第40話
ウォルシュ侯爵家で過ごす楽しい日々も終わり、これから5日をかけてアトラニア王国に戻るのだ。
今回はレイもいたから、何時もよりも賑やかだったからか特にレイを気に入ったお祖母様は寂しそうにしている。
「お祖母様、次の休暇もレイと一緒に帰ってきますよ」
アランがそっとお祖母様を抱きしめると横からレイも「また会いに来ます。それに3年後には嫁いできますのでよろしくお願いしますね」
もうレイったら可愛いこと言うんだから!
「そうよね!レイちゃんがお嫁に来るのよね。じゃあそれまでにレイちゃんの喜ぶプランをお爺様と考えておくわね」
お祖母様・・・まあお祖母様の笑顔が見れたからいいか。
「お爺様もそれまで元気でお過ごし下さい」
私もお爺様に抱きつく。
「エリー、ちゃんとアランとレイちゃんの言うことを聞くんだぞ」
ん?増えてる・・・
「「お任せ下さい。お爺様」」
なんで2人とも揃って返事しているの?
私、2人のお姉ちゃんだよ?
納得いかないまま、馬車に乗り込んだ。
目の前にはイチャつくアランとレイ。
普通に私とも話してくれるわよ?
ただ2人の距離が近過ぎて、どこを見て話せばいいのか分からないのよ!
そうそう、アランとレイの婚約はうちの両親が夏季休暇が終わる頃に、ビジョップ侯爵家にご挨拶に伺って婚約を結ぶのですって。
休暇明けには2人は婚約者になっているのね。
ずっと2人を見てきたから感慨深いものがあるわね。
学院も騒ぎになるでしょうね。
婚約破棄になったばかりのレイと、たぶん今の学院で一番人気のアランの婚約だもんね。
隙あらばと狙っていた子息子女も残念がるでしょうね。
退学になったミーシャ嬢のことも気になるわね。
なんで私を陥れようとしたのか分からないもの。
私は王子の婚約者でもないし、話したこともなかったのにね。
もし会うことがあれば聞いてみたいわ。
~レックス視点~
父上に『もうウォルシュ嬢のことは諦めろ。我が公爵家といえどもウォルシュ侯爵家に無理強いする事は出来ないんだ。あの家を怒らせるな』
確かにウォルシュ侯爵家はウインティア王国だけでなく、海外でも成功を収めている大商会を経営しながら、領地も潤わせている。
国に収めている税金だけでも、その辺の貴族の収入よりも遥かに多いだろう。
それでも『怒らせるな』なんて訳が分からない。
だからといって、彼女を諦めるなんて出来ない。
あのキラキラと輝く薄い紫がかった銀髪、神秘的な紫色の目、冷たく見える顔は真っ白でピンク色をした小さめの口、女性の中では長身で長い手足、背筋の伸びた姿勢。
気品漂う佇まい。
どこを取っても完璧な女性だ。
そして、彼女のあの微笑み。
見惚れない男はいないだろう。
彼女は誰よりも美しい。
お茶会でも彼女に見惚れていたのは子息達だけではなかった。
常に自意識過剰の令嬢達ですら彼女に見惚れていた。
それだけ視線を集めていたのに彼女は気付いていないのか、それとも慣れているのかは分からないが、会場にいる誰よりも注目を集めていた。
誰の目にも彼女を映したくない。
彼女を攫って閉じ込めてしまおうか・・・
そして、私だけのものに・・・
ダメだ!それは犯罪だ。
こんな事考えたこともなかったのに、彼女に会ってから私の思考はおかしくなってしまったのだろうか?
もう彼女のことしか考えられない。
~ガルザーク視点~
何度訪問してもウォルシュ嬢に会わせて貰えない。
ウォルシュ侯爵家から出てくる使用人に彼女のことを聞いても教えてくれない。
金を渡そうとしても受け取らず口を割ろうともしなかった。
他の貴族の使用人の中には金さえ払えば何でも話す使用人はいくらでもいるのに、ウォルシュ侯爵家の使用人にそんな主人を裏切るようなことをする人間はいないようだ。
俺は将来、父の跡を継いでタイロン伯爵家の当主になるが、騎士団団長にもなる予定だ。
その為に鍛錬だけは怠ったことはない。
そんな俺に色目を使い、媚びてくる令嬢もたくさんいる。
貴族の令嬢に手を出して、面倒なことになるのが嫌で興味はあったがキス程度で我慢していた。
そんな時に『マイ』が現れたんだ。
黒髪に黒い目、小柄だが胸が大きくまずそこが気に入った。
顔もまぁ可愛いほうだろう。
最初は『マイ』から声をかけられた。
記憶喪失で不安だと言って俺の袖を掴んで上目遣いで見てきた。
俺だって教育は受けている。
上目遣いを使ってくる令嬢も何人も見てきた。
ただ、記憶喪失は確かに不安だろうなと思って相手をしてやるうちに、身体の関係を持つようになった。
最初は初めてなのと言っていたが、その最中に「こんなに大きいのも激しいのも初めて~」と乱れる『マイ』を見て幻滅した。
何が初めてだと?
だったら俺の欲求を思う存分ぶつけさせてもらおうと、その日から何度も『マイ』を抱いた。
どんなに乱暴に抱いても『マイ』は喜ぶ。
あいつは激しいのが好きみたいだ。
それに『マイ』を抱いた子息も俺が知っているだけで10人は軽く超えている。
ほとんどの男に初めてだと言っているようだが、抱いた男たちの内何人かには嘘だとバレている。
バカな『マイ』はバレているとも知らず演技を続けているようだ。
今では誰とでも寝る『マイ』の噂が子息たちの間で広まり、経験を済ませたい男や、欲求不満の男だけが『マイ』に侍っている。
初めてだと信じている素直な奴は『マイ』が他の男と寝ていることに気付いていないバカか本気で『マイ』のことが好きな男のようだ。
『マイ』のような女を抱いても身体は満足出来ても心はいつも虚しかった。
ウォルシュ嬢のような気高く、気品に溢れる美しい女性を手に入れたい。
あの微笑みを俺だけに向けて欲しい。
彼女のことを考えると、心臓が煩くなる。
それからも俺は学園が始まるまで毎日ウォルシュ侯爵家に訪問したが結局会わせてもらえることはなかった。
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