初めての……!
それからというもの、私は有り余るHPを活かして、イノシシを乱獲した。
戦闘時間は二分そこらだし、あいつらやたら襲いかかってくるしで、かなりのハイペースで狩ることが出来る。楽しい。
あっという間にレベルは8。ステータスは勿論、VITに振った。
最大HPは2200と少し……もうこの辺りで怖いものなんて何も無いだろう。
それにしても、こんなに簡単に敵を倒せちゃって良いものなんだろうか。
HP特化とGAMANの組み合わせ……もしかしたら私、天才的な手法を編み出しちゃったかも!
調子よく進んでいくと、周囲の空気が微かに変わったように感じた。
なんとなく、キョロキョロと周りを見渡す。
「んー?」
『どうしたん』
『なんか見えた?』
「いや、えっと…………うまくいえないんだけど、なんか違和感があったような……気のせいかな?」
『違和感?』
『思念の変化でも感じたか』
『人類の革新じゃん』
「私は旧い人間さ…………うわちょっと待ってほんとになんか来た!?」
土煙を上げて、何かが一直線に突き進んでくる。
視界が悪くあまり分からないが、ワイルドボアと比べても一回り、二回りは大きい。
◆◆◆◆◆◆◆◆
名前;キングボア
LV:30
状態:憤怒
◆◆◆◆◆◆◆◆
「は……?」
『レベルwww』
『さwんwじwゅwうw』
『ご愁傷さま』
「いやいやいや待って!?どう考えてもおかしいでしょ!」
『めっちゃ怒っとる』
『よくも我が同胞をォ!』
『許さんぞォォ!!』
「洒落にならないからぁ!」
コメントに煽られている間に、キングボアとやらの全容が明らかになった。
ワイルドボアと比べても三回りは大きい巨体と、全身を鎧のように厚く覆う体毛。牙はマンモスのように強大で反り返っている。
勢いのまま突っ込んでくるかに思われたソイツは、私の数メートル先で足を止めた。
「Bmoooo!!」
「っ……!」
低く、巨大な唸り声が、空気を震わせる。
強烈な怒りの感情に射抜かれて、思わず身が竦んだ。
ズシン、ズシンと地面を震わせながら、キングボアがゆっくりと距離を詰めてくる。
回避……無理! 許される雰囲気じゃない!
「ええい、ままよっ!!」
覚悟を決めて、進路上に仁王立ちをする。
脚が震えている? んな訳あるか。ゲームだぞ、気のせいだ!
「『GAMAN』…………ぐうっ!?」
振り上げた鋭利な牙に、身体を引き裂かれる。
現実ならまず即死だろう。そんな強烈な一撃だった。
思わず身体がよろめく。HPは、一気に五割弱も削られていた。
続けざまに、今度は牙が横なぎに振るわれる。
ダメージが大き過ぎたからか、そのまま後ろにぶっ飛ばされてしまった。
身体中が軋むような感覚を覚えながらも、なんとか立ち上がる。
こんな所までリアルに寄せちゃうことないと思うんだけど……いや、今は、集中。
こちらの体力は一割を切っている。けど、それはすなわち。
「最大、火力だァ!『解放』」
全身を駆け巡る聖なる奔流が、かざした左手に集約し──放たれる。
私の背丈まで届くのではないかという程の、レーザー光線。
全てを消しさらんとする強烈な閃光が、キングボアを正面から呑みこんだ。
十数秒……いや、ほんの数秒だったのかもしれない。
力を使い果たし、ようやく光線が止まる。
一縷の望みを掛けた、正真正銘、全力の一撃。
倒しきれるとまでは思っていない。一矢報いてやろうと放ったそれは、果たして敵を倒すには至らなかった。
「Bmoooo!」
空気が、震える。
確かに、一矢は報えたのだろう。まだまだ健在といえど、その体力は確実に減っている。
実際かなり痛かったのか。向けられる思念に、先程までとは比較にならない程の怒りを感じた。
キングボアは、膝を突く私に向かってゆっくりとにじり寄ってくる。
彼我の距離は、1メートルも無くなった。
圧倒的なまでの存在を、せめてもの抵抗として睨み付ける。
巨大な脚が、振り上げられ。
「…………お前は、私が絶対に倒すから」
私の視界は黒く塗りつぶされた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「あーーー!!!!もう!!負けたんだけど!!!」
『お疲れ様』
『普通にナイスファイトだった』
『あれで諦めないの凄いよ』
視聴者さんたちが慰めてくれるが、私の心は晴れない。
いやまぁ、やれるだけはやったから後悔とかはないんだけども。
