『ライフで受けてライフで殴る』これぞ私の必勝法

ユキ。やらかす

「さてさて。そーいうことでやって参りましたS4エリア。

　先程までとは打って変わった一面の大草原。

　からっと晴れた空気は澄み渡っていて、気持ち良ささえ感じさせます」

『お、おう』

『せやな』

『急にどうしたw』

『奥に雲、見えない？』

「ぱっと見、エネミーの姿は見えません。

　回復アイテム無しで新エリアを突っ切るという、今世紀最大級の無謀に挑むユキ選手。

　その滑り出しとしては順調と言って差し支えないでしょう」

『いやだからどうした』

『流したｗ』

『自分で無謀言ったよこの娘』

『まあ実際そうだし』

「……という訳で、どんどん突き進むよ。今回の作戦は明快。敵がいようと、ただただ突っ切る！」

『実況終わるんかーい』

『脳筋で草』

『それを作戦とは言わないんやで』

「良いんだよ！　あ、でも強いていうなら、折角歩けるようになったし……[GAMAN]っと。

どうせ走り続けるにはスタミナ持たないし、なんなら走ったところで逃げきれるとも限らないからね」

『草』

『GAMAN使ってフィールド渡りきるつもりなのか……』

『ダメそうなら最後にぶちかます未来が見える』

『もはやテロじゃん』

「お、鋭い。コメントでも言ってくれた通り、ダメそうでも最後にドデカイのぶっぱなして散るからね。

　どうなるかは、お楽しみに！」

　勢いに困惑しているコメントを置き去りに、私はどんどんと歩き始める。

　この感じ、一番最初の時をちょっと思い出すね。

　ある程度進むと、目新しいシルエットが視界に収まる。

　全身緑色の小さめな身体にはボロボロの腰巻きしか付けておらず、装備もあれは……木?　 ともかく、貧弱そうだ。

　……いや、わたしの装備も大概だけどさ！

　◆◆◆◆◆◆◆◆

　名前:ゴブリン

　ＬＶ:5

　状態:平常

　◆◆◆◆◆◆◆◆

　おお、出た。ファンタジーの王道、ゴブリン。

　創作(フィクション)なら殆ど皆勤と言っても過言じゃないかというほどの知名度を誇る。

　種族や強さの扱いはまちまちであるけれど、インクリにおいては序盤に出てくるモブエネミー……という立ち位置かな。

　一体見つければ十体いるものと思え……という言葉もあるように、気付けば辺りには多くのゴブリンが徘徊していた。

　レベルは3～5とバラバラ……おや。ちょっと装備が違うのが混じってるね。

　◆◆◆◆◆◆◆◆

　名前:ゴブリンファイター

　ＬＶ:10

　状態:平常

　◆◆◆◆◆◆◆◆

　皮っぽい盾と石の剣を携えた、上位種っぽい存在。

　遠目に見えるアイツが、集団のリーダー格みたいな感じなのかな。

　なんかあれ、ふんぞり返ってない？　こっちに来る気配すらないんだけど。

「これ、もしかして賭けに勝っちゃった感じ？」

『ほう？』

『レベル下がったね』

『ワンチャンありそう』

　敵のレベルがもっと上がるかと思っていたところに起きた、真逆の現象。

　希望的観測をするならば、この先にそれなりの規模の街がある可能性が増えたと言って良いだろう。

　それならば、より脚も速まるといったものだ。

　こちらに気付き、わらわらと近寄ってくるゴブリンたちを完全に無視。

　一直線に南下する。

　グギャ、ギギャ、と鳴き声を発しながら距離を詰めて来るゴブリン。

　無視して歩く私と、走ってくる奴らと。どちらが速いかは言う必要ないだろう。

　そう。圧倒的に、後者である。

「っ…………絵面、最悪」

　あっという間に取り囲まれた。

　大した知恵は無いらしく、めいめいが手に持つ剣で攻撃してくる。

「ダメージ的には、問題ないね」

　威力は、私のHPからすると1%にも満たない程度。あまりにもダメージが相対的に見て小さいからか、ノックバックすら発生しない。

　チクチクと刺される感覚に近いか。

　良いぞ、これなら囲まれていても何とかなるかもしれない。

　四方八方から斬りかかられながらも、私は無視して歩みを進める。

　敢えて悠然とした佇まいを作り上げた。

「……退いて。あんたらなんて、壁にもならないんだから」

　堂々と、余裕ぶって。

　内心の辟易とした気持ちを押し隠して、不敵に笑ってやる。

　目の前のゴブリンが一瞬竦んだのを見て、ソイツを押し退けた。

　大丈夫。行ける。

　じわじわと減っていくHPを横目に確認しながら、ゴブリンの群れの中を突き進む。

　一体も倒していないせいなのか、はたまたフィールドに私しか居ないからなのか。

　気づけば、見るのも億劫になるほどの数になってきていた。

　いつの間にか分厚い雲が空を覆い、太陽を隠してしまっている。

「ひ、人混みの中、掻き分けて進まないといけない有名人って……こんな気持ちなのかな」

　辟易としすぎて、変な考えが浮かんできた。

　いや、バリッバリの殺意向けてくる時点で全然違ったか。酔いそう。

　どれくらい突き進んだだろう。ちょっとずつ、気が遠くなっていくのを感じる。

　残りHPは二割を切ったけれど、まだ途切れるようには見えない。

　後ろは、もう意識しないことにした。後からまとめてぶっ飛ばしてやるんだから。

「……流石に、無理か」

　残り一割を切った。これはもう、限界だろう。

　前方からの追加は鈍ってきた気がするけれど、これ以上を切り抜けるには体力が持たない。

　潮時だ。蹴散らしちゃおう。

　[解放]

　その瞬間だった。

　身体から薄い白色の霧のようなものが溢れ出し、団子のように押し寄せてきていたゴブリンたちが怯む。

　私は導かれるようにして振り向くと、地に片膝を付き、両の手を天に掲げた。

　迸る聖気が雲を貫き、天に昇る。

　カッ　と一瞬空が光った。

　バチバチと強烈な音を出しながら、白いイナズマが堕ちてくる。

　いままで見た何よりも強大な聖なる#雷__いかずち__#は、私の目の前に突き刺さると同時に周囲の音を奪った。

──ドゴゴゴーン！！

　耳をつんざくような雷鳴が、辺りに響き渡って。

　溢れかえるほどに蠢いていたゴブリンたちは、いまやもう一匹も残されていない。

「へへっ。ざまー、みろってんだ」

　流石に、ふらっと来るものを感じながら、立ち上がる。

　正真正銘、これで打ち止めな訳だが……最後にとんでもないモノを見せつけることが出来たし、充分じゃないだろうか。

　うんうん。私はやりきった。これで街に戻されるなら、それはそれで……

　そんな、ちょっとした感慨にふけろうとした私の想い。

　それは思いもよらぬものによって中断されることになる。

「失礼します。今のは、貴女様が？」

「え？ 　あ、はい？」

　唐突な、背後からの呼びかけ。

　反射的に答えながら振り返った私の思考は、思わず完全に止まってしまった。

　全身を蒼と白を貴重とした鎧に包んだ、いかにも高貴そうな騎士。

　青色の盾の中央には、黄色くシンボルのようなものが描かれている。

　◆◆◆◆◆◆◆◆

　名前:グレゴール

　職業:聖騎士

　ＬＶ:100

　◆◆◆◆◆◆◆◆

　……もしかして、やらかした？