第38話

朝食を済ませるなり、メイド達に浴室に連れ込まれピカピカに磨かれ、化粧を施され、髪を結われ、ドレスを着せられている。


そう、今日はお母様が言っていたお茶会に私も参加するのだ。

最初はお母様とアランとレイだけで行く予定だったのだが、お母様の「エリーも一緒がいいの~」と泣き落としに負け私まで参加する事になったのだ。


アランとレイは誰が見ても分かるお揃いの色を合わせている。

レイの髪色の青を使ったドレスに、アランの髪色を使ったほんのり紫色が入った銀色の刺繍がとても似合っている。


アランの礼装も同じ色で作った物だ。


もう本当に2人はお似合いで両親も祖父母までがメイド達と一緒に絶賛している。


私だって負けていない。

でも胸元に集中しているレースが、まるで貧乳を隠しているかの様に見えるのは私の気のせいだろうか?

このドレス、お母様がデザイナーと何度も相談して作ったものよね。


お母様は「3人を自慢してくるわ~」と見送りにきた使用人たちに宣言して馬車に乗り込んだ。


「お母様、落ち着いて下さいね」


「だって~アランとエリーとお茶会に参加するなんて初めてなのよ。それにこんなに可愛いレイチェルちゃんがお嫁に来てくれるのよ、自慢するのは当たり前よ~」


当たり前なんだ・・・


そうね、目立つのは嫌だけどこれも親孝行だと思って受け入れましょう。ヤレヤレ。


「まだ言っていなかったわね。今日参加するお茶会はイエガー公爵家からご招待をされたのよ」


なんだかレイの顔が強ばったような気がするのだけど・・・まさか攻略対象の家だとか?


「あなた達より3歳年上のキャスリーン嬢と同じ歳のレックス子息がいるのよ。なかよくなれればいいわね」


レイを見ると小さく頷いた。


ギャーっマジ?

どうするのよ!


ん?ちょっと待てよ?

たとえ攻略対象者だとしても私関係ないよね?


通っている学院も違うし、私は公爵家に養子に入るし、ここで知り合いになっても関わることないよね?


じゃあ気にしなくていいじゃん!


お母様がアランとレイを自慢している間は、隅っこでお茶を堪能して待てばいいだけじゃん!


何でアランもレイも残念な子を見るような目で見るの?


大丈夫よ!

目立たないように空気になるのは得意よ!

パチパチとアイコンタクトを送っておく。


2人同時に溜め息・・・なんでだ?


通された庭園はさすが公爵家と言えよう。

カトルズ公爵家にも劣らない見事な庭園だった。


招待客もたくさん来ている。


お母様が挨拶をすると、皆んなの視線が私たちに集中した。

確かにお母様は目立つのよね~凄い美人だもの。

それにイケメンのアランと可愛いレイが並んでいるから見惚れるのも仕方ないよね。


私もいるけど存在感ないのわかっているよ。


イエガー公爵夫人に私たちも挨拶をした後、お母様がアランとレイを紹介する為に連れて挨拶している間、私は端のテーブルでお茶をする事にした。


ん~お茶もお菓子も美味しい~。


「えっと、あの~ご令嬢、席をご一緒してもよろしいですか」


なんだ?水色の髪に黄色い目の男の人が話しかけてきたようだけど誰だ?


「失礼ですがどなたでしょうか?」


「こ、これは失礼しました。レックス・イエガー。イエガー公爵家の嫡男です。どうぞお見知り置きを」


おーさすが攻略対象者だ。

アランには劣るがかなりのイケメンだ。

宰相の息子か、確かに賢そうね。


「エリザベート・ウォルシュと申しますわ。ウォルシュ侯爵家の嫡女です。よろしくお願い致します」


カーテシーで挨拶した後にっこりと微笑んで見せる。

もう、攻略対象者なんて怖くないもんね~


ん?フリーズ?

忘れてた!私怖顔だったわ!


「あの~どうかなさいましたか?」


分かんないから首も傾げてしまう。


熱でも出たのか?赤いよ。


「し、失礼しました。」


やっと動きだしたよ。

で、同じ席に座って何がしたいの?

