ep.17 宝箱? チャーム以外興味ないっす!

 ところで、もう夜が明けそうだな。



 この世界の時の流れは、とても早い。

 現実の地球基準でいうと、ここの1日は現実の20分だ。体内時計混乱不可避。


 さて、そんな日の出が迫っているとなると、問題がほかヒト型の種族たちである。


 「あらやだ! もう帰らないと!!」

 「陛下! 我々はお先に失礼します!!」

 と、ドワーフ族は急いで建築資材を置き、すたすたと森の奥へ走り去っていった。


 「あらぁ、もう夜明けね。結局今日もオールして、今から農作業だわぁ」

 「まぁいいだろぉ~。ヒック、ソースラビットたちのエサやりの時間だぞぅ~」

 と、ハーフリングは少し酔っ払いながらも、手にくわや種をもって平地へと歩いていった。


 そう。彼らは陽が昇ると、ともに大人しく元いた場所へ戻る所が、共通しているのだ。




 こうして、この噴水前に残ったのは僕たち、人間の5人。

 サリイシュの2人は先に帰宅しているので、今いるのは異世界人だけである。


 「さて。この後の予定だけど、アキラいけるよね? 海での探索」


 早朝。アゲハは何を思ってか、ここで気を引き締め、東の方角へと歩いた。


 「うん。確か『土に埋まっていたなら、海中にも沈んでいるだろう』理論。だっけ?」


 と、僕は思い出した表情でアゲハの後を追う。アゲハは頷いた。

 「そう。リリーにとっては不謹慎な案になるけど、先の前例をみてしまった以上、もうどこにチャームが転がっていたっておかしくない。かつ、この星には昔から多くの文献や、宝物の地図が存在していて、今回はその中の1つへ向かおうと考えている」


 「ふむ。つまり、これから海へ行って、クリスタルチャームがないか探るために潜ると」


 「そういうこと。先人が残してきた謎を解き、少しでもチャームの発見に繋がればいいなと思ってて… あれ? そういえばあの2人」


 と、ここでアゲハの目に留まったもの。

 それは、リリーとルカが会話をしている姿だ。だけど、何だか神妙な空気。


 特に、リリーの方が少し戸惑っている様子が見受けられた。


 少し離れているから、会話の声は聞こえないけど… ルカが、励ましを送っている?


 「誘おう」


 アゲハがそう提案し、リリー達の元へ歩いていった。


 …今は、深く考えたって仕方がない、という事か。

 僕はアゲハのエスコートに従い、気を取り持ったリリーとルカ同伴で、海へと向かった。




 ――――――――――




 海はとても穏やかで、美しく澄んだ青緑色をしていた。

 非常に透明度の高い、絶景のビーチだ。現実世界ほど文明が進んでいないアガーレールで、これだけゴミ一つない綺麗なビーチにお目にかかれるのだから、幸運である。

 ところで、


 「これだけ綺麗だから、誰かが海水浴や釣りをしていても、おかしくない気がするけど」


 僕は問う。するとアゲハの答えは、


 「『母神ははがみ様の逆鱗に触れるから』――と、先住民は昔から誰一人海に入ろうとしなかった。だから、この国には泳げる住民がいないんだ」


 である。

 こんなにキレイな海に、入らないなんてもったいない! なんて最初は思ったけど、もしかして水質的な問題があるのか?

 と思い、波に打ち付けられる海水に触れたが、特に現実のそれと変わらない様であった。


 普通に塩っぱいし、おかしな臭いもない。ちょっぴり磯臭さが漂うくらい。


 「よっと」

 ♪~

 アゲハがここで、広げた地図を持ったまま、背中に透過性のある蝶の翼を生やした。

 そして、助走をつける様に飛び立つと、その宝箱が沈んでいるらしい場所まで浮遊し、羽ばたいたまま僕へと手を振ったのであった。


 「ここだよ! ここまで泳いできてー! アキラが海に潜っている間に、私は近くに危険な魚が泳いでこないよう虹色蝶で誘導するから、今のうちに!」

 「…わかった!」


 僕は服を脱いだ。

 もちろん、パンツはちゃんと履いている。

 アゲハが蝶の羽根で浮遊している地点まで、泳ぐのに少し距離はあるけど、まぁ仕方がない。身長148cmの(胸以外は)小柄な女王様に、僕のような体重64kgの男を背負って沖合まで飛んで運ぶなんて、流石に無理があるからね。




 こうしてアゲハの真下、問題の沖までクロールで泳ぎ切ったところ。

 「はっ!」

 僕は心の中で呪文を唱え、目の前に5m四方の大きく棘々したガラス玉を生成した。


 このガラス玉は、いうなればリリーの黒百合ガラスを、テープボールのようにぐるぐる丸めて1つの巨大な球体にしたもの。

 ガラスは、水の2.5倍重い。

 だから、そいつの重さを利用して、僕もしがみ付いて一緒に底へ沈もうという寸法だ。


 ブクブクブク~


 すると僕の予想通り、大きなガラス玉は泡を立てながら、グングン底へ沈んでいった。

 僕も球の中の一房に掴まっているから、下へ引っ張られる様に下降していく。

 わざわざ海底まで泳いでエネルギーを消費するより、遥かに効率的な移動方法だ。


 ドーン…!


 ガラス玉は、すぐに海の底へと到着した。

 僕はすぐにそれらをフェードアウトさせ、早速宝箱がないかを探す。すると…


 ――あった!


 地図をみて、アゲハが予見していた通り、サンゴ礁の一角にその宝箱はあった。

 僕はそれを開けようと、泳ぎにいったが… あれ? その奥の、また別のサンゴ礁の中から、何かが光ってる?



 ――あれは、チャームじゃないか!!


 まさかの! 宝箱の中ではなく、その隣のサンゴに、目的のものが引っかかっていたのだ。

 チャームのロゴは、見た感じクラゲ… じゃなくてメンダコ。


 ということは!? このチャームの中の人は、人魚に変身できる“あの御方”か!




 ――よし! ここの宝探しの続きは、あとで解放した人魚ちゃんに任せようっと!

 ――てゆうか、これ以上潜ってると息が出来なくて死ぬー! 僕は先に離脱だぁー!!




 僕はすぐさまチャームを持って、心の中で“にんにん”を唱えた。


 海底の砂地から、大量の巨大カサブランカを魔法で発芽させる。

 それらを束にして掴み、根本を切って、僕もチャームも一気に浮上していった。

 植物に含まれている空気と、元々の比重の軽さを利用した、これまた効率的な移動方法。




 ザッバーン!!

 「ぶはぁ…!」


 無事、海面へと浮上できた。あ゛ー、生きてるって感じがする。

 アゲハが、空を飛んでいる真上からこちらを見ていた。


 「アキラおかえり! 収穫はあった?」

 「あったー! クリスタルチャーム、ったどー!!」

 「うそ!? 他に何か転がってなかった?」

 「宝箱があった!」

 「そうか。開けて中は確認してみた?」

 「そんな余裕ないから見てない!」

 「えぇ!?」


 なんてやりとりが海上で木霊しているが、一番欲しいものが手に入ったのだから、ヨシとしよう。

 僕はカサブランカをフェードアウトさせ、元のビーチへと泳いでいったのであった。


(つづく)

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