『そもそもサービス開始直後にフィールドボスと戦う時点でおかしい』
『さっきも話題にあがってたけど、フィールドボスって何?』
さっき……というのは、恐らく戦闘中のことだろう。
あの時は全くコメントを見る余裕なかったからね。
『このゲームにはいくつかボスエネミーにも種類があるらしいんだけど、現時点で確認されているのは2種。「フィールドボス」と、「エリアボス」』
『エリアボスは、各エリアの境界に立ち塞がる強敵のこと。初めの街から東西南北それぞれの方向にまっすぐ進んだ先の第二エリアから登場する。そいつを倒さないとその先にはいけない』
『フィールドボスは、それぞれ多様な条件を充たすことで出現すると言われている。大抵、そのエリアの適性レベルからは逸脱している。同種のモンスターを狩り続けるとか、指定の時間に指定の場所に居続けるとか。条件は色々と検証中らしい』
『解説ニキありがとう』
『流石にタイピング早くない?』
『フッ。これがジェットストリームKAISETSUよ』
『triple_kaisetsuでも可』
「三人がかりだったんかい!」
ふふっ……思わず笑ってしまった。
ありがたいなぁ。コメントのお陰で、笑顔が消えることがない。
「でも、あれかなぁ。今の話からすると……猪さん狩りすぎた、とか?」
『せやね』
『短時間での猪討伐回数とソロ探索であることくらいかなぁ』
『あのレベルからするとフィールドボス確定だろうしね』
「ねー。流石に、さんじゅう……!?ってなったよー」
『レベル30のボスにソロで挑むレベル8』
『忘れてないか?これまだサービス開始して数時間なんだぜ……?』
『因みに初配信を開始してからも数時間なんだぜ?』
『マ?』
『嘘やん』
あ、ふと気づいたけれど、これ配信開始と比べて視聴者さんかなり増えてるんだ。
「えへへー。いつの間にか視聴者さん結構増えてくれてたみたいだから、改めて自己紹介するね。
今日から配信始めました、ユキです。ゲーム全然なれてなくて変なことするかもだけど、温かく見守ってくれると嬉しい」
『初配信とは思えんかった』
『ゲーム慣れしてない奴のビルドじゃない件について』
『極振りなんで玄人でも早々やらんぞ』
『むしろ初心者だからこそできるぶっ飛んだ構成がワイは好き』
『わかる』
『そもそもタイトルどういう意味なん?』
「いやー……プレイヤースキルってやつに自信なかったからさ。攻撃も防御も技術に左右されそうだけど、体力高くしまくって全部受けちゃえば関係なくできそうじゃん?」
『発想が草』
『それで通じちゃったのがもはやバグ』
『通じるどころか最前線なんだよなぁ』
『運営も大喜びだろ』
『初日から遺産が活用されてるもんな』
『これは徹底マーク不可避』
「あははー。まぁでも、配信のネタとしては事欠かなかった気がするよ」
『それはそうね』
『同接かなり増えたもんな』
『今後にも期待だわ』
「えへへ。よかったら登録もしてってね。これからしばらくは頻繁に配信すると思う」
『おけ』
『登録した』
『もうとっくに登録済みなんだよなぁ』
『同じく』
「ありがとう! それじゃあ、今日はここまでにするよ。夜は友達と遊ぶ予定なんだ。
と言っても、このゲーム内だけどさ」
『おつ』
『配信はしないん?』
「んー。どうだろう。友達が配信すると思うからそれで充分かなぁって」
『それも見たいな』
『なんなら同時配信でもええんやで』
『友達も配信者なんや』
『↑配信者なんてレベルやないんやで』
『どういうこと?』
「えっとね、カナちゃんねる ってところで配信してると思う」
『は?』
『超大手で草』
『そういうことです』
『あのカナの「友達」って聞いた瞬間に色々納得してしまった』
『脳筋の友達は脳筋』
一気に加速するコメントを見ていると、奏の凄さというか、人気がわかるね。
思わず口元を緩ませていると、ポーン、と軽快な音が鳴った。
新規メッセージ……奏からだ。用事が終わったらしい。
「あ、ちょうど今むこうも準備できたらしいから、終わるね。こっちでも配信するかどうかは後で考えるよ」
『了解』
『おつ』
『おつ』
『楽しかったよ』
『乙』
「私も視聴者さん達のおかげで楽しかったー。 ありがとうございました!!」
配信を終了したのを確認して、一旦ログアウト。
ささっと晩御飯を食べて、奏と合流しなくちゃね!
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