話すことなんてないからじっと彼の言葉を待つ事にした。


「あ、あのウォルシュ侯爵令嬢は学園で見かけたことがないと思うのですが・・・」


「そうですわね。私はアトラニア王国の学院に留学していますの」


「そ、そうなんですね」


なんかモジモジして男らしくないわね。

攻略対象者で宰相の息子って、切れ者だったイメージだけれど全然違うのね。

なんか頼りなさそう・・・

それでも笑顔は崩さないわよ。


「レックス誰と話しているんだ?」


横から緑色の髪に赤い目の体格のいい男がイエガー公爵子息に話しかけてきた。

その男も私を見てフリーズする~

なんなの感じ悪いわね。

貴族なら怖顔見たぐらいで固まるなよ!


「エリザベート・ウォルシュと申しますわ。ウォルシュ侯爵家の嫡女です。よろしくお願い致します」


イエガー公爵子息の時と同じ挨拶をすると、「お、俺、いえ私はタイロン伯爵家のガルザークだ、いえ、です。ガルザークと呼んでくれじゃなく、呼んで欲しい」


二度と会うこともないだろうから、微笑んでスルーしとく。


そこへお母様から呼び出しがかかる。

やっぱり私も皆様に紹介されるのね。


「母が呼んでおりますので失礼致します」


笑顔で礼をして席を立った。


なんか呼び止められた気もするが、聞こえなかった振りしてお母様のところに行った。


そこにはアランとレイもいたが、かなり目立っている。


令嬢たちはアランに見惚れているし、子息たちは頬を染めてレイをちらちら見ている。


お母様!こんな所に私を呼ばないでよ!

どこかから溜め息が聞こえたよ?

呆れられているの?

私この場に相応しくないんじゃないの?


とりあえず、笑顔は崩さないように気をつけないとね。


その後もテンション高めのお母様に連れ回され終わった頃にはお母様以外クタクタになっていた。


次があれば何かしらの理由をつけて逃げよう。





~レックス視点~


ウォルシュ侯爵家の夫人が会場に入ってくるなり賑やかだったその場が静まり返った。

何となく視線を向けるとアラン殿と可愛らしい令嬢がいた。色を合わせているところを見ると婚約者だろう。


その後ろには幼い頃に見た天使がいた。

昔、王宮のお茶会で王子から出入り禁止を言い渡されたウォルシュ侯爵令嬢だとすぐに分かった。


あの頃から綺麗だと思っていたが、数年見ない間に目を逸らせれないほど美しく成長していた。


ずっと目で追いかけて彼女が1人でテーブルに座ったところで思い切って声をかけてみた。

昔も何度か声をかけたことがあるのに、私のことは覚えていないようだった。


あの頃アラン殿に向けていた天使の微笑みは、女神の微笑みに昇格していた。


その微笑みを見た瞬間脳裏に過ぎったのは彼女が欲しい。彼女を私だけのものにしたい!だった。


せっかく同じテーブルに座れたのに、少し話したところでガルザークの奴が邪魔をしに来てしまった。


いつも堂々としているガルザークが彼女を見るなり目を見開いて固まった。

自己紹介ですらまともに出来ていない。

彼女の笑顔に見惚れてしまうのは分かるが、お前には『マイ』がいるだろう?


欲求を満たす為だけに、『マイ』を側に置いているお前にはウォルシュ嬢は相応しくないよ。

残念だが諦めろ。

彼女は私のモノだ。



父上に頼んでウォルシュ侯爵家に婚約の申し込みをお願いしよう。





~ガルザーク視点~


エリザベート・ウォルシュ侯爵令嬢

あんな綺麗な女性を見たのは初めてだ。


彼女の微笑みを見た瞬間、体に電流が流れたような錯覚がした。


俺が女を前にして緊張するなんて今まで有り得なかった。

自己紹介だけで何も話せなかった。


レックスに何を話していたか聞いても教えてくれなかった。

レックスもウォルシュ嬢が気に入ったのだろう。


気高く清廉な彼女の立ち去る後ろ姿さえ気品に溢れていた。


彼女の前では『マイ』なんか足元にも及ばない。

あんな誰とでも寝るような女は俺には相応しくない。

どんなに行為の最中に乱暴にしても喜ぶ『マイ』は俺にとって都合のいいだけの存在だ。


ウォルシュ嬢なら、優しくしてやってもいい。

彼女の乱れる姿を見てみたい。


この会場でウォルシュ嬢に目を付けたのは俺とレックスだけじゃないのは視線を辿れば分かる。


あれだけの存在感なのに、学園で彼女の噂など聞いたことがない。

そういえばアラン殿も見かけたことがなかったな。


平民の通っている学校にでも通っているのか?


それでも探し出してやる。




彼女は俺のものだ。

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