ってる彼女はこの店の店長であり経営者である女性は皆からはマスターと呼ばれている。

ブロンドの髪に目鼻立ちの整った顔の彼女は毎日押し寄せる様々な人の相談を笑顔で乗ってくれるこの街のマドンナのような存在で、毎日多くの男共が彼女の手作りサンドイッチを食べに来店するほどである。

少女は街に住み出して右も左も分からない時にマスターに拾ってもらう形で店近くの家に住み込みながらバイトをしているのだった。

仕事着に着替えた少女がぱたぱたとバックヤードから出てくるとカウンター上皿に乗せられた色鮮やかなサンドイッチにかぶりついた。



「食べ終わったら料理運んでもらうからよろしくね。」


「ほふぃろんふぇふ!!(もちろんです!!)」



頬袋を膨らました彼女はもきゅもきゅと5分経たずに3つのサンドイッチを平らげ配膳へと向かうのであった。ちなみに何故カウンターで食べているのかというと、彼女の食いっぷりがとても良く、客から観てて評判がよかったのでわざと見えるようにしていたのであった、無論本人は知らないのだが。

気がつけば日も沈み始め、忙しかった時間はあっという間に終わりを迎え、店は閉店準備に取り掛かっていた。少女はモップをかけながら今朝見つけた服の話をマスターに相談していた。



「…それでですね!もうその服がすっっごく可愛いんですけど!!すっごく高くてどうしよーって悩んでるんですよ…」


「そうなの…」


マスターは少し悩むようなそぶりを見せるとメモ用紙を取り出し、何かを書きながら少女に質問を投げかけた。



「貴女、明日って何か用事とか約束あったりする?」


「明日ですか?何もないです!お仕事もお休みですし。」


マスター「それなら…私の知り合いの所で臨時バイトしてみるってのはどうかしら?私が連絡を繋いでおくから。あの子、最近人手が足りなくなりつつあるってぼやいてたしね。明日出たらもちろん別の日に代休は入れておくわ。」


「やりますやります!!…でもなんの仕事なんですか??」



こてんと首を傾げる少女にマスターは少し微笑みながら答える。


「Maiden's Garden、素敵な花屋さんよ。」



to be continued…

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