第44話
最近ちっともガルザークが抱いてくれない。
それどころか、私が話しかけてあげても喜ぶ素振りすら見せない。
夏季休暇中に会いに来てくれなかったから少しの間、体を許さないつもりだったけれど、ガルザークの乱暴なセックスが忘れられなくて、私から誘っても『鍛錬に忙しい』と言って何度も断られた。
休暇前まではいつも側にいてくれたのに、今はランチさえ一緒に取ってくれなくなった。
やっぱり休暇中に他に女が出来たのね。
だから、私に会いに来なかったんだわ。
それしか考えられない。
でもおかしいわね、攻略対象者全員がエンディングではヒロインの側にいたはずなのに、今の私の側には攻略対象者が一人もいない。
まだゲームが始まったばかりだからかな?
そうよね!
だって最初から全員が私に夢中になるとゲームとして面白くないもの。長いゲーム期間のことを考えると早すぎるよね。
あれ?よく考えたら私誰のイベントもやってなくない?
イベントこなす前にガルザークやレックスと寝ちゃったよ。
だから、上手くいかないんじゃないの?
悪役令嬢のエリザベートがいないせいもあるよね?
ルフランの婚約者候補なのにどこに隠れているのよ!
ゲームで顔も出ないモブの悪役令嬢のクセに!
ヒロインの私のために早く出てきて私をイジメなさいよ!
エリザベートが仕事しないからイチ推しのルフランは怖いし、素敵なアランはいないし、レックスは照れて私を避けているし、ガルザークは他の女と浮気するのよ!
誰がどのイベントだったかルフラン以外自信ないのよね。
今更だけど、レックスは攻略出来ているはずだし、どうせガルザークは浮気相手に満足出来なくて私の元に帰ってくるわ。
問題はルフランよ。
悪役令嬢がいないと攻略出来ないんじゃないかしら?
廊下を歩いている姿を見たけれど、やっぱりガルザークやレックスと比べてもルフランがずば抜けてイケメンなのよね。
ルフランを諦めるのは勿体なさすぎる。
とりあえず今のルフランには怖くて近づくのは無理だから、アランが登場するまで待つわ。アランが出てくれば双子のエリザベートも出てくるだろうし、それまでは狙うのは無理ね。
ギリギリまで待って、それでも登場しなかったら予定通りアルマに悪役令嬢になってもらうわ。
悪役令嬢に虐められる私を見たら、ルフランがカッコよく守ってくれるはずよ。
そこでゲーム通りのヒロインを演じればいいんだわ。
ふふふ、ルフランだって私にメロメロになるのよ。
ルフランは必ずヒロインの私のことを好きになることは決まっているもの。
とりあえず今はガルザークが忙しくてヤレないのなら、代わりの誰かを私好みに調教するのもいいかもね。
暇潰しにもなるし、Sっ気のある人を見つけられるかもしれないもの。
忙しくなるわ。
~ガルザーク視点~
夏季休暇に入ってから今日までマイを一度も抱くことはなかった。
鍛錬で毎日汗を流すことで俺の欲求不満も解消されているのか、マイとの穢れた日々を思い出しても抱きたいとは思わなかった。
学園が始まるなり俺を見つけると猫なで声で誘って来るが、冷静になった今ではそんなマイを見ても抱きたいとは思わない。
最初は可愛いと思っていた仕草だったのに本性を知ってしまえば甘えた声も、目を潤ませた上目遣いも今の俺にはわざとらく感じる。
実際、可愛く見えるように演じているのだろう。
腕を絡めて誘ってくるのも、ただヤリたいだけなんだろう。
結局マイは相手をしてくれるなら誰でもいいんだ。
俺が相手をしなくなっても、毎日日替わりで男と関係していると聞く。
15歳で男無しではいられないマイが気持ち悪い。
転移してくる前にどんな生活をしていたら、あんな女になってしまうのか想像もつかない。
そんな女を毎日のように抱いていた俺のことを、ウォルシュ嬢には知られたくない。
今更だが自分の軽はずみな行いが恥ずかしい。
あの時の俺は快楽を覚えたばかりで、溜まった性欲をぶつけているだけだった。
マイの本性など見えていなかった。
いや、たとえ見えていたとしてもバカな俺は同じ事をしていただろう。
清廉な彼女に知られたら軽蔑されることは目に見えてる。
こんな俺はウォルシュ嬢に相応しくないことはもう分かっている。
でも次に彼女に会えた時には堂々と胸を張って会いたいんだ。
我儘は言わない。
一度だけでいいから俺に微笑んで欲しいんだ。
そしたらキッパリと諦めるから・・・
最近の俺はルフラン殿下の側にいることが多くなった。
ルフラン殿下にはまだ側近候補すらいない。
別に側近の地位を狙っている訳でもないが、表情がないにも関わらず以前よりも目つきが鋭くなった理由が気になっているからだ。
側にいて何か話すわけでもない。
ただ俺が側にいても拒絶されることがないだけだ。
何も言われないから盾の役目を俺が勝手にしているだけ。
側にいて見えてくるのは令嬢たちの殿下を見る目だ。
端正な顔のルフラン殿下に憧れているだけならいい。
でもそんな可愛い目なんかじゃない。
少し離れたところからルフラン殿下を見つめているが、その目はマイが新しい男を狙っている時の目と同じだ。
確かにルフラン殿下には婚約者候補すらいない。
彼の婚約者イコール次期王妃だ。
まだ、高位貴族の令嬢なら可能性はあるだろう。
だが下位貴族の令嬢までが殿下を射止めようと、マイのような手を使ってくる。
そんな手に引っ掛かるような男だと思っているのだろうか。
小説の読み過ぎだ。
マイを睨んでいた目を忘れたのか、その場に居なかったのか分からないが、身の程知らずにも程がある。
そんな女が目の前で転ぼうが、ぶつかってこようとしようが殿下は目に止めることも無く立ち去る。
最近ではルフラン殿下の婚約者候補に成りうる令嬢に派閥が出来てきた。
筆頭はアルマ・セルティ公爵令嬢と、リーゼ・ライベルン侯爵令嬢だ。
他にも何人かいるが、この二人の派閥が学園内で勢力を伸ばしている。
確かにセルティ嬢とライベルン嬢の二人は見目もよく優秀だと聞いている。
だが、王家からの打診があった訳でもないのにその気になっている二人は余程自分に自信があるのだろう。
特にライベルン嬢は積極的だ。
つい最近もルフラン殿下に腕を絡めようとしたが『俺に触れることは許さない』と睨まれ拒絶されたにも関わらず、殿下に触れようとする。何度俺が阻止してきたことか・・・
セルティ嬢はその様子を高位貴族の令嬢らしく微笑んで見ているが目が笑っていない。
まだ行動を起こしていないだけで、彼女の方が油断出来ない気がする。
いつかルフラン殿下の笑顔を取り戻せるような令嬢が現れるまでは、俺なりに殿下の盾になろうと勝手に思っている。
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