戦に果てた豪傑。今度は優しい世界で生きて行きたいものだが?
うらの何某
第1章
第1話 戦に果てた
……もはや……これまでか。
俺は今にも雨が降りだしそうな灰色の空を見上げた。
砂地の大通りの所々が黒く濡れ、生臭い鉄の匂いが立ち込める。身に纏う大鎧からは何本もの矢が生え、手にする大太刀には刃こぼれが見える。
……それにしても広い空を見上げた後に地上を見返せば何という惨状だろうか。曇り空なのが助かった。もし晴れていたら天におわす女神がこの地獄を見て、それを作りあげた俺に直ちに天罰を下しただろう。
せめて弓と馬さえあればと悔やむのは止め、俺は最期の力を振り絞り怒号した。
「どうした?……どいつも
御所で会合を終えて一人で歩いて帰る途中に、いきなり千を超える手勢に襲撃された。当初は数を頼りに掛かって来ていたが2~30も倒すと下がり始め、今は遠巻きに矢を放ってくるばかりとなっていた。
「誰か骨のある奴は居ないのか!所詮は
再び大声を張り上げたのはいいが、御所へと続く大通りがぐるぐると回り始め、呼吸をするのもやっとだ。だが何故か体の痛みが薄れてきているのだけは幸いだ。
「何を!なんだと!……我こそは新たな執政のぐぎゃっ!」
馬上で薙刀を振りかぶり向かって来た派手な甲冑を、今や持つのがやっとの筈の長年愛用の大太刀が、勝手に動いて馬ごと叩き割った。
……
……ん?こいつは……あの裏切り者の弟だったか?最期に一矢は報いたか?……いや、奴の未来の政敵を始末してやっただけだろうな。
「……ひいっ!!……無用に近づくな!……もっと射れ!……矢を浴びせろ!!」
まあ今更どうでもいい事だな……優秀な若者だと思い身分も気にせずに登用し目を掛けたが、ああまで恩知らずで出世欲しか持たない者だとは思いもしなかった。
ああ面倒だ……ただひたすらに武芸を鍛え、家族や一族を守る事だけを想い戦い続けた日々が懐かしい……国の中心での権力なんか要らなかった。
……
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