第77話

侍女からエリーは既にパーティー会場である大広間の控え室で待機していると伝えられた。


ウォルシュ侯爵がエリーをエスコートして連れて行ったと告げられ少し残念な気持ちになるが、さっき学習ばかりだ失言は出来ない。


控え室のドアを軽くノックすると、「どうぞ」とエリーの声が聞こえた。


婚約式の時と同じ白いドレスだが、フワリと広がるスカート部分には俺の瞳と同じ金色で刺繍が施されている。エリーは妖精だったのか?女神だと思っていたが今のエリーの姿は妖精だ。


真っ直ぐエリーの元へ行き膝まづき手を握った。


「綺麗だエリー今すぐ結婚しよう」


「「「「「「・・・・・・・」」」」」」


目がエリーから離せない。

真っ赤になったエリーが可愛い。


「あ、に、う、え?」


ゾルティーもこの部屋にいたようだ。


「俺の正直な気持ちだ」


真っ直ぐエリーの目を見ながら伝える。


「だから!エリー嬢の前だけで言ってくださいと言いましたよね?」


部屋を見渡すといつものメンバーに、ウォルシュ侯爵夫妻、旧侯爵夫妻、それに父上と母上までがいた。


お、俺はまたやってしまったのか?


恐る恐るエリーを見上げると目に涙を浮かべている。

泣かせるつもりはなかったんだ!


「すまない!本当に悪かった!エリー泣かないでくれ」


「ルフィ・・・私、嬉しくて・・・」


エリー俺の気持ちが分かってくれたのだな。


「でも、皆んなが見ている前で恥ずかしすぎるでしょ!」


『ゴツッ』


痛い!

握ってない方の手で拳骨を落とされた。


「まあ!昔の王妃様を見ているようだわ!」


「本当ね!わたくしも何度陛下に拳骨を落したことか!ね、あなた?」


「皆の前で言わないでくれ!威厳が無くなるだろ」


「も、申し訳ございません」


「エリーちゃんいいのよ。陛下も同じような場所で、同じセリフで同じ事したのよ」


「血は争えませんな、20年前を思い出しましたよ」


「兄上、明日も学習時間を設けますからね」


なんでだよ!


「そうね。わたしも付き合うわエリーの為にね」


「じゃあ僕もレイに付き合うよ」


「「仕方ないですね。私も付き合いますよ」」


「俺も面白いから付き合うぜ」


「兄上逃がしませんからね」


エリーに助けを求めても無駄だと目を見ただけで分かった。


父上だけが俺に同情の目を向けてくれるが、助けてはくれないようだ。




「皆さんそろそろ大広間に行きましょうか?」


ウォルシュ夫人がこの雰囲気を変えてくれそうだ。


「エリー会場で待っているわ」レイの言葉で俺とエリーを残して皆んな部屋から退室していった。



まだ俺は膝まづいたままだ。


そっとエリーを見上げると、困った顔なのだが微笑んでいた。


「もうダメよ?嬉しかったのは本当だけど、これからは2人きりの時に言ってね・・・皆んなの前だと慣れてないから恥ずかしいの」


「怒ってないのか?」


「ふふふ、ルフィ大好きよ」


そう言って俺の髪にキスしてくれた。


「口紅が取れちゃうからこれ以上はダメよ?」


「ならパーティーが終わったらいいのか?俺はエリーを抱きしめたいしキスしたい!」


「そうね私もルフィに・・・キスしたいわ」


エリーが俺の手を引いて立たせてくれる。


「それでお願いがあるのだが」


「ん?私に出来ることならいいよ」


「エリーにしか出来ない」


「なに?」


「消えてしまったんだ。だ、だから・・・し、印をまたつけて欲しいんだ。」


「・・・いいわよ?キスマークね」


「キスマークとは印のことか?」


「そうよ。前世ではそう呼ばれていたの」


そうか、キスマークか。

いいなその響き。


「俺もエリーにそのキスマークを付けたいのだがダメか?」


「・・・ルフィ?そんな可愛い顔で他の人にはお願いしちゃダメよ?」


可愛いだと?どんな顔だ?


「しない!エリー以外にキスマークを付けて欲しいとも、付けたいと思うのもエリーだけだ」


「なら2人きりになった時にね」


エリーが笑ってくれる。

抱きしめようとした俺に「学習したのよね?」エリーのいつもよりも低い声に我に返った。


危ない!無意識って怖いな。


「だ、大丈夫だ!覚えている!」


「それならいいのよ」


顔は似ていないが今のエリーの笑顔とアランの笑顔が似ている。

この笑顔はダメなやつだ。

気を付けないとまたやらかしてしまう。






「ルフラン殿下、ウォルシュ侯爵令嬢お時間です。皆様揃われました」


「よし行こうエリー」


「ええ」


エリーをエスコートして会場に向かう。




「エリー緊張しているか?」


「ええ、でもルフィの婚約者は私だと、私のものだと認めさせるわ」


顔を引き締め背筋を伸ばし凛としたエリーは美しい。



『第一王子ルフラン殿下、婚約者エリザベート・ウォルシュ侯爵令嬢のご登場です』


俺たちの登場に一瞬静まり返った後に、盛大な拍手で迎えられた。


陛下と王妃の前に行き2人で礼をしてから隣に並ぶ。


「今日は我が息子ルフランとウォルシュ侯爵家エリザベート嬢との婚約パーティーによく来てくれた。まだ未熟な2人だが長い目で見守ってやって欲しい」


父上が俺たちを紹介した後はダンスだ。


ホールの真ん中までエリーをエスコートする。

エリーと踊るのは初めてだ。


音楽に合わせてステップを踏む。


ああエリーを見せびらかしたい。

この綺麗で可愛いエリーは俺のものだ。


すごく踊りやすい。

ダンスが楽しい。


「エリー愛している」


「私もルフィを愛してるわ」


エリーが笑顔になると、会場中がどよめく。


王家の認めた婚約者だ。

お披露目までしたんだ。

馬鹿じゃなきゃ手は出さない。


これからエリーに危害を加える奴には、それなりの処分が下される。

今もこの会場には目を光らせた影が何人も潜んでいる。





ああもう曲が終わる。


「エリー俺を選んでくれて本当にありがとう。生涯俺はエリーだけを愛すると誓う」


俺を見上げて涙ぐむエリーの額にキスを落とす。


「また皆の前で・・でも今は許すわ」


このままエリーを腕の中に閉じ込めてしまいたい。


それにしても騒がしい会場だな。


この後は面倒だが挨拶にくる貴族の相手だ。

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