第79話

婚約披露パーティーには学園のほとんどの貴族の子息子女が参加していた為、パーティー後の学園では俺たちは登校した時から注目の的になっていた。


俺とエリーを好意的に見る生徒が増えているなか、まだ不服そうな目を向ける者もいるが特に何事もなく夏季休暇に入った。







夏季休暇に入ってから、今度は王妃教育だと母上がエリーを毎日呼び出し始めた。


俺には分かっている。

母上は可愛いエリーをそばに置きたいだけだ。


それでも母上の執務室で山のように積み上げられた書類をエリーが手伝うようになってから、母上の執務が随分早く捌けるようになったようだ。


その余裕のできた時間でエリーとレイとお茶をしている。


休暇に入ってガルが騎士団の鍛練に参加するようになってからアランとレイが俺の執務を手伝うようになった。


この2人が優秀過ぎた。


卒業後立太子する俺の執務は格段に増えた。

俺の書類を捌くペースについてこれるし、レイのまとめた資料は、誰が見ても分かりやすく説明まで入っている。


ガルが鍛練を終えて執務室に顔を出すと、今度はレイが王妃の執務室に向かって手伝っているようだが大抵は母上とエリーで終わらせている。

それでお茶になるようだ。


その頃になるとゾルティー達も執務を終えて、何故か俺の執務室に集まることが日課になっている。


俺は一刻も早くエリーに会いに行きたいのだが、コイツらが邪魔をする。

執務を終えても俺の教育が始まるんだ。


ガル以外はまだ経験が無いことは分かっているのだが、意外なことにグレイとザックが女の本性を熱弁する姿はまるで何人もの女と経験があるような説得力があった。


詳しく聞くと、これも偶然だが2人とも姉が2人に妹が1人いるそうだ。

女に上下に挟まれ幼い頃から理不尽な目に遭ってきたと「「女は演技する生き物だ!」」「「外では上手く仮面を被っているが中身は悪魔だ!」」とまで断言する2人は余程辛い目にあってきたのだろう。


「「気を許せるような女性はエリー嬢とレイ嬢しか知りません!」」


「エリーとレイだって家でもあんな感じだけど外では淑女の仮面を被っているよ」


「「私たちの言っている仮面はエリー嬢とレイ嬢の仮面ではありません!」」


そこからもグレイとザックの女の本性講座を熱く語られた。


「「私たちは令嬢たちの本性を見抜ける自信があります!」」


グレイもザックも侯爵家の嫡男で顔も整っているし、長身で文武両道、頭脳明晰なのだからモテてはいる。

だが女に囲まれても顔色一つ変えないのも本性が見えているからだったのか。


なるほど、話をまとめるとやはり俺のエリーは完璧だってことだ。


これだけの自信があるんだ。

ゾルティーが変な女に引っ掛かりそうになってもコイツらがいれば安心だな。





執務の合間にエリーと庭園を散歩したり、休みには離宮へピクニックに行ったりと過ごす間に2ヶ月もあった夏季休暇も終わり、明日からは学園が始まる。







婚約してからは登下校も王家の馬車で登下校する。

護衛に囲まれた王家の馬車を襲撃しようとする者など中々いないだろう。


学園内でも婚約者になったエリーには影とは別で護衛がつくようになる。


だからといって安心はできない。


婚姻までの残り半年ほどの学生でいられる時間を憂うことなく過ごさせてやりたい。





午前で終わる今日はガル、グレイ、ザックの執拗い催促によりウォルシュ家で2回目のバーベキューだ。


2回目となると、慣れたもので準備さえ整えば次々と自分で焼いては食べるを繰り返すコイツらは呆れるほど図々しい。


最近では実力を隠さなくなったレイはウォルシュ侯爵家内で鍛練をしているそうだ。


今日は小柄で華奢なレイが何かしらの技術がある事には気付いていたアイツらも一緒に、食後の運動だと軽く体を動かしだした。

レイの小さな身体を活かしたスピードのある体術には驚き絶賛していた。


珍しく調子に乗ったレイが『おーほほほほ、これからはワタクシを姉御と呼びなさい!』

の言葉に目をキラキラ輝かせるエリーと、頭を抱えるアラン、爆笑するゾルティー、何故か"姉御"呼びに喜ぶ3人・・・。

さすがに"姉御"呼びはアランが止めたがな。




そして今日から通常通りの学園生活が始まる。


今日もいつものテラスで、いつものメンバーでランチタイムだ。


ムードメーカー的なグレイとザックがいるせいか、静かなランチになる事がない。


「ねえ、さっきからチラチラとこっちを見ているあの子なんだけど、誰か知っている?」


レイが指す方向を見ると、確かに離れた場所に女が1人でウロウロしているが・・・護衛が入るほど近くにいる訳では無いな。


「「あれは声をかけて欲しいという、あざといアピールです」」


グレイとザックの顔から笑顔が消えた。


「やっぱりね」


「僕もそうだと思うよ」


グレイとザックはともかく、レイとアランまで言うならそうなのだろう。


「さあ、見なかったことにして食事を続けましょう」


「「それが正解です」」




その日からだ、あの女が俺たちの周りをウロチョロするようになったのは・・・





既に女の素性も目的も調べ済みだ。

まさか、妹の方が出てくるとはな。


ついでに姉の方も調べたが派閥は勝手に作られ、祭り上げられていた事が分かった。

噂とは違い姉の方は何もしていなかった。


それどころか・・・ライベルン侯爵ねぇ・・・



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